(本記事は、野呂泰史氏の著書『金持ち社長のお金の残し方・増やし方〜売上を下げて、資金を増やす経営〜』ぱる出版の中から一部を抜粋・編集しています)

中小企業と大企業の違い

借入
(画像=William Potter/Shutterstock.com)

●個人保証が生む真実

株式会社である以上、会社の所有者はいうまでもなく株主です。企業規模の大小にかかわらず、例外はありません。

しかし、大企業(公開企業)の経営では「所有と経営の分離」といい、社長(社長)は所有者(株主)のコンセンサスを取らねばなりません。そのため、社長の経営手法は株主から評価され、業績が悪化すればクビになります。

しかし、大企業は辞めることで、個別で投資している分以上に社長が負債を背負うことはありません。

中小企業は、その点が大きく異なります。経営者が株主でもあり社長でもあるからです。

すべて社長一人の判断で会社を動かすことになります。そのため、判断を誤ると社長職や名誉だけでなく、社長個人の財産も失います。さらに、債権者に責められ、ドラマで見るような夜逃げや自殺が現実に起きるのです。

当然ながら、資金調達の方法も大企業は株主からの投資により賄われていますが、中小企業は銀行からの借入です。そのとき、オーナー社長の個人保証に加え、社長の自宅と土地も担保にしなければ融資をしないと言われることもあります。

大企業も銀行から資金を借りることはありますが、社長個人の保証、個人資産を担保にすることは法律で禁止されており、罪に問われることになります。

●社長が個人保証した借入金を妻へ請求された悲劇

借入金の個人保証の怖さを示す事例を紹介します。

数年前のことですが、社長(55歳)が心臓病で突然死するという事件がありました。葬式が終わり、残された家族が悲しみに暮れるなか、自宅に銀行の支店長が訪問してきたそうです。社長夫人は弔問に来たのだと思い、招き入れます。

しかし、支店長の目的は弔問ではなく、個人保証をした借入金の返済の相談でした。社長夫人は会社の経営に関わっていなかったため、借入金がいくらあったか知る由もありません。支店長が提示した融資契約書を見ると、その金額は3億円……。社長夫人は腰が抜けるほど驚いたそうです。

思わず「30万円ではないのですか?」と聞き返したほどですが、支店長は桁を指さし、確認します。「1、10、100、1000、1万円、10万円、100万円、1000万円……」。数字を数え終わると、悲しみの涙が次第に怒りの涙に変わっていきました。

支店長の「奥様、この借入金を返済していただくか、それとも奥様が事業承継するかを決めてください」という申し出も、不幸に追い討ちをかけました。ご主人が、会社の所有者として残したのは財産ではなく負債なのです。サラリーマンならこんなことにはならなかったのにと思った瞬間でした。

結局、サラリーマンをしていた25歳の長男を代表者にして承継しましたが、半年後には社長である長男を支えるはずの役員が、協力どころかイジメのような行為を始めます。最後は心が折れて精神科に入院、承継からわずか1年足らずで会社は倒産しました。

●借入が多ければ事業承継もできない

一般に会社は、資金が回っている間は資金に無関心ですが、銀行融資ストップ、売上債権が回収不能になって初めて、本当の恐ろしさに気づくのです。実は、経営のすべての資源は資金です。その資源を活かすという発想で経営しなければ、経営は失敗します。

最近私がお会いした会社では、事業承継する予定の後継者が会社の借入金の多さを見て驚き、事業承継を拒否したという事例があります。社長は、負の承継に対してもっと真剣に向き合わなければならないと強く訴えたいところです。

父親である社長が亡くなると、後継者候補を取り巻く環境は一変します。悲しみに暮れる間もなく、父が銀行に個人保証した借入金を承継しなければならない状況に追い込まれるからです。債務が多い会社の社長には、一日も早く借入金を返済して無借金経営にしなければならないと訴え続けています。

幸いにも、近年の資金研修会では、親子で参加する会社が増えています。そうした会社の1つで、研修会中に面白いことが起きました。

研修開始時は、親子が互いに顔も合わせず、今にも火花が飛び散りそうな様相でした。しかし研修が進み、自社の資金改善報告書が手渡されると、少しずつ変化が生まれました。報告書には現状の自己資金が記載されています。

現預金が2億円あって借入金が4億円、つまり現預金よりも借入金が多い状態です。さらに、自己資金が3年前と比べて1億円も減少・悪化しています。

借入金と現預金の比較、現在の経営が資金を減らし続けている事態に、後継者は深刻な表情になります。

後継者「俺は、この借入金を承継するのか。とんでもないことだ」
社長「これでは、息子に承継させるのはかわいそうだ」

資金という共通言語により、その後2人は初めて本音で語り合い、それからはそれぞれの役割を決めて、現在は一緒に資金を増やす経営に取り組んでいます。

●財布は一つになる

会社によっては、社長の給与が社員の給与以下のところもあります。資金がないからやむを得ないと言えますが、とても気の毒なことです。その一方で、「節税」という目的から、高額な役員報酬を取る社長もいます。

私の目には、役員報酬は融資先に返済する預かり物、赤字で資金不足になれば返金する預かり物のようにも見えます。会社が資金難に追い込まれると、社長自身の預金を会社につぎ込むからです。個人保証をしているため当然のことです。

中小企業では、オーナー社長が個人保証をした瞬間に、実質的に個人の財布と会社の財布は一つになります。私の考えは、財布が一つになるのだから、社長は役員報酬を好きなだけ取れば良いというものです。社員の目を気にしたり遠慮したりする必要はないと思います。

その代わり、報酬が取れないときはゼロになることもあり得ますし、自己の預金をつぎ込むこともあります。つまり、役員報酬は儲けた利益処分として、すべて社長の責任で支給額を決めればいいのです。勤務時間8時間で働く社員と、24時間年中無休で働く社長とでは無限の格差があるのですから、当然のことです。

金持ち社長のお金の残し方・増やし方〜売上を下げて、資金を増やす経営〜
野呂泰史(のろ・やすし)
1978年生まれ。北海道札幌市出身。税理士。2018年より札幌観光大使就任。昭和62年創業のNBCグループ(NBCコンサルタンツ㈱、NBC税理士法人、NBC資金を増やすコンサルティング㈱)代表。グループ社員数約150名。会計監査、本社管理部責任者、採用コンサルティング事業責任者などを歴任し、現在はグループ各社・経営全般の舵を取る。二代目として創業者の「税理士・会計事務所は社長の真の参謀でなくてはならない」という思想を受け継ぎ、企業改善に真っ向から向き合うコンサルタントを育成中。また、自らもクライアント企業をめぐり経営の実態把握に余念がない。真摯で丁寧な対応は多くの社長から支持を受けている。

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