(本記事は、野呂泰史氏の著書『金持ち社長のお金の残し方・増やし方〜売上を下げて、資金を増やす経営〜』ぱる出版の中から一部を抜粋・編集しています)
金持ち社長と貧乏社長の違いとは
資金の勉強会を全国で開催していると、さまざまな社長が相談に来られます。たとえば、売上高が数百億円規模で、潤沢な資金力を誇る金持ち社長がいます。一方、赤字で来月の資金繰りにも苦慮している社長や、半年間も社員に給与を満額払えず、給与の遅延が慢性化している貧乏社長も参加しています。
同じように資金を増やしたいと思っていても、どうしてこれほど大きな差がついてしまうのでしょうか。資金を2億円増やした社長も、資金が増えない社長も、与えられた時間は等しく1日24時間です。金持ち社長は、貧乏社長よりも100倍長く働いているわけではありません。
そこには、業種や業態を超えた社長の厳しさ、主体性の差が表れているように感じています。
これまでお会いしてきた「貧乏社長」には、共通点がありました。
真面目で一生懸命仕事をする、「努力の鬼」のような社長が、資金の増やし方がわからないために会社をだめにしています。真面目に仕事をすることが、必ずしも事業の成功にはつながらないのですが、そう妄信し、「働きバチ」のように日夜飛び回っている社長があまりにも多いのです。
利益を上げること=資金を増やすことと思っている社長が多いのですが、実はこの2つはまったく違います。
極端な事例ですが、毎期継続的に「億」単位の利益を計上している会社が「突然、消える(倒産)」ことが現実にあるのです。これは、資金を増やすためには、利益を増やすのとはまったく違う経営が必要であることを示しています。
金持ち社長と貧乏社長の格差は、圧倒的に「資金の増やし方」の格差です。利益の格差ではありません。
金持ち社長と貧乏社長とを分ける格差が歴然と存在し、なるべくして金持ち社長となり、なるべくして貧乏社長となるのです。この差は「資金」に対する考え方、いわば資金重視の経営ができているか否かの違いなのです。
金持ち社長と貧乏社長の違いとして、特に重要な点をまとめました。
この格差がズバリ資金格差を生んでいるのです。
金持ち社長は資金を重視し、貧乏社長は売上を重視する
会社経営のコツは、いろいろあるでしょう。しかし、いかにもっともらしいことを言っても「資金」を抜きに経営は語れません。
資金が増えれば社長の勝ち、資金が増えなければ社長の負けなのです。
会社は、資金がなくなれば倒産します。社長の命の次に大事なものが、会社の「資金」なのですが、そこを多くの社長は理解していません。人間でいえば「心臓」や「血液」にあたる資金を重視し、資金中心の経営をするのは当然といえますが、貧乏社長は経理任せ、会計事務所任せで経営をしているのです。
そして、売上だけに目を奪われて、何か問題があるとクレーム対応に追われます。目の前の業務に追われ、資金という大事な経営資源から逃げているのです。
たとえば、毎月、業績資料として使っている試算表があります。貧乏社長は損益計算書の売上や利益ばかりを見ています。金持ち社長は、損益計算書ではなく貸借対照表を見ています。特に、重視しているのは「資金(現金および預金)と借入金」です。売上が上がっても、利益が出ていても資金が増えていなければ、会社経営を継続することはできません。家賃や人件費は利益で払うのではなく、資金で払います。資金がなければ払えないという当たり前の理屈を金持ち社長は理解しているのです。
このような会社がよく相談に来られます。
3年前に年商5000万円だった会社で、そのときの借入金は500万円でした。その後、売上が3億円に増え、同時に借入金も増えます。当時2人だった社員も20名になりました。
会社は大きくなりましたが、経営状況はどうでしょうか。会社経営が楽になったかというと、そうではありません。社長はさらに拡大するために、売上を上げようとして自分の時間を犠牲にし、借入金が増えて大きなストレスを抱えながら働いているのです。
売上の規模、多額の借入金、社員の数……。苦労も重くのしかかります。社長は一体、いつになったら楽になれるのでしょうか。
3年前に、「あと3年で借入金がゼロになる」と思っていたものの、売上の拡大でさらなる借入金が必要となり、会社も社長も一向に楽にはなりません。売上を追い求めると、社長は売上を上げる幹部・役員に遠慮するようになります。そして、何年経過しても借入金は減らず、運転資金が不足するという事態に見舞われます。
追加融資を受けるには社長の個人保証を求められ、こうなると負のスパイラルが加速し、社長の苦労は増え続けます。
これでは、籠の中のネズミが一生懸命に走って回し車をグルグル回し続けているのと同じです。借入金が返済できない会社は、こうしていつまでたっても資金不足から抜け出せない状況が続きます。社長は疲れ果て、ストレスを抱えながら、銀行のための「ラットレース」に嵌ってしまっているのです。
※ラットレースとは、働いても働いても日々や、その月の支払いのために働き続ける社長の姿を、回し車の中でグルグル回っているネズミに例えた言葉です。やりたいことは多いのに、資金はすぐ支払いに消えて、翌月も同じことの繰り返しというサイクルに囚(とら)われているため、来る日も来る日も働き続けなければならず、口をついて出る言葉は「資金さえあれば……」という状態を指します。
売上至上主義の末路
多くの社長は、創業時から「売上をすべての価値基準」にして経営しています。「攻撃は最大の防御」と妄信し、売上を上げるために迷うことなく投資します。
金融機関から融資も受けて、必ず儲けて成功すると信じています。
今まで付き合ったことがないような大企業と取引の機会があれば、迷うことなく乗ってしまいます。厳しい取引条件を提示されても、(大企業との取引なので)銀行が融資をしてくれ、回収が間違いないからです。
その結果、見積もりや納期、品質検査、アフターサービスといった厳しい条件に従わなければならなくなり、やがて経営は火の車になっていきます。それにもかかわらず、社長は業界の成功者としてのステータスを求め、「我が社は一流企業から認められた」と口癖のように自画自賛し、裸の王様状態になっていくのです。
こうした事例は多いのですが、特によく見られるのは製造業です。大企業の孫請け/下請け会社として、(大企業の)工場の片隅で作業する零細な会社を思い浮かべてください。
生かすわけでも、殺すわけでもなく、設備投資の借入金があるため撤退すらできず、突然、来月から単価を10%カットすると言われても断れず、利益の出ない仕事でも休日を返上し、深夜まで残業しながらこなす毎日……。これは悲惨です。
社長は、いくら働いても労働基準法に抵触することはありませんが、長く続けていればいずれ体力の限界がきます。体調を壊してしまい、廃業への道を進むことになります。このような会社の社長が資金相談に来ても、解決の糸口さえ見つかりません。
設備投資した借入金が重くのしかかるからです。
また、(大手)取引先1社とわずかな利益で取引する会社も同じような運命をたどります。主導権を完全に取引先に握られていて、どんな要求も呑まなければならず、資金は減る一方で、借入に依存してラットレースの道を歩んでいくのです。
資金が増えない会社の共通項
(1)自社の強みが何か知らない。 (2)現状のことでいっぱい。将来の夢・構想がない。 (3)同業者との差別化要素がない。 (4)取引先を選べない。
こうした会社に共通するのは、社長が数字に弱く、資金重視の経営をしていないことです。
貧乏社長は、売上を上げることしか考えていないので、それに時間を奪われ、実は資金の増加につながるような仕事はほとんどできていません。
社長同様、社員も資金が増えない仕事をしています。いくら時間をかけ、汗水垂らして「働きバチ」のように一生懸命仕事をしても資金は増えません。
売上に目を奪われ、売上重視の経営をしている会社は、「生きている」のではなく「息をしている」だけと言えます。
資金が回っている間だけ継続できているに過ぎないのです。
会社は資金が増えなければ誰も幸福になれませんし、全員が敗者と言えます。
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