(本記事は、野呂泰史氏の著書『金持ち社長のお金の残し方・増やし方〜売上を下げて、資金を増やす経営〜』ぱる出版の中から一部を抜粋・編集しています)
資金を増やす3つのステップ
利益率を改善し、資金を増やすことを体質化するための改革は、次の3つのステップで進めます。
ステップ1:資金を減らした赤字の犯人を捜す
先に述べたように、利益率が低い取引は資金・利益を減らす原因になります。利益率が低い取引でも、作業量や配送コストなどに大きな違いはありません。つまり、利益率が低い取引だからといって、人件費や経費が安く抑えられるわけではないのです。
結果、利益率が低い取引が増えれば運転資金が不足し固定費をカバーできなくなります。そのため、値上げをするか、利益率の高い取引を増やすか、利益率の低い取引先は取引を中止するなどの対策を講ずる必要があります。必要経費を細かく書き出し、その上で適正利益の確保を前提とした見積書の作成など、早急に取り組まなくてはなりません。
申し上げるまでもありませんが、資金を減らした犯人は社内におり、一番の問題は「儲からなくてもいい、売上を上げろ」という社長のメッセージ、そして社風にあります。それだけに、資金改善に向けた社長の強いリーダーシップが必要です。
ステップ2:利益率を高くする施策
資金不足の会社は、概して業績を社員に公開していません。人件費・経費・今月の借入金返済額、今の利益率をいくら改善すれば資金不足を解消できるのか……。社長自身が資金に関することを経理に一任し、理解していないケースが大半を占めています。
社長に利益率を改善する意識はなく、資金が足りなくなると「売上を上げろ!」と指示します。指示された社員たちは、売上確保のために利益率を下げてでも売上アップに注力するのです。これが悪循環を招くことは、ここまで繰り返しお伝えしてきました。ここで1つの事例をご紹介します。
【事例】 食品卸売業、5年間で自己資金1億円増!
NBCからこの会社の社員に、「利益率を高める方法は値上げだけではありません。良質で利益率の高い商品・サービスを提供することです」と提案しました。しかし、社員は「そんなことをしたら顧客が離れていく!」と猛反発。そこでまず、お客様に満足度アンケートを実施することにしました。
すると、多くのお客様から「土・日・祝日の忙しいとき、材料が不足する」といった声が寄せられました。この企業では「土・日・祝日は、同業者も配送をしていないだろう」との理由から、土・日・祝日の配送サービスは行っていませんでした。そこで、他社との差別化を図り利益率を上げるために、土・日・祝日の配送サービスを開始しました。
また、商品に関するニュースレターを発行し、そこで利益率の高い商品を紹介しました。
あわせて、その商品を用いたレシピやお薦めする際の説明の仕方などを掲載しました。
こうした取り組みが功を奏し、5年間で自己資金が1億円増えました。
【事例】 年商1億円、自己資金90万円だった会社が3年間で自己資金を5000万円増やした!
この会社は、大手の取引先からの受注をメインにしたサービス業です。ご縁をいただいた当時、創業から25年経過していましたが、自己資金はわずか90万円という状況でした。
社長は営業が苦手で、大手取引先からの受注に依存していました。資金が増えず困った 社長は、NBCに相談に来られました。早速調査を開始すると、驚くべきことが判明しました。すべての受注案件別の個別原価・利益を計算してみたところ、なんとその半分は経費を控除すると赤字だったのです。それでも受注していたことがわかりました。
改善策1:受注ごとに利益はいくらになるか、資金はいくら増えるかを明確化した。 改善策2:赤字になる仕事はしないことに決めた。
現行の見積もりの仕方を改め、作業を細かく記載して利益率を高めた。
弱腰の社長に対しては、「これまでの関係性があります。そう簡単に取引を打ち切られることはありません」「仮に、それで取引を打ち切られるようなことがあれば、新規先を探せば良いのです」と、背中を押し続けました。適正な利益を確保しなければ会社は存続できないことを繰り返しお伝えし、改善していきました。
その結果、初年度で利益率が20%アップし、自己資金2000万円増、3年間で自己資金が5000万円増えました。
売上を優先して資金不足に陥った会社によく見られる見積書は「○○一式いくら」と、事前に決められた取引先からの指示価格に合わせたと思われる金額を記載しているものです。これでは絶対に儲かりません。取引ごとに材料費・販売管理費・借入金返済額などを考慮し、必要利益を計算して見積書を作成すべきです。
ステップ3:自社の強みを活かした営業展開
次のような現象が発生したら、経営の仕方を見直さなければなりません。
・残業が多い ・資金が増えない ・労働分配率が高い ・営業利益率が低い
【事例】 売上の70%を大手取引先が占めていた会社
「忙しいのに、なぜ資金が増えないのか。儲からないのか。なぜ、残業が多いのか……」と思い悩まれている社長に、追い討ちをかけるような出来事がありました。元社員から労働基準監督署を通じ、未払残業代250万円の請求が届いたのです。結果、250万円を支払った社長は激しく落ち込み、廃業することも考えられていました。しかし、今の借入金は返済できそうにない状態です。
そんな折、NBCの【社長のための資金と人を活かす研修会】を受講されました。そこで、「資金不足=売上拡大=利益率低下・残業増加=儲からない」構造を学ばれ、事態を打開すべく資金改善に立ち上がったのです。
まず、利益率を高めるためにどの会社と取引をするかの検討からスタートしました。社長の出した結論は、それまで大手取引先を優先するあまり断ってきた、利益率が高い手間のかかる小さな会社と取引をすることでした。
社長が営業の先頭に立ち新規開拓に挑戦した結果、売上は20%ダウンする一方で、当時24%だった利益率を32%に改善させました。そのことから仕事量は減りましたが、利益と資金が増えました。もちろん、悩みの種であった残業も大幅に削減できました。
社長は「なぜ、このことに早く気づき行動に移すことができなかったのでしょう。悔やまれます。しかし今は、毎月確実に資金が増え、社員は早く帰宅します。これほど嬉しいことはありません。最高です」と手紙をくださいました。
資金改善に成功した会社の多くは、自社の強みを活かして利益率を高めて仕事量を減らし、その結果、大幅に資金を増やしています。
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