大体が上手くいかないから、ちょっとしたことでも嬉しい

楠木 だからってわけじゃないですが、自己革新とかいう人は、あまり好きじゃないんですよね。もちろん、結果的にあのとき変わったっていうのは、誰しもあると思いますけど、手帳に自己革新を計画する人は僕は信用しないですね。「じゃあ今までのおまえは何なんだよ」っていう。何もないから変われるんだろうぐらいに思いますけどね。

オッサンの説教はいつの時代も変わらないわけですけれども。みんなうまくやろうとしすぎ。そんなうまい話はあるわけがない。多くの人がそれぞれの利害を抱えて生きている世の中です。そんなに自分の思い通りいくはずありませんから。絶対悲観主義が昔からの僕の信条です。1つもいいことない、絶対うまくいかない、もう自分の思いどおりになることなんて1個もないっていうふうに、わりと信じてます。15、16、17歳の頃から。

伊藤 早いですね(笑)。

楠木 とにかく事実としていいことなかったんで。ただ、やっぱり世の中にカラフルな人というのがいますね。自己認識が、自分はなんかこうイケる、自分は人から必要とされてるとか、好かれてるとかいう雰囲気が全身からにじみ出ている、そういう人っていますでしょう? それは本当に屈託なくて羨ましい。キラキラしていていいなと思うんです。生まれ変わったらそうなりたい。

――本当にそう思ってます?

楠木 思ってますよ。でも、自分は絶対に1個もいいことないっていうふうに思っていると何がいいのかっていいますと、ちょっとうまくいくと、すごい嬉しいんですよ。

――得ですね、なんか。

楠木 そうです、そうです。しかも、絶対うまくいかないと思ってるんで、ためらいがないですよね、やってみることに。どうせダメでもともと、やってみようと。挑戦するっていう人は、「挑戦してうまくやろう」、もしくは「挑戦した結果、成功しよう」と思って挑戦って言ってるんですけど、僕の場合は事前に成功っていうのがあまりないんで、挑戦っていう感じじゃないんですよ。とりあえずやってみる。でも、絶対に自分の思い通りになんていかないと思います。