成功体験に復讐されるくらいなら成功はいらない

――よく成功体験を積み上げることが大事だという話を耳にしますが、そういうのに関してはどうですか?

伊藤 体験を積み上げるのは大事なんだけど。体験が成功になるか、失敗になるかはやってみてしかね、わかんないですからね。

楠木 成功ね……、あまり自分でこれ成功したと思ったことはないですね、振り返っても。たぶんスポーツ選手だったら金メダルとか……、これは明らかな成功なんでしょうけど、そういうような仕事でもないし。会社で業績がバーっと伸びたとか、そういう経験もないし。あまり成功っていう実感がないですよね。

前ね、いろんなアスリートの方と話していて、成功体験からの復讐っていうのが重要なテーマで、本当にみんな一流のアスリートは苦しいものであると。とくに引退してからの生活が、アスリートとしての成功に復讐される面があるみたいな話題がありましてね。そのとき、つくづく思ったのは、「じゃあ成功しなきゃいいじゃん」っていう。成功してなかったら、成功体験の復讐もないよねって。「復讐できるんだったら復讐してみろ」ぐらいの。そのほうがむしろ、自分にとっては気楽ですよね。

伊藤 確かに、そうですね。だから、周りから褒められても「いやいやいや、俺はまだ何もやってねぇし」みたいな感情を持ってるくらいがちょうどいいのかもしれないですね。

――「これが成功だ!」ってゴールを設定して、達成しちゃった人ほど後々苦しそうですね。