絶対悲観主義を突き抜けてようやく自信が生まれる
楠木 あと、もう1つ絶対悲観主義のいいところは、傍から見ると謙虚であるかのように見えるんですよ。本当は全然謙虚じゃないんですけど(笑)。
――便利ですね。
楠木 ええ、傍から見ると、謙虚であるかのように見える。例えば、自分に都合よく考えないので、時間に遅れたりしません。必ず相手よりも前に入ってるから。遅れると、二度ともう相手にされないのかなと思うので。
翻って、嫌なのはお誕生日ですね。お祝いをみんなで集まってしてあげましょうって。もうね、その場でハッピバースデーとか言われてると、「えっ、僕の事?」ってね。もうね、嫌なんですよ。人からよくしてもらうとかがね、身体でうまく受け止められないんですね。いいことがなかったんで。慣れてないんですよ、幸せに。
――そういうことなんですね。
楠木 でもね、そういう場で、ありがとうって自然に言える人、いますでしょう。あれ、純粋に羨ましいなと思うんですけどね。僕は「すぐに解散しなくていいんですか? 皆さん、お忙しいと思うんですけど、僕がお金全部払いますから……」みたいに、思っちゃうので。
伊藤 なるほどね。
楠木 ひとことで言うと、かなり歪んでるなって。「おまえ、よっぽど辛いことあったんだろうな」っていう。ないんですけどね、べつにそんな辛いことも。ただ、根がそうなんでしょうね。
だから若い人で、根拠のない自信を持ってる人と出会うと素晴らしいなと思います。僕の場合の自信は、常に絶対悲観を突き破って入って来るんですよ。ダメだろうなと思ってやって、結構うまくいった。意外だなと。次にやったら、またうまくいった。次やって、ますますうまくいったりすると、「あれ、うまくいかないはずなのにおかしいな……」となる。で、これは向いてるのかなという自己認識が出てきて、ようやく自信になる。
伊藤 事後的ですよね。
楠木 はい。
楠木 建(くすのき・けん)
一橋大学大学院教授
1964年、東京都生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学商学部卒、同大学院商学研究科修士課程修了。専門は競争戦略とイノベーション。著書に『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)、『「仕事ができる」とはどういうことか?』(宝島社)などがある。
伊藤羊一(いとう・よういち)
ヤフー〔株〕 コーポレートエバンジェリストYahoo! アカデミア学長
〔株〕ウェイウェイ代表取締役。東京大学経済学部卒。グロービス・オリジナル・MBA プログラム(GDBA)修了。1990年に〔株〕日本興業銀行入行、2003年プラス〔株〕に転じ、201年より執行役員マーケティング本部長、2012年より同ヴァイスプレジデントとして事業全般を統括。かつてソフトバンクアカデミア(孫正義氏の後継者を見出し、育てる学校)に所属。孫正義氏へプレゼンし続け、国内CEO コースで年間1位の成績を修めた経験を持つ。2015年4月にヤフー〔株〕に転じ、次世代リーダー育成を行う。グロービス経営大学院客員教授としてリーダーシップ科目の教壇に立つほか、多くの大手企業やスタートアップ育成プログラムでメンター、アドバイザーを務める。著書に、『1分で話せ』『0秒で動け』(ともにSB クリエイティブ)がある。(『THE21オンライン』2019年12月26日 公開)
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