株式投資家にとって欠かせないのが税金に関する情報だ。利益を得ても税金の仕組み一つで手取りが変わる。特に株式譲渡益や配当に関する税制は昨今目まぐるしく変化しており、最新情報を入手する必要がある。
株式譲渡益への税率が25%に引き上げられる可能性が浮上……なぜ ?
数年前からメディアでは、税制改正で株式等の譲渡益への所得税の税率が20% (復興特別所得税を除く) から25%に引き上げられる可能性が取りざたされていた。今回の税制改正では見送られたものの、今後の引き上げの可能性がゼロになったわけではない。背景にあるのは消費税増税だ。
消費税の税率が高くなるほど、低所得者の負担が大きくなるという懸念があるとされている。日本では年間所得金額に1,000万円の差があったとしても、よほど華美な生活をしなければ毎月の生活費にそこまで大きな差は開きにくい。となれば低所得者ほど、所得に占める生活費の負担割合が大きくなるという見方もできる。つまり消費税率を引き上げると、低所得者の負担が大きくなる逆進性が生じるという主張だ。
この状況を解消し、公平な課税を実現しようと試みる施策のひとつが、株式譲渡益課税を含めた「金融所得課税の強化」だ。2017年の国税庁の申告所得税標本調査を基にした分析結果を見ると、所得金額が1億円を超える富裕層ほど実は税負担率が低くなっている。合計所得金額が5,000万円から1億円の層の税負担率が28.5%と最も高く、より所得額が増えれば増えるほど税負担率が下がっている。金融所得課税強化論者からは「富裕層は株式譲渡益への課税率20%を利用して、本来適用されるべき45%の所得税率を免れている」という指摘がなされているのだ。
つまり「課税の公平を実現すべく、消費税増税をしたなら金融所得も課税強化せよ」ということである。
実際には「合計所得800万円以下の投資家」が多い
ただ、この分析については別の見方もある。金融所得課税強化に反対する層からは次のような指摘もなされている。「人数で言えば、所得額が1億円を超える超高額所得者はごくわずかだ。納税者の多くを占めるのは年間の合計所得金額が800万円以下の層だ」。合計所得金額800万円以下の層にも少なからず投資家はいる。また、彼らの所得税負担率は住民税と併せて20%程度だ。つまり「金融所得課税を強化することで彼らの株式への投資意欲が冷え込むおそれがある」というのが課税強化反対論者の意見なのである。
戦後から平成までは、証券への課税は緩和的な傾向だった
そもそも、株式を含めた証券への課税はこれまでどうなっていたのだろうか。戦後間もない1947年は株式譲渡益や配当への課税は、現在と異なり総合課税 (累進課税) が適用されていた。しかしその後、徐々に課税の手が緩められていく。1948年には配当控除制度の創設、1953年には株式譲渡益については原則非課税とされて以降、昭和においては比較的課税は緩和されていた。
しかし平成になってから再び証券課税は強化された。1989年に株式譲渡益が原則課税 (分離課税) になった。2003年から2013年までの間に株式譲渡益・配当の一部に10%の軽減税率制度が適用されたが、2014年には20%の本則税率に戻された。そして、数年前から、「証券課税の税率は25%にすべし」という議論がされるようになったのである。
諸外国の投資にかかる税金はどうなのか
「それでも累進課税の最高税率55% (所得税及び住民税) に比べて分離課税20%の税率は低いから、証券投資は得している」と思う人もいるかもしれない。ただ、諸外国の投資税制と比較すると「証券投資の税率は低い」とは言い切れない。
日本は20%の申告分離課税で統一されているが、米国は株式譲渡益への連邦税の税率を0%、15%、20%と段階に分けて株式譲渡益に課税し、これに州や地方政府の税を加える方式を採用している。英国は10%、20%の二段階の税率を適用している。フランスにおいては、30%の税率による分離課税と17.2%~62.2%の間の税率による総合課税のいずれかを選択して申告することになる。
概観すると、必ずしも20%の税率が低いとは言い切れないのである。場合によっては米国や英国の税率のほうが低いようにも見える。ただ、日本は諸外国にくらべて課税方式が簡素であるため、一般投資家には理解しやすいというメリットがある。
税金は投資の利益を左右する。怠りなく情報収集を
2017年税制改正により、上場株式等の配当所得や譲渡所得については、所得税と住民税とで異なる課税方式を選択できるようになった。結果、課税所得額が900万円以下の人は所得税を総合課税・住民税を申告不要とすることで納税金額が低くなるケースもある。
税金は株式などの投資の利益を大きく左右する。今後の税制改正の動向にも注意を向けながら情報収集を行い、常にアップデートする必要があるだろう。(提供:大和ネクスト銀行)
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