法人は原則、従業員に課せられた住民税を給与から控除する形で預かり、代わりに自治体へ納めている。では、この住民税は社会保険料のように、会社が一部負担する必要はないのだろうか。本記事では、経営者が押さえたい住民税や特別徴収の基礎を解説していく。

住民税の2種類の徴収方法!「普通徴収」と「特別徴収」

住民税
(画像=PIXTA)

住民税とは、一般的に「個人住民税」を指す。個人住民税とは、都道府県に納付する都道府県民税と、市町村に納付する市町村民税(東京23区では特別区民税)という2種類の地方税を合わせたものだ。いずれも前年の所得に応じて、当年の1月1日時点に住所のある市区町村によって個人へ課税され、徴収される。

この住民税には、2種類の納税方法(徴収方法)がある。以下でそれぞれの特徴を見ていこう。

1.特別徴収

納税義務者である従業員などの給与から、事業主(給与支払者)が毎月住民税を差し引き、納税義務者に代わって市区町村へ納税する方法。会社員や公務員などの給与所得者は、原則そのすべてが特別徴収の対象だ。

・特別徴収のメリット

納税義務者にとっては、毎月給与を受け取るタイミングである意味“自動的”に納税する形になるため、納め忘れを防止でき、かつ納付の手間も省ける。また、後述する普通徴収では年間の税額を4回に分けて納税するのに対し、特別徴収は12回に分けて納税することになるため、税の負担感が少ない点もメリットだ。

・特別徴収のデメリット

特別徴収では、事業主が全従業員分の税金を代わりに納付するため、事業主側の事務手続きが増え、人事・労務担当、管理部門などの業務負担が大きくなりやすい。すなわち、手間や時間、言い換えれば「実質的なコスト」がかかっているといえる。

2.普通徴収

住民税を課されている個人(=納税義務者)が自ら直接、市区町村へ納税する方法。普通徴収の対象者に郵送される納税通知書・納付書をもとに、口座振替やコンビニ支払いなどで4回に分けて(6月・8月・10月・翌1月)納税する。

住民税の普通徴収者に該当するのは、特別徴収の対象である給与所得者に当てはまらない人だ。例えば、個人事業主や、企業などの退職者で次の就職先が未定である人などが挙げられる。

・普通徴収のメリット

市区町村によっては、クレジットカード払いで住民税を納付できるケースがある。このような自治体では、カード払いを選ぶことでポイントをためられる。

また、「前納報奨金制度」が設けられているケースがある点も、普通徴収の特徴だ。この制度は、1年分の住民税を第1期(6月)までに全額納めれば、報奨金分(住民税額の1%まで)が税額より差し引かれるというもの。わずかではあるが、利用すれば節税できるメリットがある。

・普通徴収のデメリット

特別徴収のメリットの裏返しになるが、年間の税額を4回 に分けて納める普通徴収は、1回あたりの納付額が大きくなり、負担感が強くなる。

また、納付が納税義務者個人にゆだねられているため、手間がかかり、納め忘れの恐れもある。納付期限を過ぎると住民税を滞納したとして督促を受け、督促状が発行された日から10日後までに完納しなければ、財産が差し押さえられてしまう(地方税法第331条)。

さらに前納報奨金制度も、現在では納税の公平性の観点から多くの市区町村で廃止されており、実質的に恩恵を受けられなくなっている。

住民税を天引きしても会社負担は不要!社会保険料や所得税との違い

特別徴収の仕組みを見てわかる通り、住民税は給与から天引きする形で徴収するが、会社が税額の一部、または全部を負担することはない。天引きした金額(=特別徴収した額の税金)を、そのまま納付すれば良いというわけだ。

従業員の中には、同じように給与から控除される健康保険料や厚生年金保険料と混同して、「住民税も会社に一部負担してもらえるのではないか?」と誤って理解している人もいるかもしれない。社内の正しい理解を促せるよう、住民税と同様に給与から天引きされる項目の仕組みについても、以下であわせて確認しておこう。

1.社会保険料

従業員の給与から天引きする項目のうち、会社負担が生じるもの。会社負担の割合や納付方法については、さらに2つのパターンに分けられる。

健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料雇用保険料
会社負担割合・保険料の半分・年度と会社の事業により変動

【例:2019年度、「一般の事業」の場合】
雇用保険料率0.9%のうち、会社負担分0.6%、従業員負担分0.3%
納付方法・従業員の給与(標準報酬月額)から前月分の保険料を天引きし、事業主負担分と合わせて、天引きした翌月末日までに納付・原則、年1回(6月1日~7月10日)に「労働保険概算・確定保険料申告書」の提出とともに納付(=年度更新)
・概算保険料額などの条件により、3回(7月、10月、1月)の分割納付が可能

※会社が全額負担する(=従業員の給与からは天引きしない)労災保険料と合わせて納付
納付先・全国健康保険協会管掌健康保険に加入している場合:年金事務所
・組合管掌健康保険組合に加入している場合:年金事務所と健康保険組合
・所轄都道府県労働局または所轄労働基準監督署

2.所得税

従業員の給与から天引きするものの、会社負担分のない項目。

会社(源泉徴収義務者)が、各従業員の毎月の給与をもとに概算した税額を天引き(源泉徴収)し、翌月の10日までに、e-Taxか所轄の税務署へ納付する。そして、年に1度、保険料控除や住宅ローン控除などを踏まえた正確な税額を算出して、天引きされてきた税額の合計との差額を精算するのが「年末調整」だ。

企業が従業員の代わりに税金を納める仕組みという点では住民税と同じだが、住民税は前年の確定した所得をもとに課税されるため、年末調整は行われない。また、新卒採用の従業員など、前年に収入がない場合には当年の住民税が徴収されない点も、同じ理由によるものだ。

住民税の特別徴収は事業主の義務。経営者が注意するべき4つのポイント

特別徴収には「会社側に事務負担がかかる」というデメリットがあるものの、そのことを理由に普通徴収を選択することはできない。

なぜなら、所得税の源泉徴収義務のある事業主(給与支払者)には、特別徴収が法令によって義務付けられているためだ(地方税法第41条、第321条の4、第328条の5第1項。厳密には、市区町村から特別徴収義務者として指定される)。2014年8月には、全国地方税務協議会(※1)が「個人住民税特別徴収推進宣言」を採択し、法令遵守の徹底が改めて確認された。

特別徴収した住民税の納付に不備がある場合は、ペナルティが科せられる場合もある。適切かつ確実に徴収・納付するために、業務を担当する人事・労務担当者や管理部門はもちろん、経営者も以下の4つのポイントに注意しておこう。

(※1) 東京都主税局長、道府県税務主管部長および政令指定都市税務主管局長を会員とする団体。税務行政を運営するにあたって自治体間で協力し、納税者の信頼に応える地方税制確立の一助となることを目的としている。

【ポイント1】原則、従業員や会社の都合で普通徴収に切り替えることはできない

「従業員の入れ替わりが多く、そのたびに手続きをするのは煩雑である」などの会社側の都合や、「従業員にとって普通徴収のほうがメリットがあり、社内で希望が出ている」といった従業員側の都合では、特別徴収から普通徴収に切り替えることはできない。

特別徴収を拒否し、その結果、納期限が過ぎてしまった場合は、地方税法に基づく滞納処分(財産差し押さえ)を受けることになる。また、納税義務者である従業員にも、納税証明書を取得できなくなるなどの悪影響が及ぶ場合がある。

ただし、特定の事情がある場合には、市区町村に「普通徴収切替理由書」を提出すれば、普通徴収に切り替えられるケースもある。認められる理由は市区町村によって異なるが、例として以下のようなものが挙げられる。会社側の事情がある場合は会社全体で、従業員側の事情がある場合は、該当する従業員のみ普通徴収に切り替えられる形だ。

会社側の事情従業員側の事情
・事業所の総従業員数(※2)が2人以下の事業所・他の事業所からの給与があり、そこから特別徴収されている人
・給与が少なく税額が引けない人
・給与の支払いが毎月でないなど、不定期な人
・退職者、または5月末日までに退職を予定している人(※3)

【ポイント2】役員、パート、アルバイトも特別徴収の対象

先述したとおり、特別徴収の対象者は、原則として会社で働くすべての給与所得者だ。正社員だけでなく、パートやアルバイトを含む点、従業員だけでなく役員も含む点に注意しよう。つまり、「非正規社員は普通徴収」「役員のみ普通徴収」といった対応はできない。

【ポイント3】従業員が居住する市町村ごとに納める

特別徴収した住民税は、納税義務者が居住する市区町村ごとに送付される納入書を使って納付する。本社がある市区町村に全従業員分を納めたり、事業所ごとに所在地の市区町村へ納めたりするわけではない点を押さえておこう。

【ポイント4】納期限の翌日から延滞金が科される

特別徴収した住民税を納期限までに納めていない場合は、翌日からペナルティとして延滞金が科せられる。督促状が届く前から延滞金が計算される点には注意したい。

また、「事業不振のため、納期限内を延長してほしい」という要望も認められない。特別徴収した住民税は、あくまで納税義務者から“預かっている”ものであり、そもそも事業資金に充てるべきものではないためだ。

住民税に関する業務負担を軽減するには?コスト削減にもつながる主な解決策

特別徴収は、住民税を確実に徴収するという税制上の意義は大きいが、そうはいっても会社にとっての業務負担は見逃せないものだ。毎月の納付があるだけでなく、年に一度、特別徴収税額を決定するための「給与支払報告書」を全従業員分作成・提出したり、決定した特別徴収税額を各従業員の毎月の給与に反映したりしなければならない。

住民税を納付する市区町村が複数にわたること、天引きする税額が従業員一人一人異なること、さらに市区町村とのやり取りの電子化が進んでおらず紙媒体ベースであることなどから、とりわけ時間と手間(=実質的な人件費)がかかりがちな業務といえる。加えて、ある程度の知識を要する業務であることから、教育コストがかさんだり、あるいは業務が属人化したりする恐れもある。社員数や異動件数が多い大企業にとっても、バックオフィスの人手不足が深刻な中小企業にとっても、悩ましい業務のひとつといえるだろう。

こうした住民税業務にかかる担当者の負担を少しでも軽くするために、経営者は何ができるだろうか。以下では、ぜひ検討したい解決策の選択肢を2つ紹介しよう。

1.アウトソーシングサービスの利用

1つ目は、住民税関連業務をアウトソーシングする方法だ。会社の従業員数が10名以上で業務量が増えてきた場合や、従業員数が10名未満でも労務・税務の専門知識を持つ人材が不足している場合に、この方法を検討するとよいだろう。

住民税業務のアウトソーシングサービスは、主に3つのタイプに分けられる。

【1】給与計算などの定型業務に加え、年末調整や住民税業務なども含めてトータルでアウトソーシングできるサービス
【2】給与計算のアウトソーシングを利用している場合に、オプションで住民税業務も外注できるサービス
【3】5月の住民税更新業務(※4)だけをスポットで外注できるサービス

(※4)市区町村から「特別徴収税額決定通知書」が送付され、税額を給与計算に反映させる業務。

実際にアウトソーシング先を選定するにあたっては、自社と同程度の規模・同業種の企業の業務代行実績があるか、セキュリティ対策や情報の取り扱いに問題はないかなどを、チェックしよう。特に住民税業務は従業員の個人情報を扱うことから、アウトソーシング先のセキュリティ体制には注意しておきたい。

また、アウトソーシングサービスの料金は、「基本料金+従業員単価×人数」によって決まるケースが一般的だ。基本的に従業員人数が多いほどメリットが高くなる仕組みであるため、コストに見合ったサービスが受けられるか、自社の従業員規模も踏まえて見極めたい。

2.ITツールの導入

2つ目は、住民税業務にITツールを導入する方法だ。住民税業務を内製化してコストを押さえつつ、社内にノウハウを蓄積しながら業務効率化を進めたい場合に向いている。

住民税業務をIT化する際には、基本的に給与計算ソフトの1機能を使うことになる。給与計算ソフトには、大別して3つのタイプがある。

【1】クラウド型給与計算ソフト(システム)
【2】インストール型給与計算ソフト
【3】オンプレミス型給与計算ソフト(システム)

特に中小企業では、低価格でピンポイントに導入可能な給与計算ソフトが重宝するだろう。中でも【1】のクラウド型給与計算ソフトは、「頻繁な法令改正にも、無料アップデートで自動的・迅速に対応できる」「データを自動でバックアップできる」といったメリットが支持されている。

これらのITツールを選定する際、機能や価格(料金)、セキュリティはもちろん、操作性やアップデートについてもチェックしよう。とりわけ住民税業務については、住民税更新業務など、年に一度しかない業務もある点に注意したい。例えば、操作性についていえば、担当者が1年ぶりに住民税更新関連の機能を使ったとしても、つまずくことなく操作できるだろうか。

先述したとおり、住民税業務をIT化するにあたっては、給与計算に関連する機能がパッケージ化されたソフトを導入するケースが一般的だ。検討時には無料体験版を使ったり、デモ画面を見たりすることになるが、その際には毎月の給与計算業務に使う機能以外についてもぜひ試しておきたい。実際の業務担当者に、過去の住民税更新業務を体験版で再現してもらうなどしておくと、使い勝手・使い心地をチェックしやすいだろう。

住民税の特別徴収を適切・正確に行うことが、会社の実質的な負担を軽減する

住民税の特別徴収では、従業員などの給与から会社が天引きして納めるものの、税額自体を会社が負担する必要はない。正確に徴収・納税し、会社としての義務を果たそう。

一方、人事・労務担当者や管理部門の事務負担は必ず生じることになり、実質的なコストがかかっているのも事実だ。住民税業務の効率化は、その正確性向上にも直結する。アウトソーシングサービスやITツールの活用も含めて、経営者は自社に合った対応策を検討したいところだ。(提供:THE OWNER

文・THE OWNER編集部