消耗品は、どの企業でも発生するおなじみの費用だ。そのため、正しい計上ルールを確認したことのある方は意外と少ないかもしれない。消耗品は、購入時に費用として処理できるかどうかが最も重要だ。今回は、消耗品の費用について解説する。
消耗品とは?
消耗品とは、会社の事務用品や備品など、業務に必要なさまざまな物品のことだ。文房具やコピー紙、事務所内の棚やイス、清掃用具、来客・従業員用のお茶やコーヒーなど幅広い用途の物品が該当する。
事務用消耗品費・備品消耗品費とは?
消耗品の会計処理は、購入費を「消耗品費」という費用の勘定科目に計上して行う。消耗品費は「事務用消耗品費」や「備品消耗品費」など、消耗品の種類によって使い分けてもよい。もちろん、これらを「消耗品費」として統一しても問題はないが、勘定科目を分けることでコストの分析がしやすくなる。そのため、消耗品費の額が多い会社の内部管理には有効だ。
10万円以上の消耗品に注意
消耗品費は会計上の費用になると同時に、税務上の一般管理費として全額が損金に算入される。しかし、中には全額を費用や損金とすることができないケースがある。それは、取得価額が10万円以上の減価償却資産を購入した場合だ。
減価償却資産とは?
減価償却資産とは、会社が保有する一定の固定資産のことだ。具体的には、建物、構築物、機械および装置、車両および運搬具、工具、器具および備品を指す。
これらは使ったらすぐになくなってしまうものではなく、何年、何十年という期間で会社の運営を支えてくれる。このような性質から固定資産に計上し、使用を開始したときから期間の経過とともに少しずつ費用にする処理を行う。これが、減価償却である。
つまり、減価償却資産は複数の事業年度にわたって、少しずつ会計上の費用や税務上の損金に計上していかなければならない。例えば、事務机やキャビネットは通常8年、金属製であれば15年をかけて減価償却を行うものになる。これらを消耗品として処理しないよう注意が必要だ。
しかし、少額な物品や使用できる期間が短いものまで、減価償却を行う必要はない。なぜなら「取得価額が10万円未満のもの」あるいは「使用可能期間が1年未満のもの」は、その全額について使用を開始した事業年度の損金に算入することができるからだ(法人税法施行令第133条)。
このルールによって、これらは事務用品などの消耗品と同様に、消耗品費などの費用の勘定科目で会計処理をする。したがって、取得価額が10万円未満であれば、事務机やキャビネット、店舗内装の什器や家具、テレビやパソコンの周辺機器など、器具備品にあたる物品であっても、全額を消耗品費として費用に計上して問題ない。
取得価額が10万円未満でなくとも、使用可能期間が1年未満となるものについては同じ処理ができるが、10万円未満のほうがわかりやすい。ちなみに「使用可能期間が1年未満」とは耐用年数のことではなく、その会社の平均的な使用状況、補充状況などから見積もられる期間となる。業種において、一般に消耗性のものと認識されている点も考慮されることから、処理の基準としては使いづらい。そのため、実務ではまず取得価額が10万円未満かどうかで、固定資産として計上するのか、消耗品費にするのかを判断する。
なお、取得価額が10万円未満の減価償却資産をその年の消耗品費で処理するには、以下の両方をクリアしなければならない。
・その物品を事業に使い始めていること
・損金経理をしていること(消耗品費などで費用計上していること)
もし「せっかく買ったけど、事業年度末まで倉庫に入れっぱなしで使っていない」という状況であれば、金額にかかわらず費用にできないため注意が必要だ。
消耗品の判定は「取得価額」
消耗品費などで処理することができるのは、「取得価額が10万円未満」の物品である。シンプルでわかりやすいルールであるが、取得価額にはちょっとした落とし穴もある。具体的な注意点は次の3つだ。
・注意点1:付随費用を含めること
取得価額とは、単に本体の購入費だけをいうのではなく、その物品を購入・使用するために付随的に発生した費用も含めることとなる。購入のために支払った費用(送料、購入手数料、関税など)と、事業の用に供するために直接要した費用(設置費など)が取得価額になるため注意が必要だ。(法人税法施行令第54条第1項)
・注意点2:取引の単位で計算すること
取得価額は、取引の単位ごとに判定しなければならない。国税庁が例に挙げている応接セットの考え方を紹介すると、通常テーブルとイスを1組として取引されることから、テーブルとイスのセットで取得価額を判定することになる。別々に購入すれば30万円未満になるものであっても、通常の取引の単位で判断する必要があるということだ。カーテンの場合は、数枚で機能するものであるため、1つの部屋ごとに取得価額を判定する。
参照:国税庁タックスアンサー「少額の減価償却資産になるかどうかの判定の例示」
ただし、10万円以上になったとしても、通常の減価償却を行う以外の方法として
・一括償却資産の特例(10万円以上20万円未満)
・中小企業者の少額減価償却資産の特例(30万円未満)
を選択することができる。
・注意点3:消費税の取り扱い
先ほど、取得価額に含めるものに関税があることを紹介したが、それよりも私たちに身近な税金といえば、消費税である。消費税を取得価額に含めるかどうかは、その会社(課税事業者)が税込経理をしているか、または税抜経理をしているかで変わる。
税込経理をしている会社や免税事業者は、税込価格で取得価額を判定する。これに対して税抜経理をしている会社は、税抜価格で取得価額をする。つまり、税込経理のほうが10万円未満の判定が厳しくなるということだ。次のノートパソコンの例で見てみよう。
【例】
・ノートパソコン1台
取得価額
(税抜)9万5,000円
(税込)10万4,500円(消費税額9,500円)
<税抜経理方式の経理>
税抜経理方式の会社であれば、消耗品費で費用処理ができる。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
消耗品費 | 9万5,000円 | 普通預金 | 10万4,500円 |
仮払消費税 | 9,500円 | ‐ | ‐ |
<税込経理方式の経理>
税込経理方式の会社や免税事業者では、器具備品に資産計上することになる。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
器具備品 | 10万4,500円 | 普通預金 | 10万4,500円 |
一括償却資産の特例(10万円以上20万円未満の資産)
ここからは、取得した減価償却資産が10万円以上の場合の扱いについて解説する。
取得価額が10万円以上20万円未満の場合、
・通常の減価償却を行う
・「一括償却資産の特例」で償却を行う
・「中小企業者の少額減価償却資産の特例」を使う
の3つから、対象物品を損金に算入する方法を選ぶことが可能だ。10万円以上20万円未満の減価償却資産に使える「一括償却資産の特例」とは、減価償却資産を3年間かけて3分の1ずつ損金に算入する方法だ(法人税法施行令第133条の2)。
耐用年数が2年などの場合を除き通常の減価償却よりも早く費用にできることになるが、1度に全額を損金に算入できるわけではない。そのため、次項の「中小企業者の少額減価償却資産の特例」のほうが得だと考える方も多いだろう。
しかし、一括償却資産の特例にもメリットはある。白色申告者でも適用できる点と、この特例を選択した資産は固定資産税(償却資産税)の課税対象外となる点である。償却資産税とは、1月1日時点で保有する事業用の固定資産(建物と土地等を除く)に対して、市町村が課税する税金だ。課税標準額のトータルが150万円以上ある会社は、1.4%の税額を納めることが必要となるが、一括償却資産の特例を適用した固定資産については課税標準に含める必要はない。
上記のメリットは、いずれも中小企業者の少額減価償却資産の特例にはないものである。したがって、一括償却資産の特例と中小企業者の少額減価償却資産の特例、どちらも選択できる会社の場合、会社ごとの状況によって使い分けるとよい。仮に、中小企業者の少額減価償却資産の特例でその全額を費用にしたとしても、それは法人税等の課税時期を先送りしたにすぎない。トータルで経費になる金額は、2つの特例も通常の減価償却も、結局は同じだからだ。
これに対し償却資産税は、支払えば取り返すことはできない。大きな差にはならないかもしれないが、単純に当期の節税額だけで比較できないことに注意が必要だ。
中小企業者の少額減価償却資産の特例
「中小企業者の少額減価償却資産の特例」とは、取得価額が30万円未満の減価償却資産を、全額その事業年度の損金に算入することができる中小企業の特例を指す。令和2年度の税制改正によって、令和3年度末まで適用期限が延長された。
この特例により、多くの会社では取得価額30万円未満の資産を購入しても、消耗品費などの勘定科目で全額を費用として処理することができる。ただし、この特例を適用できるのは青色申告を行う中小企業者などに限られ、金額も年間で300万円が上限になる。
また、対象は「30万円未満」であるため、前項の一括償却資産の特例(10万円以上20万円未満)の対象になるものとは選択適用となる。
消耗品の費用計上の方法は?
消耗品に関する勘定科目は、消耗品(資産科目)と消耗品費(費用科目)の2つだ。消耗品の費用計上の方法には「購入時に消耗品費に計上する方法」と「購入時に消耗品に計上する方法」がある。どちらも、費用に計上できる額は結果として同じになる。しかし、そもそもなぜ消耗品に資産の勘定科目が必要なのだろうか。
未使用の消耗品は棚卸資産になる
「消耗品で貯蔵中のものは棚卸資産に含める」のが、会計上のルールだ(中小企業の会計に関する指針25『棚卸資産の範囲』)。つまり、未使用のままストックしている消耗品は費用ではなく、棚卸資産として貯蔵品や消耗品の勘定科目で表示することが原則となる。
購入時に消耗品費に計上する方法
まずは、購入時に消耗品費に計上する方法から見てみよう。
【購入時】
・ボールペン3箱(1箱1,000円)を購入した。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
消耗品費 | 3,000 | 現金 | 3,000 |
【期末】
・ボールペン1箱が未使用であった
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
消耗品 | 1,000 | 消耗品費 | 1,000 |
これは期末に未使用分を数えて、未使用分に相当する価額を消耗品に振り替える処理である。消耗品費として当期の費用に計上されるのは、2,000円だ。消費税の扱いについては、まず購入時の2,000円が課税仕入れとなる。
期末の未使用分の振替時は、会社が税抜経理をしていれば未使用分の税抜価格を消耗品に振り替える処理を行い、税込経理をしていれば未使用分の税込価額を消耗品に振り替える処理を行う。
購入時に消耗品に計上する方法
次に、購入時に消耗品に計上する方法は次のようになる。
【購入時】
・ボールペン3箱(1箱1,000円)を購入した。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
消耗品 | 3,000 | 現金 | 3,000 |
【期末】
・ボールペン1箱が未使用であった
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
消耗品費 | 2,000 | 消耗品 | 2,000 |
この場合、期末に未使用分を数えて使用分のみを費用に計上する方法となる。消耗品費として費用に計上されるのは「購入時に消耗品に計上する方法」と同じ2,000円で、結果はどちらの方法を選択しても変わらない。
消耗品は期末に振り替えなくてもよい?
購入時に消耗品、消耗品費のどちらに計上しても当期の費用は同じになるが、期中の費用の額には誤差が生じる。購入時に消耗品費に計上する方法であれば、未使用分の消耗品も費用に計上されているため、費用の額が高くなり、利益は少なく表示される。逆に、購入時に消耗品に計上する方法は期末まで消耗品の費用が反映されないため、期中の利益は多く表示されている。
いずれの処理も、期中の費用にこうした誤差が生じていることに注意が必要だ。ここまでは、未使用の消耗品を棚卸資産に計上するという、原則的な処理の解説になる。ここからは実務上の話になるが、実務では期末に振り替えるという処理は、ほぼ行われていないといえる。まず、消耗品は一般に少額である。仮に期末に未使用分が残っていても、少額であれば会計上の重要性は乏しいと考えられるため、そのまま費用としても問題になる可能性は低い。
また税務上も、消耗品の費用は継続適用を要件に、全額を購入した事業年度の損金に算入することが認められている(法人税基本通達2-2-15)。仮に消耗品を毎年度50万円ずつ購入し、年度内に50万円分消費している場合、購入費をベースに損金に算入しても期末に使った分だけを損金に算入しても、各事業年度の消耗品費の額は50万円になる。毎年度の消費量と補充量に大きな差がなければ、期末に未使用分を振り替えても振り替えなくても、損金に算入される額に大きな差は生じないのだ。そのため、実務ではほとんどの会社がこのルールに基づいて消耗品の全額を購入した事業年度の費用に算入し、期末には何も処理を行わない。
ただし、このルールには注意点もある。この対応が許されるのは、毎年度、おおむね一定量を取得し、かつ経常的に消費するものに限られるからだ。これは利益操作の目的で、期末に消耗品などを爆買いするような行為をけん制しているものと考えられる。このことから、例年の数倍の消耗品を期末に一括購入して費用とするような行為は、避けたほうがよい。
消耗品の費用にかかる消費税
消耗品は「購入した日=消費税の課税仕入れを行った日」となる。例えば、会社のプリペイドカードなどで消耗品を購入するときも、チャージをしたときではなく、プリペイドカードで消耗品を実際に購入した日が課税仕入れの日になるのだ。
ちなみに、貯蔵品や消耗品といった勘定科目によって郵便切手のストックを管理し、使用時に通信費とする経理を行っている場合、郵便切手は購入先によって課税仕入れになるかどうかが変わる点に注意が必要だ。
郵便局などでの購入は非課税取引となるが、金券ショップ等から購入したときは課税仕入れとなる。
消耗品の費用が高いと感じたら
もし会社の消耗品の費用が前期よりも上がっている場合、原因はいくつか考えられるだろう。事業を拡大し、従業員も増えたというタイミングであれば、消耗品の費用も変化するはずだ。ただ、消耗品は発注管理を担当する人物によって増減することがよくある。
よく見られるのは「まとめ買い」だ。確かにまとめ買いをすると単価が下がるため、お得に買い物ができる。会社にとって悪い判断ではない。しかし、まとめ買いをすると未使用の物品が劣化したり、置き場を作るための新たなコストが発生したりする。また、在庫がたくさんある状態が目に見えてしまうと、社員も節約して使おうという心理が働きにくいように思う。
もし発注担当者が変わって消耗品の費用が増加したと感じたときは、必要な分だけ買うように助言してみると効果があるかもしれない。
消耗品でも固定資産になる場合があるので注意
消耗品の費用について注意が必要なのは、固定資産に計上しなければならない基準である。特に、付随費用などの範囲や考え方には判断が難しいものもあるため、注意が必要だ。消耗品の処理について迷ったときは、顧問税理士などに相談していただきたい。
文・中村太郎(税理士・税理士事務所所長)