ゴーン氏自身の「リバイバルプラン」が始まった?

「名経営者」はどこで間違ったのか ゴーンと日産、20年の光と影
(画像=THE21オンラインより)

1月8日にレバノンで行われたカルロス・ゴーン氏の会見には、日本のみならず世界中のメディアが集まった。自身の問題を棚に上げ、日本の司法制度を糾弾した内容には賛否が飛び交っているが、世界の注目を集めたことは紛れもない事実だ。

だが、「これだけで終わるとは考えないほうがいい」と指摘するのは、著書『「名経営者」はどこで間違ったのか ゴーンと日産・20年の光と影』にてゴーン氏の行動原理を解き明かした法木秀雄氏(元日産自動車北米副社長・ビジネススクール教授)だ。それはどういうことなのだろうか。法木氏にうかがった。

世界中の「一般人」の心を掴んだゴーン氏

1月8日にレバノンで行われたゴーン氏の会見を見てつくづく思ったのは、「昔の自信たっぷりのゴーン氏に戻ったな」ということだった。

身振り手振りを交え、言いたいことを一方的に発信する姿はまさに、日産をV字回復させ、名経営者と呼ばれたころの彼の姿そのものだ。

一方、話の内容は正直、驚くようなものではなく、あくまで事前の想定内のものだった。

そもそもファクトベースで自分の潔白を証明できない以上、感情論に訴えるしかない。だからこそ拘留や尋問の際の非人道的な扱いや、家族と会えなかったことの寂しさなどを切々と語り、日本の司法制度の問題を訴えるという戦略に出たわけだ。

その内容も、正直、ある程度のインテリジェンスのある人なら、「本当か?」と疑いの目で見るようなものだったと思う。

ただ、何も事情を知らない一般の人に対しては、大いに影響力があっただろう。

もちろん彼はそれを意識している。会見場に入るメディアを選別したのもそのためだ。

彼の本質は「名声を得ること」にある

もう一つ、強く感じたことは、彼の倫理観の欠如だ。より正確には「自分のことしか考えていない人物」であることが改めて浮き彫りになった。

私は近著『「名経営者」はどこで間違ったのか ゴーンと日産・20年の光と影』において、ゴーン氏の行動原理を「WHY」というキーワードから読み解いた。これは、「WHAT」(なにをやるのか)ではなく「WHY」(なぜやるのか)からスタートするのが優れたリーダーの条件だという、サイモン・シネック氏のリーダーシップ論である。

ゴーン氏の初期の成功は、「日産・ルノーを世界トップ企業にする」という「WHY」をゴーン氏が持っていたことにより、日産社員の共感を得ることができ、元々持っていた実力を引き出すことができたことが、大きな要因だった。

しかし、ゴーン氏が絶対的な権力を手にする中で、そのWHYがいつの間にか「世界的な名声を得る」「大富豪となる」という個人的な欲求にすり替わってしまった。それが権力集中と独裁を生み、最終的には失墜の原因となった。

今回の会見を見て改めて、彼の行動原理がやはり「世界的な名声を得る」というところにあることを再確認した。

彼の倫理観の欠如は、自分の非を棚に上げ、自分を陥れたとして具体的な人物名を挙げて批判したことにも表れている。

私は日産に長年勤め、今でも多くの知人がいる。名指しされた人の中では西川廣人前社長と川口均前副社長を直接存じ上げているが、非常に立派な倫理観を持った人物だと言い切ることができる。

少なくとも、日本の法律を破り海外へ逃亡した人間に、彼らを批判する資格はないだろう。

際立ったゴーン氏のプレゼン力と、「日本語だけ」だった政府

さて、そんな会見内容ではあったが、これが世界中に流れてしまった以上、日本政府は早急に対策を講じる必要がある。

会見後すぐ、日本の森法務大臣が批判の声明を出したのは正しかったと思うが、さらに、ゴーン氏のようなプレスカンファレンスを開き、メディアからの質問を受け付けるとともに、発信そのものも英語で行うべきだと考える。

ゴーン氏の会見が世界中で注目された要因の一つは、英語とフランス語を巧みに使い分ける彼の語学力、プレゼン力も一因だ。

日本語のみでの発信ではどうしても、注目度は格段に落ちてしまう。

その点、韓国政府などは英語での発信を巧みに行っていると感じるが、日本はどうもこの点で弱いように思う。