自動車、IT(情報通信)、教育、映画、ゲーム、アニメなど各分野に特化した20ジャンル60メディアサイトを運営しているイード(本社・東京都新宿区)は、東証マザーズ上場企業だ。主力のメディア事業では複数の雑誌メディアも抱えているほか、リサーチ事業、EC(電子商取引)を中心としたテクノロジー事業を展開し、米国には現地法人もある。
様々な専門メディアサイトが群雄割拠の状態にある中、M&A(企業買収)などを活用して事業を拡大しているイード。宮川洋代表取締役社長にサイトコンテンツの戦略と今後を単独インタビューした。(このインタビューは2020年3月4日に実施)
「レスポンス」など20ジャンル60メディアを運営
――まず、インターネットビジネスの世界では軽微とされていますが、新型コロナウイルスの感染拡大による影響はありますでしょうか。
「現時点では直接的な影響は限定的です。ただし、イベント開催を前に展開されるタイアップ広告等が中止となりました。こうしたイベント中止は国内だけでなく、2月にスペイン・バルセロナで開催予定だった世界最大級の携帯通信関連イベント『モバイル・ワールド・コングレス(MWC)』や自動車の祭典『ジュネーブモーターショー』『バンコクモーターショー』など海外の大型イベントが次々と中止となって、当社が発信する情報コンテンツの供給に障害が出ております。
イベントのコンテンツをサイトにアップ(掲載)することによって閲覧者を呼び込むことに影響が出ていると考えられます。また、新商品の発表に伴ったイベント等が縮小・中止となっています。この点でクライアントが広告を控えているという動きは出てきています」
――他のサイトメディアと比較して、イードの強みを教えてください。
「我々からすると多様性のあるメディアポートフォリオという点では、直接的な競合はいないと考えています。毎年ポートフォリオの入れ替えはあるものの、イードは戦略的に、ジャンルとメディアを広げていくという方針を貫いています。
私は、もともと出版社(アスキー)に在籍していた経緯がありましたが、出版は取次等、流通の関係上、ジャンル拡大にはいろいろ難しい問題がありました。専門分野の出版社が分野を飛び超えてメディア(雑誌)を立ち上げようとしても、実際はかなり難しいものがありました。
しかし、インターネットの世界はそうした規制がほとんどないので、幅広いジャンルへの進出が可能で、今までないシナジーをメディア間で生み出していきたいと考えています。分野が異なっても、共通のCMSプラットフォームを使っているので、運営およびマネタイズノウハウが活かされます。これがイードの強みであり特徴といえます」
――20ジャンル60メディアを運営するイードですが、人気のメディアサイト、アクセス数が伸びているサイトはどんなサイトでしょうか。
「全般アクセス数は伸びていますが、創業来の看板サイトでもある自動車の『レスポンス』は月間6,000万PVあり好調です。自動車の専門サイトとしては、その産業規模に応じてビジネスチャンスも大きく、「レスポンス」を運営していることで、『MaaS(Mobility as a Service)』『*CASE』などにビジネスが広がっています。
*CASE:Connected(コネクティッド)、Autonomous/Automated(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)
このほか、伸びているジャンルとしては「お金」分野でもある『マネーの達人』です。特に生活レシピ・マネースキルをアップする節約志向型のコンテンツです。デフレ経済の中でネットユーザーは生活の知恵を求めているのでしょう。また、コンテンツの特徴としては、稼ぐというよりも生活防衛の視点に関心が強いようです。ちなみにマネー達人を毎日読んでいる現編集長は年間100万円以上得することができることを自分で実践しています。
『教育』は受験・進学に関わる保護者向けの教育情報で以前から手掛けているジャンルとして、根強い人気があります」
アニメ分野にも進出、雑誌メディアでも商機
――今年1月には学研ホールディングスのグループ企業からアニメ関連の事業取得の正式合意も発表されました。
「学研グループから事業取得したアニメは、サイト展開においては広告収入というよりもメディアのブランド力、ユーザー数、周辺ビジネスへの広がりという点に期待しています。取得した事業の中には1981年創刊した日本を代表するアニメ専門月刊誌『アニメディア』もあります。
アニメは以前、マニアの世界のジャンルでしたが、今ではユーザーが一般化しています。検索キーワードの上位を人気アニメの「鬼滅の刃」の関連キーワードが占めるなど一般層までアニメが浸透しています。こうした社会現象を的確につかんでいきたいと考えています」
――雑誌メディアの視点では、国内最大級のオンライン書店である富士山マガジンと合弁会社を昨年10月に設立されました。
「週刊誌の多くはECサイト運営に興味を持っていますが、実際の事業化となるとノウハウやコストの問題、さらに、雑誌媒体のブランドテイスト維持などの課題がありました。合弁会社イデアは、これまで両社で個別に⾏ってきた、雑誌ブランドを活⽤したECサイト運営⽀援事業・ EC店舗の運営事業を統合したものです。
イードからは、合弁会社を通じて多数の⼤⼿企業が採⽤するECサイト運営 ASPサービスと、店舗運営に必要不可⽋な商品企画・商品調達のための マーチャンダイジング機能を併せて出版社に提供します」
――直近のIR資料では、「地域情報」も拡大分野となっています。
「地域の中小企業、また外食・小売店への集客支援を行うことが『地域情報』メディアの主な機能です。中心となっている外食店舗の情報もグーグルマップの利用が主流になってきています。デジタルの民主化が浸透する中で、中小企業がテクノロジーを使いこなす支援を行うことが、我々メディアの使命だと思っております」
M&Aを積極活用、『健康・ヘルスケア』ジャンルに興味
――メディアジャンルの拡大にあたってはM&Aと自社による事業開発を活用されていますね。
「2000年や2005年頃は情報を持っている企業同士が1on1でM&Aに対応していたことが主流でしたが、現在ではM&A仲介企業が多数あります。報量としては仲介業者が8、自社が2の割合ですが、実際にM&Aの成約となると自社が8、仲介業者が2という割合となっています。
イードはできる限り情報のアンテナを広く持ち、M&Aを従来から長く手掛けているのでファーストコンタクトから、比較的早い段階でM&A成約の判断ができる強みが、この結果につながっているのかもしれません。
M&Aは景気の後退、不景気になると突発的な良い案件が出てくることもあり、今の時流はM&Aにとって好機が広がり始めているとも考えられます」
――IR資料ではまた、広告に依存しない360度ビジネスモデルの収益構造を掲げています。
「個々のメディアサイトがその特性を活かして、純広告、タイアップ企画、グーグルなどネットワーク広告、セミナー収入、他サイトへの記事配信といったビジネスモデルに厚みをつけて収益を上げていくことを360度ビジネスモデルと位置付けています。個々のサイト展開にとどめず、例えばアニメやITサイトの収益モデルを自動車ジャンルで活用できないかということを研究していきます。
ちなみに、サイトが業界紙的なポジションを取った方が業界認知を取りたいというニーズから関連広告も入りやすくなります。BtoB、BtoCのどちらにも傾斜しすぎることなく、趣味だけに偏らない社会情報を含めたビジネスとしてのサイト運営が収益の安定的な成長につながると考えます」
――今後、サイトメディアとして今後伸びていく分野と、興味を持っているジャンルを教えてください。
「世間的にこれから伸びると思われている分野は私たちも興味があります。テーマ性が長い『健康・ヘルスケア』などがそれにあたります。また、株式市場でテーマとして意識されている分野も有望でしょう。このほか、動画メディアを立ち上げるとすると、まだまだ製作コストが高いというハードルがありますが、5G(第五世代移動通信システム)の本格商用化を控えて、動画関連メディアを持っていく必要性も感じています」
――ありがとうございました。
取材後記
イードはプレスリリースを今年2月に8タイトル、3月に入って9日までで3タイトル発表するなど、社会にニュースを活発に発信し続けている。そのリリースタイトルも、
・「アニメ!アニメ!」のグローバル版アプリを配信開始
・教育情報サイト「リセマム」が「新型コロナウイルス対応・家庭学習」に関する特集ページを開設
・「日本情報漏えい年鑑2020」販売開始
・ジゴワッツと共同開発のスマホがクルマの鍵になる「バーチャルキー」大阪府豊中エリアの地域密着型カーシェアに初採用
・イードとロボットスタート、自動車向けAI音声アシスタントに関する調査テストを実施
など、グローバル展開、社会現象と時流、最新テクノロジーを意識したビジネスを展開している。
メディアサイト運営会社の枠を超えたエネルギッシュでスピーディーな企業運営がイードの最大の特徴でもある。
宮川洋代表取締役社長の経歴
1965年生まれ
1988年03月 中央大学文学部史学科西洋史専攻卒業
1988年04月 アスキー(現:(株)KADOKAWA)入社
1999年12月 インターネット総合研究所入社
2000年04月 IRI-CT(現:(株)イード)取締役就任
2002年10月 IRI-CT(現:(株)イード)代表取締役就任(現任)
2005年09月 インターネット総合研究所 取締役就任
2010年06月 Interfacein Design ,Inc .CEO就任(現任)
2012年11月 エンファクトリー 取締役就任(現任)
2015年06月 絵本ナビ取締役就任(現任)
2018年03月 マークラインズ取締役就任(現任)(提供:THE OWNER)
文・THE OWNER編集部