日産とルノーの提携は、最初からいびつだった

私は著書『「名経営者」はどこで間違ったのか ゴーンと日産、20年の光と影』において、日産・ルノー連合はルノーにばかりメリットがあり、日産にとってはほとんど意味がないことを指摘した。

元々、ルノーの技術力や販売力は、日産よりはるかに劣っていた。まさに「小が大を取り込む」形だったのが、1999年のルノーによる日産への資本参加だった。

確かにその後、日産はゴーン氏による「日産リバイバルプラン」で復活を遂げたが、この20年間を見れば、日産がルノーから得たものよりも、ルノーが日産から得たもののほうがはるかに大きい。その関係は現在も変わらず、ルノーの経営は日産なくして成り立たないとすらいえる。

ただ、日産とルノーとの提携強化はゴーン氏の意図というよりは、ルノーのバックについているフランス政府の意向が強い。特に2011年の「技術スパイ事件」(ルノーの技術を漏洩したとして社員を解雇したことに対し、のちにそれが事実無根とされ、ゴーン氏は謝罪に追い込まれた)でゴーン氏の影響力が低下して以降は、フランス政府の意向を無視できなくなってきたという理由もある。

つまり、日産との提携強化はゴーン氏の意向というよりも、フランス政府の意向であったのだ。事実、ゴーン氏解任以降も、ルノーは日産に経営統合の話を持ち掛けている。

日産が対峙しているのはルノーではなく「フランス政府」

日産側にはメリットのない提携強化、そして経営統合に否定的な人物は、日産の社内に多い。特に日産という会社に対して強い思い入れを持った社員ほど、その傾向が強い。

現在の内田誠社長は元々商社から来た人物であり、アシュワニ・グプタCOOはインドのホンダ、ルノー出身の人物だ。日産のプロパーでないから会社への思い入れが弱いということはないだろうが、ルノーとしてはやりやすい人物に映っているはずだ。

それに対して、今回ゴーン氏に名指しで批判された人物の多くは、日産の独自路線への思いが強い。つまり、ゴーン氏と彼らが批判合戦を繰り返して共倒れになってくれれば、ルノーにとっては大歓迎というわけだ。

1999年のルノーによる日産の「買収」は、明らかに国益を損ねるものだったと私は思っている。

そして、それは今も変わらない。

ルノーのバックにフランス政府がついている以上、日産とルノーの問題は日仏両国の問題でもある。

ぜひ、日本政府に積極的な関与を望みたい。

「名経営者」はどこで間違ったのか ゴーンと日産、20年の光と影
(画像=THE21オンラインより)

「名経営者」はどこで間違ったのか-ゴーンと日産、20年の光と影)
法木秀雄(早稲田大学ビジネススクール元教授) 発売日: 2019年10月23日
約20年に及んだ「カルロス・ゴーンの日産」は、ゴーン氏の突然の逮捕によって幕を閉じた。あれから1年、いまだ日産が混乱を続けている理由は「ゴーン氏の負の遺産」にあると著者は指摘する。
元日産自動車北米副社長。BMWジャパン、クライスラージャパンのトップ。そして早稲田大学ビジネススクール教授。そんな経歴を持つ著者だからこそ書ける「ゴーン改革の真実」とは? 成功と失敗のすべてが詰め込まれた最強のケーススタディ。(『THE21オンライン』2020年01月15日 公開)

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