前回、エンジェル投資について独自の視点から語ってくれたhey代表の佐藤裕介氏。今回は、コロナショックに瀕している日本のスタートアップに対するメッセージや、エンジェル投資家としての社会的役割について、話を聞くことができた。(聞き手・師田賢人)

佐藤裕介(さとう・ゆうすけ)
2008年にGoogle入社後、広告製品開発を担当。2010年10月、フリークアウトの創業に取締役として参画。2014年6月、東証マザーズに上場。2017年1月、フリークアウト・ホルディングス共同代表に就任した後、2018年2月にはヘイの代表取締役社長になる。エンジェル投資家としても活動し、累計100社以上に投資実績あり。

※編注:本インタビューは2020年3月末、オンラインにて行われました

目次

  1. 日本のエンジェル投資界は「村社会」から脱するべき
  2. エンジェル投資家から見たコロナショックの影響は?
  3. エンジェル投資したくなる起業家像
  4. 個人でも未上場企業にエンジェル投資ができる制度とは

日本のエンジェル投資界は「村社会」から脱するべき

エンジェル投資家に聞く#5
(画像=hey提供、ZUU online編集部)

――日本のスタートアップ市場にはどのような課題がありますか?

まず前提として「市場の価値は参加者が多ければ多いほど上がっていく」と考えています。例えば、2017年ごろのビットコイン(BTC)は、投資までのハードルがとても低く、グローバル規模で参加者が一気に流れ込んだ結果、とんでもないサイズのアセットクラスが「あっという間」にできあがりましたよね。

未上場スタートアップ市場においても、より参加者の入り口を低く設定できるはずです。しかしながら、現在における未上場スタートアップの世界は「村社会」といっても過言ではないくらいに閉ざされています。したがって、もっと「参加者を増やしていくべき」という課題はあるでしょう。この点「株式型クラウドファンディング」には、投資家の参加枠を広げていくという意味で、少し期待しています。

ただし「参加者増加」と「投資家保護」はトレードオフのような関係でもあるので、見極めが難しいとは思います。今よりはもっと参加者が増えて、オープンに新しいものが生まれる環境になればいいと考えています。

――海外のエンジェル投資家が日本のスタートアップに投資することはよくあることですか?

はい、よくあると思います。例えば、僕自身もNASDAQに上場しているソーシャルゲームの「Zynga(ジンガ)」の創業者と一緒に2、3社共同出資したことがあります。

――日本と比べて、シリコンバレーのエンジェル投資界はどのように映りますか?

まず、シリコンバレーにおけるエンジェル投資家の大半は、イグジット起業家です。すなわち、すでに「創業して売る」というサイクルを何周も大きくまわしているんです。そうなってくると、ポテンシャル投資家となる人口の規模がものすごく大きいです。

あとは、エンジェル投資家が案件を見つける方法がフォーマット化されています。例えば「Y Combinatorのデモデイに行けば、フィルターにかかった案件がいくつか見つかるよね」みたいな。「エンジェルリスト」を見れば、連絡先もたやすく把握できますしね。

まとめると「マーケットのボリュームが桁違いに大きい」ことに加えて「スタートアップのエコシステムが成熟している」ということです。

エンジェル投資家から見たコロナショックの影響は?

――エンジェル投資家として、コロナショックをどのように受け止めていますか?

投資先にお願いしていることは「24ヵ月のサバイバル資金」を確保することです。ここで攻めに転ずる人は、あまり多くありません。最優先すべきは、生き延びること。そのためには、事業計画の修正やコストカットが必要になることもあります。

スタートアップには「デフォルト・アライブ」と「デフォルト・デッド」という2つのステータスがあります。簡単にいうと「固定費を自分たちの粗利でカバーできるか」という話です。今、大事なことはどんな手段を講じてでも、自分たちを「デフォルト・アライブ」にもっていくことです。あとは、そのうち良くなるだろうという感じですね。

――アフターコロナの世界をどのように見ますか?

リーマンショックのときにもありましたが「出口」が見えにくくなると思います。IPOのマーケットが閉じてしまうということですね。上場の承認を受けたスタートアップもIPOを延期しています。それによって、バリュエーションが上がりづらくなってしまう。

また、今までだったら十分な投資を受けることが可能なはずの案件も、場合によっては投資を受けられなくなるケースも当然あるはずです。具体的には、大型資金を必要とする資本政策系の企業は厳しいですね。逆に、初期段階でポジティブ・キャッシュフローが見込める事業は好まれるようになるでしょう。

――2022年の東証改革によって、さらに状況が厳しくなるということはありますか?

僕が投資をするようなスタートアップで、市場の区分変更が直接的なダメージになる企業は、ほとんどないと思います。もちろん、審査期間が延びたり、プロセスが複雑になったりする影響はありますね。ただ今回の改革が大きく市場環境に変化を与えるということは、想定していません。

エンジェル投資したくなる起業家像

――エンジェル投資家に求められる資質は何ですか?

エンジェル投資は「収益化しにくいアセットクラス」だということを理解する必要があります。要するに「担保性の無い資産でキャッシュが5〜7年ロック」されることに加え、ほとんどの場合うまくいきません。成功するためには、投資や金融の素養、専門的知識や経験、高いフィルター強度が求められますが、それでも不確実性は高い分野です。

エンジェル投資の醍醐味は「投げ銭」に近いと思います。例えば、コロナショックで来月倒産しますという人たちに「自分がどのように助け舟を出せるのか?」。あるいは、彼らが「どのような創意工夫をもってこの危機を乗り越えるのか?」。これら一つ一つは、とても純度が高い物語です。それを一緒に、体験、応援、参加できる価値は、非常に貴重だと思います。

――基本的には、応援したい起業家に投資をするというイメージでしょうか?

そうですね。僕はサッカーの観戦チケットを買うような気持ちで投資をしているので、自分が応援したい起業家、「うまくいかなくってもべつにいいか」と思える人たちにお金を出したいと思っています。

――「この人は応援したい」と思うポイントは何ですか?

「短期間に変化が見える人」ですね。具体的には、一度会った次の週には、新しい発見をどんどん見つけていて、成長しているような人。

例えば昔、delyの堀江裕介くんがフードデリバリー事業をしていたんですが、初めて会った翌週に「道玄坂でラーメンのつゆをこぼさずに運ぶ方法を見つけました!これは革命です」と言ってきたんですよ。

やはり、次々とアイディアを行動に移して、さまざまなことを学んで、変化していくことを楽しめる人は、見てて楽しいじゃないですか。そういう人とは、仲間でいたいなと思いますね。

――ありがとうございました。

--インタビューここまで--

個人でも未上場企業にエンジェル投資ができる制度とは

unicorn
(画像=unicorn)

2014年に金融商品取引法が改正され、「未公開株」を購入できる株式投資型クラウドファンディングが登場しました。 インターネットを通じて多くの人が少額の資金を出して、未上場の新規・成長企業の株式に投資することのできる仕組みで、未上場株式を購入することで当該企業の株主になることが実際にできます。

応援したい会社へ株式投資という形で応援でき、株主優待や、将来的にはIPOやM&A(企業の合併・買収)で将来的にリターンを得られる可能性もあります。