トップマネジメントとは、経営の総合的判断に関わり、最終的な責任を負う管理層のことである。トップマネジメントが手掛ける仕事は多岐に渡り、多様な能力と資質が要求される。

企業をより成長させるためには、正しい方向づけを行い、ビジョンを明確にし、妥当な基準を設定できるトップマネジメントの構築が不可欠である。トップマネジメントの役割や備えるべきスキル、課題などについて理解を深めよう。

トップマネジメントとは何か?

トップマネジメント
(画像=marvent/Shutterstock.com)

組織に存在するマネジメント層は、その権限や役割から「トップマネジメント」「ミドルマネジメント」「ロワーマネジメント」の3つに大別される。トップマネジメントは、組織の最上位に位置する経営者個人または経営グループを指す。

トップマネジメントは、経営に関する総合的な判断を下したり、組織の根幹に関わる業務を遂行したりする立場にある。一般的には、会長・社長・CEO・COO・副社長・支店長・取締役員などがあてはまり、グループの場合は経営者層と呼ばれることもある。

ISO規格では、トップマネジメントを「最高位で組織を指揮し、管理する個人またはグループ」と定義している。ISO規格は、組織における品質マネジメントシステムの確立と国際規格の普及を目指す、スイスの国際標準化機構である。組織が構築したマネジメントシステムがISO規格の要求事項に適合していれば、ISO認証制度によってその組織が公表される。

ISOが定義するように、トップマネジメントは一般的に個人と組織の両方が対象となる。しかし、会社経営やビジネスの世界において、世界中に多大な影響を与えたオーストリア人経営学者ピーター・ドラッカーは、その著書で「トップマネジメントは個人ではなくグループとして存在すべき」と述べている。

トップマネジメントとは、さまざまな業務を迅速かつ的確にこなすことが求められる。与えられた数多くの役割と責任を果たし、組織をさらに発展させるために、トップマネジメントはチームを組むべきだとドラッカー氏は説いているのだ。

ミドルマネジメント層は、上層部からの命令や判断などを下層に伝える立場にある。支店長・本部長・工場長などを指し、中間管理層と呼ばれることもある。

ロワーマネジメント層は、現場で直接指示を出す管理職のことだ。現場監督・主任・チームリーダーなどがあてはまり、経営の計画などに携わるようなことはあまりない。

トップマネジメントの役割

組織が長期的に成功を収め続けるために、トップマネジメントには以下のような役割が求められる。

組織戦略や事業戦略の検討

企業理念や事業目的といった形で組織の存在意義を示し、以下のようなテーマを掲げながら組織戦略や事業戦略を検討する役割を担う。

1.自社の基幹事業、他社との差異、業界での優位性を明確にする
2.創業者の理念や願いを事業に反映する
3.将来のビジョンを示し、参入すべき市場や取り入れるべき技術を検討する
4.目標の見直しや修正を適宜行い、廃止すべき事業を検討する
5.人材配置や資金配分が適切であるかどうかをチェックする

これらを明確にすることで、従業員の会社に対する愛着が強まり、より高いモチベーションで業務に取り組むことが期待できる。

規範やルールの設定

組織における規則や基準を設定し、従業員がそれらを正しく扱っているかどうかを評価する役割を担っている。また、組織の価値観や方向性を示すことで、従業員が自らやるべきことの優先順位を認識できるようになり、与えられた職務に集中できる。

組織環境の開発と維持

健全な運営を持続できる組織を構築しながら、経営者層として次世代を任せられる人材を育成する役割を担う。組織として人事に関する総合的な方針を決定することで、組織と人事が互いに刺激を受けながら成長することも期待できる。

重大なトラブルへの対応

組織に甚大なダメージを与えるような問題が発生した際に、先頭に立って対応する役割を担う。問題を早期に解決できるよう、また被害を最小限に抑えられるよう、最善と思われる策を立案・選択し、実行することが期待される。

重大な危機を招いた原因の追及とリスクファクターの洗い出しを行い、再発防止に向けた施策の検討と提案をすることも、トップマネジメントに求められる役割の一つである。

外部との交渉

顧客・取引先・金融機関などとの渉外活動、メディアとの連携、市場の把握や需要確認などのマーケティング活動といった、外部関係者との交渉を行う役割を担う。組織の目標や理念を正確に理解しているトップマネジメントがこれらの交渉を行うことで、より具体的な話し合いができ、組織の信頼が増すことにもつながる。

儀式的行事への参加

組織の顔として、各種行事や食事会などに参加する役割を担う。これは、顧客や取引先などと友好な関係を構築するための、重要な仕事の一つである。組織が拡大するにつれて参加の機会が増えていくため、この役割を担うトップマネジメントを個別に設定する必要がある。

トップマネジメントに求められる能力と人材

トップマネジメント
(画像=PIXTA)

トップマネジメントには、相応のスキルを備えた人材が求められる。まずは、大きく3つに分けられる以下のスキルを理解しておこう。

コンセプチュアルスキル

知識や情報などを体系的に組み合わせ、物事を概念的に捉えて本質を特定することで、誰もが納得のいく解答を導き出せる能力をいう。概念化能力とも呼ばれる。

論理的思考力・水平思考力・批判的思考力のほか、経営知識やビジネスセンスも含まれる。また、先見性や多角的視野、状況分析力、洞察力、直感力、俯瞰力も、コンセプチュアルスキルに該当する。

ヒューマンスキル

組織において良好な人間関係を構築し、組織経営を円滑に進められる能力をいう。対人関係能力とも呼ばれる。

統率力や調整力などのリーダーシップ、現場管理能力や業務管理能力などのマネージャーシップ、カリスマ性のほか、コミュニケーション力や交渉力、プレゼンテーション能力も含まれる。また、情報伝達力・ソーシャルセンシティビティや、ダイバーシティへの理解力なども、ヒューマンスキルに該当する。

テクニカルスキル

組織内の業務をそつなくこなす能力をいう。業務遂行能力とも呼ばれる。

専門分野や自社の商品・サービスに対する深い知識、高度な専門能力、関連資格、組織構成員としての自覚などを有することが含まれる。また目標達成能力や器用さ、実行力などもテクニカルスキルに該当する。

以上の3つのスキルが、トップマネジメントに求められるスキルである。ドラッカー氏によると、トップマネジメントにふさわしい人材とは「よく考える」「行動力がある」「人間味がある」「表に立てる」という4つの資質を備えた人材だ。

トップマネジメントの課題

トップマネジメントの役割で挙げた「組織戦略や事業戦略の検討」と関連した用語に、「ビジネスアナリシス」がある。

ビジネスアナリシスとは、事業におけるニーズを定義し、ステークスホルダーに対して価値を提供するための一連のプロセスを構築することで、組織に変革を起こし得る専門活動をいう。

ビジネスアナリシスを正確に実行するためには、トップマネジメントに関する知識や理解を深めるだけでなく、組織における環境整備も不可欠である。必要資源の確保や関係各所との情報共有、計画の妥当性に対する評価システムの構築など、ビジネスアナリシスの効果をより高めるための環境整備を事前に行っておくことが重要だ。

また、組織内のノウハウやアドバイザーを充実させることも、トップマネジメントの課題の一つと言えるだろう。トップマネジメントに関する環境の構築について深く理解したとしても、ノウハウやアドバイザーが組織内で不足していれば、円滑な組織運営は期待できない。

社外からアドバイザーを招へいしたり、研修への参加を検討したりするなど、不安を払拭するような対策を講じることも必要だ。

トップマネジメントの育成

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(画像=PIXTA)

グローバル化をはじめ、多様化する経営環境に対応できるトップマネジメント人材を育成するために、多くの研修やセミナーが各地で実施されている。

一般社団法人日本能率協会が主催する「トップマネジメント研修」は、短期間で実施するプログラムや合宿などにより、凝縮した内容を集中して学べることが魅力だ。数多くの経営者や取締役などが受講している当研修は、短期間であることから多忙を極めるトップマネジメント人材でも参加しやすいという特徴がある。

ビジネス系書籍の出版社として知られるダイヤモンド社が主催する「ドラッカー塾トップマネジメントコース」は、前述のドラッカー氏が提唱する理論やノウハウを学べる研修だ。

事前審査を通過した人だけが受講できる当研修は、ドラッカー氏自らが解説する動画を視聴できたり、同氏が作成した教材を使用できたりすることで、各方面から高い評価を得ている。いくつかの講座が用意されており、その多くがキャンセル待ちになるほどの人気ぶりだ。

企業をより良い方向へ成長させよう!

トップマネジメントは、組織の方向性を決定するとともに、組織経営や事業運営などの指揮を執る役割も担っている。トップマネジメントの意思は、従業員の業務に影響を及ぼすため、チームを結成して慎重に物事を決定することが重要だ。

トップマネジメントを正常に機能させるためには、求められる役割を深く理解し、相応のスキルを備えた人材の育成が不可欠である。トップマネジメントを中心に組織が正しく機能すれば、企業は正しい方向へ成長していくだろう。(提供:THE OWNER

文・THE OWNER 編集部