インドネシアの2020年1-3月期の実質GDP成長率(1)は前年同期比(原系列)2.97%増(前期:同4.97%増)と低下、市場予想(2)(同4.00%)を大きく下回る結果となった。
1-3月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に内需の落ち込みが成長率低下に繋がった(図表1)。
民間消費(対家計民間非営利団体含む)は前年同期比2.66%増(前期:同4.93%増)と大きく低下した。費目別に見ると、食料・飲料(同5.10%増)や保健・教育(同7.85%増)が上昇する一方、輸送・通信(同1.81%減)が減少、ホテル・レストラン(同2.39%増)と住宅設備(同4.47%増)が鈍化した。
政府消費は前年同期比3.74%増となり、前期の同0.48%増から上昇した。
総固定資本形成は前年同期比1.70%増と、前期の同4.06%増から低下した。自動車(同2.72%増)が持ち直した一方、建設投資(同2.76%増)が減速、機械・設備(同3.92%減)が落ち込んだ。
純輸出は成長率寄与度が+0.45%ポイントとなり、前期の+1.69%ポイントから縮小した。まず財・サービス輸出は前年同期比0.24%増(前期:同0.39%減)と上昇した。輸出の内訳を見ると、サービス輸出(同18.34%減)が大幅に減少したものの、財輸出(同2.47%増)が非石油・ガス輸出が増加して2期ぶりにプラスとなった。また財・サービス輸入は同2.19%減(前期:同8.05%減)とマイナス幅が縮小した。
供給項目別に見ると、幅広い産業で成長率が減速した(図表2)。
まず成長を牽引する第三次産業は前年同期比4.62%増(前期:同6.37%増)と低下した。内訳を見ると、構成割合の大きい卸売・小売が同1.60%増(前期:同4.24%増)、運輸・倉庫が同1.27%増(同7.55%増)、ホテル・レストランが同1.95%増(前期:同6.41%増)と失速したほか、ビジネスサービスが同5.39%増(前期:同10.49%増)、不動産が同3.83%増(前期:同5.85%増)と減速した。一方、情報・通信は同9.81%増(前期:同9.71%増)、金融・保険は同10.67%増(前期:同8.49%増)と高成長だったほか、行政・国防が同3.16%増(前期:同2.06%増)と上昇した。
また第二次産業は前年同期比2.02%増(前期:同3.77%増)と低下した。内訳を見ると、構成割合の大きい製造業が同2.06%増(前期:同3.66%増)、建設業が同2.90%増(前期:同5.79%増)、鉱業が同0.43%増(前期:同0.94%増)、電気・ガス供給業が同3.85%増(同6.01%増)と、それぞれ低下した。
第一次産業は前年同期比0.02%増(前期:同4.26%増)と低下した。
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(1)2020年5月5日、インドネシア統計局(BPS)が2020年1-3月期の国内総生産(GDP)を公表した。
(2)Bloomberg調査
1-3月期GDPの評価と先行きのポイント
インドネシア経済は昨年まで+5%成長が続いたが、2020年1-3月期の成長率は前年比2.97%となり、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて減速、2001年以来となる低成長を記録した。
1-3月期の景気減速の主因は、内需の減速だ。今年はジャカルタ首都圏で豪雨による洪水被害が続いて首都の大半が機能不全に陥るなど経済活動に支障が出たところに、新型コロナの感染拡大の影響が加わった。このほか、前年同期は選挙関連支出の景気押上げ効果が働いていたことも成長率を押し下げたものとみられる。GDPの半分以上を占める民間消費は+5%前後の安定成長が崩れて同2.66%まで減速、総固定資本形成は6年半ぶりに+1%台まで鈍化した。
外需では、サービス輸出の悪化(同18.34%減)が顕著だった。各国政府が実施している海外渡航規制や入国制限措置により、1-3月の外国人旅行者数は前年比31.6%減となった(図表3)。インドネシアの国際観光収入(GDP比、2018年)は1.4%と、隣国の観光先進国であるタイ(12.5%)ほどではないものの、日本(0.8%)や韓国(0.9%)と比べて大きく、軽視できるものではない。
4-6月期はマイナス成長をつける可能性が高そうだ。インドネシア中央政府は4月3日に「大規模な社会的制限(PSBB)」を施行したことを受けて、ジャカルタ特別州や西ジャワ州、バンテン州など地方自治体がPSBBを発動している。しかし、ウイルス感染のピークはまだ見えておらず、ジャカルタ特別州では5月22日までのPSBBの延長が決定しており、またPSBBの施行後に公表された消費者信頼感指数と企業景況感指数は急速に悪化している(図表4)。4-6月期は消費・投資の伸びがそれぞれマイナスに転落するだろう。外需は、1-3月期は財貨輸出の増加により持ちこたえたが、欧米や東南アジア諸国の活動制限措置は3月中旬から始まっており、4-6月期の更なる悪化は避けられない。
足元では各国で段階的な制限解除の動きがみられるなど明るい兆しがみえてきており、うまくいけばインドネシアにおいても新型コロナの感染拡大による経済の悪影響は4-6月期にピークをつけるだろう。しかし、活動再開は再流行のリスクを伴うため、非常に緩やかなものとなる。またPSBBの延長や景気対策の即効性が乏しいものとなれば経済低迷が長期化し、2期連続のマイナス成長(テクニカル・リセッション)となる恐れがある。
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斉藤誠(さいとう まこと)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 准主任研究員
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