2020年1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比1.8%減(1)と、前期の同1.6%増から低下したが、Bloomberg調査の市場予想(同3.9%減)を上回る結果となった(図表1)。

タイGDP
(画像=PIXTA)

実質GDPを需要項目別に見ると、主に輸出と投資の悪化が成長率低下に繋がった。

民間消費は前年同期比3.0%増と、前期の同4.1%増から低下した。費目別に見ると、レストラン・ホテル(同22.6%減)や交通(同10.9%減)、衣類・靴(同7.1%減)、娯楽・文化(同3.7%減)が落ち込んだ。一方、食料・飲料(同3.0%増)や住宅・水道・電気・燃料(同3.1%増)、通信(同2.8%増)は底堅く推移した。

政府消費は同2.7%減と、前期の同0.9%減から更に低下し、2期連続のマイナスとなった。

投資は同6.5%減と、前期の同0.8%増から急落した。投資の内訳を見ると、まず民間投資が同5.5%減(前期:同2.6%増)と下落した。民間設備投資(同5.7%減)と民間建設投資(同4.3%減)が揃ってマイナスに転じた。また公共投資は同9.3%減(前期:同5.1%減)と、2期連続で減少した。公共設備投資(同4.2%増)が6期ぶりに増加したものの、公共建設投資が二桁減(同13.4%減)となった。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が▲3.1%ポイントと、前期の+3.0%ポイントから大幅に悪化した。まず財・サービス輸出が同6.7%減(前期:同3.6%減)と下落した。うち財貨輸出が同2.0%増(前期:同5.1%減)とプラスとなったものの、サービス輸出が同29.8%減(前期:同1.1%増)と大幅に下落した。財・サービス輸入についても同2.5%減(前期:同8.3%減)と低迷した。

タイGDP
(画像=ニッセイ基礎研究所)

供給項目別に見ると、幅広い産業で成長率が低下した(図表2)。

農林水産業は干ばつの深刻化により、前年同期比5.7%減(前期:同1.6%減)と低下した。

鉱工業は同1.9%減となり、前期(同1.9%減)に続いて低迷した。まず主力の製造業が内外需の悪化により同2.7%減(前期:同2.3%減)と低下し、3期連続のマイナスとなった。製造業の内訳を見ると、自動車やコンピューター・部品などの資本・技術関連産業(同1.5%減)と石油化学製品、ゴム・プラスチック製品などの素材関連(同2.2%減)、食料・飲料や繊維、家具などの軽工業(同4.2%減)が揃って減少した。一方、電気・ガス業は同1.1%減(前期:同0.4%減)、鉱業は同2.6%増(前期:同1.0%増)と小幅に上昇した。

全体の6割弱を占めるサービス業は同1.1%減(前期:同4.1%増)と急落した。サービス業の内訳を見ると、ホテル・レストラン業(同24.1%減)や建設業(同9.9%減)、運輸・倉庫業(同6.0%減)、管理及び支援サービス(同6.7%減)がマイナス成長、また不動産業(同1.6%増)や保健衛生・社会事業(同1.0%増)、教育(同1.8%増)などが伸び悩んだ。一方、小売・卸売業(同4.5%増)や金融・保険業(同4.5%増)、情報・通信業(同4.4%増)、芸術・娯楽等(同9.2%増)は底堅く推移した。

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(1)5月18日、タイの国家経済社会開発委員会(NESDC)が2020年1-3月期の国内総生産(GDP)を公表した。

1-3月期のGDPの評価と先行きのポイント

タイ経済は昨年こそ輸出の低迷が続く中でも概ね+2%台の緩やかな成長が続いていたが、2020年1-3月期の成長率が前年比1.8%減と落ち込んだ。同国のマイナス成長は2014年1-3月期以来である。

1-3月期のマイナス成長は、投資縮小と外需の悪化が主因だ。タイでは、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、政府が3月18日から学校と娯楽施設を閉鎖、26日から非常事態宣言を発令して外出・移動制限を強化するなど、経済活動が著しく抑制されることなった。結果、民間投資(同5.5%減)が3年ぶりのマイナス成長を記録、民間消費(同3.0%増)も鈍化した。また政府部門は、2020年度予算の成立が遅れた影響が加わって公共投資(同9.3%減)と政府消費(同2.7%減)がそれぞれ縮小した。

外需については、金価格の高騰を背景に財貨輸出が小幅ながら増加(同2.0%増)したものの、サービス輸出(同29.8%減)の減少を相殺できず、財貨・サービス輸出全体で同6.7%減と下落した。各国政府が実施している海外渡航規制や入国制限措置により、1-3月の訪タイ外国人旅行者数(前年比38.0%減)が大幅に減少したことが、サービス輸出の悪化に繋がった(図表3)。

景気下支えに向けては、タイ政府はこれまでに3段階に分けて計2兆5,000億バーツ(約8.3兆円)の経済対策を発表、中小零細企業を対象とした低利融資などの財政支援策、現金給付金の支給や公共料金の引き下げなどの生活支援策を打ち出している。またタイ中銀は今年に入って2月と3月に0.25%の利下げを実施し、政策金利を過去最低水準の0.75%まで引き下げている(図表4)。

タイ政府は4月3日に夜間の外出を禁止、4月に予定していたタイ正月(ソンクラーン)の祝日を延期するなど厳しい活動制限を続けたが、5月3日からレストランや市場、理髪店・美容院、運動場など8種類の施設を再開するなど段階的な制限解除に舵を切り、更に17日には第2弾の制限緩和を実施して大型商業施設や小売・卸売店、介護施設、宿泊施設、美容関連施設、図書館などを再開した。なお、このように制限措置が緩和されるなかでも、足もとの新型コロナの新規感染者数は一桁台で推移しており、今のところは感染拡大を食い止めることに成功している。

タイ経済の先行きは、活動制限期間の長い4-6月期の成長率の一段の低下は避けされないだろう。7-9月期は活動制限措置の緩和を受けて内需が持ち直しに向かうだろうが、パンデミックの拡大を食い止めるための感染対策は引き続き必要とされるほか、外需は財貨輸出と外国人観光客数の減少が続くと予想されるため、3期連続のマイナス成長も予想される。

タイGDP
(画像=ニッセイ基礎研究所)

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斉藤誠(さいとう まこと)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 准主任研究員

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