先月までの動き

先月は、年金改革に関係する審議会等が開催されなかった。

ポイント解説:2020年改正法案の修正と付帯決議

2020年の年金制度改正法案は、今年3月3日に国会へ提出された後、新型コロナ禍下の4月14日に審議入りし、5月29日の参議院本会議で可決され成立した。本稿では、国会審議の過程で可決された法案の修正と附帯決議を確認する(1)。

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(1) 法案の要点・課題と検討規定は、本誌2020年1月号と同4月号とで採り上げた。

●法案の修正:障害年金と児童扶養手当の併給時の配慮と検討規定の追加

衆議院厚生労働委員会では、審議の序盤に、野党が政府案に対する修正案と年金積立金等に関する法案とを提出していた。しかし、審議の最終日にそれらが撤回され、新たに提出された与野党共同の修正案が全会一致で可決された(修正部分以外の政府案は賛成多数で可決)。

修正内容には、改正法の施行に直接関係するものと、附則の検討規定の追加がある。

施行に直接関係するのは、障害年金と児童扶養手当の併給で複数の子を持つ場合への配慮(2)で、野党のみの修正案に含まれていた内容である。

附則の検討規定は、政府案に3項目あったが、野党のみの修正案をもとに、さらに3項目が追加された。今回の改正は小粒で次期改正に期待する意見もあるが、これらの6項目が優先課題になろう。

検討規定
(画像=ニッセイ基礎研究所)

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(2) 政府案で、障害基礎年金を受給するひとり親も、障害基礎年金と児童扶養手当との差額を受給できるようになるが、その際に子が多いほど差額が少なくなることを回避する内容。

●附帯決議:適用拡大の推進や基礎年金の水準低下への対策など広範囲

附帯決議は、改正法(附則)ほどの強制力はないものの、政府が尊重する事項となる。

厚生年金の適用拡大では、今回の改正で試案(オプション試算)より後退する形での段階的な拡大(3)となった企業規模要件について、早期撤廃(すなわち全企業規模への拡大)の速やかな検討を求めている。対象企業の負担増加には支援の拡充で対応する方針も示されており、社会全体で負担を分かち合いながら適用拡大を進める、という方向性が明示されている。ただ、改正法附則には、「次の財政検証等を踏まえ」と記載されているため、検討開始がどの程度早期化されるかは不透明と言えよう。

基礎年金については、附則の修正(図表1)で、水準低下を踏まえた様々な見直しの検討を規定しているが、付帯決議では拠出期間の延長(40→45年)を特に取り上げている。延長の最大課題は国庫負担だと厚労相も答弁しており、新型コロナ対策の財政負担がある中で、さらに難しい課題となろう。

法案の早期成立で、次期改正までの冷静な検討の時間が増えた。腰を据えた議論を期待したい。

付帯決議
(画像=ニッセイ基礎研究所)

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(3)オプション試算では企業規模要件の撤廃が最も小規模な拡大案だったが、成立した改正法では、2022年10月に正社員100人超、2024年10月に同50人超の企業へと拡大される。
(4)附帯決議の内容を、衆参の比較も考慮して要素ごとに分割して整理した(附則と重複する事項は割愛)。本稿執筆時点では参議院の附帯決議が文書として未公開で、中継動画から書き起こした。そのため、用字や句読点が相違している可能性がある。

中嶋邦夫(なかしま くにお)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任

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