オーナー企業にはオーナー企業ならではの経営課題がある。オーナー企業は社長が先導して経営を進める反面、社員が経営課題についてストレートにいえない部分が多いのが現状だ。企業を継続的に発展させていくためには、社長が見落としがちな課題を克服していく必要がある。今回はオーナー企業にありがちな課題をテーマに中小企業経営を向上させるためのヒントを解説する。

オーナー企業とは?

オーナー社長
(画像=One/stock.adobe.com)

オーナー企業とは、創業者一族など特定の一族が所有し経営を行っている企業を指し、同族企業、ファミリー企業とも呼ばれる。中小企業の大半がオーナー企業であり、日本を代表する大企業の中でも創業一族の名前を社名に残したオーナー企業が存在する。

オーナー企業にありがちなオーナーと社員とのギャップ

オーナー企業にありがちな課題のひとつに、オーナーと社員の考え方や着目点のギャップがある。オーナーは経営者の視点で考え、社員は社員の立場で考えるのであるから、ギャップがあるのは当然だ。

ここでオーナー社長が気をつけなければいけないギャップは、社員が考えている経営の問題点にはオーナーが関連している事柄が多々ある点だ。オーナーが関連する問題点はオーナー企業では、表に出てくるケースがまれである点も、オーナー企業社長が気をつけたいポイントになる。

1.企業の重要な機能をオーナーに依存している

社員が考えているオーナーが関連している問題点は、オーナーの人格や存在を指しているものではない。「企業の重要な機能をオーナーに依存している」点である。

オーナーが強力な個人のパフォーマンスやリーダーシップを発揮できることがオーナー企業の利点であるが、一方で企業経営の行方をオーナーに依存していることにもつながる。オーナーは、自分自身のパフォーマンスやリーダーシップが企業の問題点とは考えにくい。

従業員は、将来的に企業が存続していくことや、オーナーに万が一のことがあった時の危機管理にためには、企業の重要な機能の全てをオーナーに依存することは大きな問題点であると考えるのである。

社員は、オーナーの強力なパフォーマンスやリーダーシップが、自社の強みであり、現在の企業経営の成功には欠かせないことも理解している。しかし「企業の重要な機能をオーナーに依存している」点が経営課題であることを指摘することは、社員が社長を批判しているともとらえられる可能性があるため、その問題を発言することはまずありえないだろう。

企業の重要な機能の全てをオーナーに依存することは大きな問題点であるにもかかわらず、オーナー企業では隠れた問題点となることが多いのである。

オーナー社長が主体となって抱えがちな企業の重要な機能には下記の6つの機能があるだろう。

・イノベーション
・新事業展開
・新規顧客開拓
・新店舗出店
・生産性の向上
・ブランディング

イノベーション、新事業展開、新規顧客開拓、新店舗出店など、企業が新しことにチャレンジする機能や改革をおこす機能は、社長の経験やスキル、情報量、考え方で決められることが多く、依存性が高い。

企業で何かをスタートするときに、能力とパフォーマンスに優れた社長が迅速に決定していく点はオーナー企業のメリットであり、スピード感ある経営は、競争力を強化する。しかし、社員の視点で考えてみると、社長が不在時に、自社が今と同様の経営を維持していけるのかというリスクを感じるのである

さらに、生産性の向上、ブランディングなどを含め、多くの重要な機能がオーナー社長の頭の中で考えられ決定されている。社長の頭の中にどのような情報があって、どのような思考で決定まで導いていくかという点は、社長以外の人が理解することは困難であり、現在社長が実行している役割を社長の代わりに実行することも難しくなるのである。

2.オーナーの役割

オーナー社長はオーナーの役割について次に上げる4つの考え方をしがちである。

・自分と同様のパフォーマンスを発揮できる社員はいない
・企業の重要な機能を決定するのはオーナーの役割である
・企業の重要な決定は社員と決めるものではない
・オーナーの役割を社員に移していく必要はない

このように、自社の重要な機能の全てを担うのが自分の役割であると認識しているため、企業の継続や危機管理のためには、企業の重要な機能の全てをオーナーに依存することが大きな問題点であるという点に気づきにくく、課題として取り上げられないことが多い。

3.事業の継続と危機管理の重要性

事業の継続と危機管理が、企業経営にとって最も重要な課題である点は社長も社員も理解している。しかしながら、オーナーが関与している問題点は、オーナー企業では表面化しにくいということをオーナー社長は注意する必要があるだろう。

オーナー企業が社員とのギャップを埋める3つのポイント

オーナー企業にありがちな社員とのギャップがある問題点は、企業が継続的に発展していくためには、解決すべき経営課題である。オーナー社長は、この表面化しにくい問題点に対しどのような取り組みをしていけば良いのであろうか。今回は3つの取り組みを紹介する。

1.中堅社員の意見を聞く取組みを行う

オーナー企業では、社員の意見はなかなか社長に届きにくい傾向がある。特に社長の能力やスキルが優れ、率先してパフォーマンスを行うオーナー企業では、なおさら社員の意見は届きにくいのが現状だろう。オーナー社長は社員から意見を聞く取組みが必要だ。表面化しにくい問題点は、オーナーが自分の頭で考えても見えてこないのである。

ここで重要なのが、どの層の社員をターゲットに意見を聞くべきかである。答えは「中堅社員」である。なぜなら、勤務期間が長く、オーナー社長と関係の深い幹部社員は、オーナー社長の右腕として社長の方針や決定に従って業務を行ってきた時間が長い。企業の重要な機能の全てをオーナーに依存することに慣れきってしまい、問題点として認識することは難しい。

また、入社して勤務期間が短い若手社員は、まだ、自社の経営について深く関わる機会がないケースが多い。そのうえ、自社はすべて社長の意向で重要な経営方針が決まっていくものだと、先輩社員や上席にレクチャーされれば、オーナー企業とはそのようなものだと考え、企業の重要な機能の全てをオーナーに依存することを問題点として考えることはないであろう。

中堅社員は、企業での業務経験を積み、企業経営にとって重要な業務に関わる機会も与えられ、自社の問題点を見つけることができる層である。しかも、中堅社員の多くは、オーナー社長より年齢が若いことが多く、現在の社長から、次の社長になった場合の課題として、企業の重要な機能の全てをオーナーに依存している体制を自分の身に起こる現実的な問題点として掴むことができるのだ。

オーナー社長は中堅社員が自社の経営課題と問題点を発言できる機会を設ける取組をすべきであろう。具体的には、中堅社員を対象に企業の将来に向けて話し合う機会を設定することになるわけだが、中堅社員の本音を聞き出すためには、いくつか注意しなければならない点がある。

第一に、オーナー社長自身が参加することは避けなければならない。第二に、気兼ねなく発言できる場を設定しなければならない。

2.オーナーが社員に任せる決断をする

社員の意見を聞くまでもなく、企業の重要な機能を全て自分が担っている企業経営の問題点をすでに認識しているオーナー社長もいるだろう。ただし、オーナー社長は多忙で、目の前の企業運営を成功に導くには、社員に任せるのではなく自分自身が実施したほうがスピーディーなため、社員へ企業の重要な機能を任せることを先送りにしてしまう。そのようなケースの場合は、オーナー社長が社員に任せる決断をすることが必要だ。

3.オーナーが抱えている企業の重要な機能の棚卸しをする

オーナー社長は、企業の多くの機能を自分自身で行っている。時間に追われてこなしていく業務は、自分の頭に中にインプットされているので、自分以外の社員が理解できるように明確になっているわけではない。自分が抱えている重要な機能を棚卸しすることも重要だ。

オーナー企業が経営で気をつけたい3つの注意点

オーナー企業運営で社長が気をつけたい注意点は次の3つである。

1.オーナー企業経営に欠かせない企業理念やビジョンの共有

企業経営で重要な点のひとつに企業理念やビジョンの共有がある。それは、オーナー社長が自分の抱えている企業の重要な機能の棚卸しを行い、社員に機能を任せると決心した場合は特に重要だ。なぜなら、決断を下す時の判断の基準となるのが企業理念やビジョンであるからだ。

2.企業経営に影響力が大きい社員と労働組合

企業経営に最も影響力をもつ主体のひとつが社員と労働組合である。オーナー社長は社員と労働組合の考えを考慮して運営をすすめる必要がある。

3.ハラスメント防止のための取り組み

職場でハラスメントが起こらないように、ハラスメント防止について、オーナー社長は明確な意思表示を行い、相談窓口を設置するなどの措置を実行しなければならない。

オーナー企業社長が知っておきたい「所有」と「経営」の意識

オーナー社長が気をつけたいのが「所有」と「経営」についての意識だ。

大企業は株主が所有している

企業の経営を考える時、オーナー社長が気をつけたいのが、誰が企業を所有しているかという点だ。大企業の中でも多くの企業が、創業者一族が経営しているいわゆるオーナー企業である。創業者一族による経営は、社内的に絶対の影響力を持つことが多い。

しかしながら、大企業のオーナー社長は企業を所有はしていない。企業を主有しているのは株主である。創業一族のオーナー社長であっても持ち株比率が高くないケースが多いのである。

つまり、大企業の場合、オーナー企業であっても、所有と経営が分離している。社内的に影響力をもつオーナー社長であっても、株主から退任を要求される可能性があり、経営の透明性や適度な緊張感を持った経営を求められるのである。

中小企業は所有と経営が一致していることが多い

中小企業の多くは非上場企業であり、オーナー社長本人と、家族、親族が株式の大半を所有している。所有と経営が一致していることが多いため、外部の目を意識した経営を要求されることがない。スピーディーな経営判断が可能である反面、オーナー社長は、適切な経営判断を下すために、自ら適度な緊張感を持ち、経営の透明性の向上を意識しなければならないであろう。

オーナー企業経営には働きにくいと思われない職場環境づくりが重要

日本企業は、少子高齢化による人材不足や、社員のニーズに合わせた多様な働き方の実現など、多くの課題を抱えている。加えて中小企業では、オーナー社長と社員で企業の課題に対するギャップが生じやすい。オーナー企業社長は、社員と企業理念やビジョンを共有しながら緊張感をもって企業経営を行い、社員が意欲をもって能力を発揮できる職場環境をつくることが重要となるであろう。(提供:THE OWNER

文・小塚信夫(ビジネスライター)