はじめに~5月の消費者心理は4月より上昇、一旦底が見えたか

5月は全国で緊急事態宣言が解除されたことで、消費者心理は4月と比べて上向いた(図表1)。依然として、リーマンショック後の最低値を下回っているが、新型コロナウイルスの感染拡大の第二波などによる再度の緊急事態宣言の発令ということにならない限りは、一旦、消費者心理の底は見えたのではないか。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

今後、消費者心理は徐々に改善することが予想される。しかし、制限のある中での経済活動の再開となり、雇用環境が急速に悪化している中では、その戻りは鈍いものとなるだろう。

新型コロナによる消費の明暗~消えた外出型消費、テレワーク需要増、自家用車・自転車で代替

●減少した支出項目~旅行や航空、鉄道、外食などの外出型消費は9割減

5月に改善は見られたものの、4月の消費者心理は最低値を記したことで、家計消費も大幅に減った。総務省「家計調査」によると、2020年4月の二人以上世帯の消費支出は前年同月比で実質11.1%減少している。内訳を見ると、3月と同様1、外出自粛等の影響で旅行や移動、外食などの外出型消費は大幅に減る一方、巣ごもり生活で需要が増した領域もあるなど、明暗が分かれた結果となっている。

4月は緊急事態宣言が発令されたことで、3月と比べて一層、外出型消費が減り、ほぼ消えたと言っても過言ではない状況だ(図表2)。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

旅行やレジャー関連では、パック旅行費の前年同月と比べた実質増減率は3月は▲83.2%だったが、4月は▲97.1%へ、宿泊費は▲55.4%から▲94.7%へ、遊園地入場・乗物代は▲86.8%→▲97.8%へと、100%に近い値まで減少している。

交通関連では、航空運賃(▲84.7%→▲94.5%)>鉄道運賃(▲65.2%→▲89.9%)>バス代(▲46.0%→▲71.5%)>タクシー代(▲44.7%→▲69.8%)というように、移動距離が長いほど、減少幅は大きく、航空運賃では9割を超える。

なお、外出を伴う消費行動として、外食の減少幅もさらに拡大し、飲酒代の減少幅は9割を超える(▲53.5%→▲90.3%)。

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(1)久我尚子「新型コロナで増えた消費、減った消費」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レター(2020/5/13)

●増加した支出項目~テレワーク需要一層色濃く、衛生用品の再流通、自家用車・自転車で代替

一方で、巣ごもり需要は引き続き堅調だ。また、4月は緊急事態宣言の発令で、在宅勤務へと大きく舵が切られたため、3月と比べてテレワーク関連の需要が色濃くなっている。

例えば、パソコン(▲9.6%→+72.3%)やインターネット接続料(+12.4%→+17.7%)の増加幅が拡大している(図表3)。一方、ゲーム機やゲームソフトも大幅に増加しているものの、その増加幅は3月ほどではなく、休校中の子ども需要の影響が大きかった様子がうかがえる。

また、食においては、テレワーク中の昼食需要の影響もあるのか、より手軽さを求める傾向とともに、家の中で食事を充実させる傾向が合わせて見てとれる。パスタ(+44.4%→+79.5%)や即席麺(+30.6%→+43.3%)は、米(+15.3%→+11.8%)と比べて伸びている。また、4月は電子レンジ(▲19.3%→+30.0%)も増加している。一方で、チューハイ・カクテル(+22.8%→42.1%)といった家飲み需要や、生鮮肉(+10.1%→20.7%)も一層伸びている。

なお、マスクやガーゼを含む保健用消耗品(+17.8%→+123.9%)が大幅に伸びているが、衛生用品は買だめ的な行動の影響で品薄になっていた状態が緩和され、流通し出したということなのだろう。

また、前述の通り、交通関連の支出額は大幅に減少してたが、近場の移動などは自家用車や自転車が代替手段となっているようだ。自動車等購入(+36.9%→+26.6%)は3月ほどではないが、4月も前年同月を上回り、4月は過ごしやすい季節となったためか自転車(▲20.6%→+14.9%)も伸びている。現在、徐々に通勤や外出が再開されている状況だが、未だウイルスの脅威は去っていない。一定層は引き続き、公共交通機関から自家用車や自転車の利用へとシフトすることが予想される。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

6月以降の消費行動~じわり外出型消費が増えても低迷は続く、新たな需要や価値観変化の把握を

6月以降の家計消費は、経済活動の再開に伴い、外食や交通などの外出型消費がやや増えるだろう。しかし、依然としてウイルスとの戦いは続いている。ワクチンや特効薬などの科学的な解決方法が登場しない限り、外出型消費は元に戻らずに、消費全体として低迷が続くだろう。

また、今後は家計収入の減少による影響も懸念される。外出型消費に関わる企業では大幅に減収しており、雇用環境は急速に悪化している。使えるお金が減ることに加えて、先行き不安から、家計消費では必需性の高い消費以外は控える消費抑制傾向が強まるだろう。

実は、その傾向はすでにあらわれているようだ。4月の二人以上世帯の実収入は前年同月と比べて0.9%増加している(世帯主収入は+0.5%、配偶者の収入は+2.9%)。つまり、収入は若干増えているにも関わらず、消費は約1割も減っている。当然ながら、外出消費ができなくなった影響も大きいが、過去最低水準の消費者心理を見れば先行き不安の影響も否めない。

一方で、暮らしが激変したことで消費構造や生活時間の構造も変わり2、新たな需要が見込める領域もあるだろう。今、企業活動に求められることは、消費者の価値観や需要変化を丁寧に捉え、ビジネスのデジタル化を加速させることだ。

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(2)久我尚子「新型コロナで変わる生活時間、消費構造にも影響」、ニッセイ基礎研究所、研究員の眼(2020/5/25)

久我尚子(くが なおこ)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 主任研究員

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