本業を中心に1社数千万円~数億円の新会社を次々に設立し、日本で最も事業多角化に成功しているオーナー経営者・ヤマチユナイテッド代表の山地章夫 氏。父の会社を引き継ぎ倒産寸前となるも、現在では50社超の会社を次々と作り上げ、グループ総売上160億円企業、利益10億円、毎年10%以上の成長を続け、実質無借金経営という、卓越した経営手法が注目されている。
本記事は、幹部の反乱・社内クーデター、新事業の失敗、縦割り組織の弊害など、自らの経験から、試行錯誤の末、導きだした多角化の経営ノウハウをあますところなく提示する著書『連邦・多角化経営』(税込14,850円、日本経営合理化協会出版局)の第2章、P79-94から一部を抜粋・編集して掲載しています。
目次
新規事業・新商品を考える時に便利なフレームワーク(枠組み)
ヤマチユナイテッドの中核会社ジョンソンホームズの創業から今日までの軌跡については前章で述べた。
現在、ジョンソンホームズは、注文住宅事業に加えて、リフォーム事業、インテリアショップ事業、レストラン・カフェ事業、保険事業、住宅フランチャイズ事業、ライフスタイル倶楽部事業など、7つの事業をおこなっている。それらを図に示したのが第4図である。
ご覧のとおり、事業もブランドも多岐にわたるが、どういう発想で新規事業を展開していったのか、ジョンソンホームズの事例を中心に発想法を紹介しよう。
その前に、便利なフレームワーク(枠組み)を説明しておきたい。それは、戦略経営の父と呼ばれるイゴール・アンゾフが『多角化のための戦略(StrategiesforDiversification)』という有名な論文で提唱した製品市場マトリクスが元になっているが、それを私流に改良して、新規事業を発想するために使っているのが第5図だ。
縦軸に「事業(ノウハウ)」、横軸に「市場(顧客)」を取り、それぞれを「既存」と「新規」の2つに分けて、4つの象限のマトリクスとした図である。
アンゾフは、もっと複雑な図も書いているが、われわれ経営者は学者とは違うので、新規事業を発想するには、この4つの象限マトリクスで十分である。
では、第1象限から第4象限まで順に説明しよう。
〔第1象限〕細分化による多角化
マトリクスの第1象限は、今ある事業(ノウハウ)と今と同じ市場(顧客)で売上増大をはかる戦略である。
この第1象限の戦略で新規事業を発想する場合は、
・市場(顧客)をもっと小さくして分けてみる
・専門化してみる
の2つのポイントで考えればいいだろう。
わかりやすい例を一つあげれば、寿司屋やうなぎ屋のメニューによくある松・竹・梅である。
同じ売りものでも、グレードと値段の違う3種類を用意して顧客に選んでもらうというやり方だ。
アップルのアイフォンやアイパッドも、色や大きさ、容量の違った数種類を販売している。時代が変わっても、顧客は複数のものから、自分に合った好きなものを選択したいという心理を潜在的にもっているのだ。
ジョンソンホームズの事業の例でいうと、同社の基本事業は注文住宅事業である。顧客は住まいと暮らしにこだわりをもつ人たちである。
そのジョンソンホームズが、この第1象限の戦略で展開したのが、さらに住まいと暮らしにこだわりをもつ顧客を細分化して、住宅の種類を増やしていくことだった。
たとえば、「インターデコハウス」というブランドは、ヨーロッパのデザインの住宅ブランドある。「ナチュリエ」は自然木材にこだわった住宅。住まいにお金をかけずにちょうどいい住宅を提案する「COZY」、当社が経営するインテリアショップ「inZONEwithACTUS(インゾーネウイズアクタス)」で家具を買ってくださった顧客に家具にあった家を提案する「inZONEDESIGNLABO」、ガレージライフを楽しめる定額住宅「アメカジ工務店」というように、市場(顧客)を細分化して5つの住宅ブランドを立ちあげていったのだ。
〔第2象限〕商品開発による多角化
マトリクスの第2象限は、今と同じ市場(顧客)に、違う事業(ノウハウ)を展開することによって売上増大をはかる戦略である。