福利厚生の一環として、役員や従業員の保障を生命保険で準備できる。契約形態によって異なるが、在職中の医療保障や退職金の準備などに活用できる。今回は中小企業が加入できる生命保険の種類や税制、代表的な活用方法についてお伝えしよう。
福利厚生として活用できる保険
生命保険では、万が一亡くなった場合の死亡保障(第一分野)や、病気・ケガに見舞われた場合の医療保障(第三分野)などを準備できる。
役員・従業員が在職中にこれらの事由に該当した場合、保険金や給付金などが支払われるため、遺族の生活費や役員・従業員の医療費をカバーできる。
退職時に保険契約の解約によって解約返戻金を支給すれば、役員・従業員が退職後の生活費に充てることもできる。
生命保険の種類
種類1.定期保険(死亡保障)
一定期間内の死亡を保障する商品だ。期間内に死亡した場合に死亡保険金が支払われるが、保険期間が終了すると保障がなくなる。後述する養老保険のような満期保険金もなく、いわゆる「掛け捨て」の保険だ。
法人で加入する定期保険には、保険期間を長期間に設定でき、解約返戻金が貯まる商品もある。退職時に解約して、役員の退職金に活用するケースもある。
種類2.養老保険(死亡保障)
定期保険と同様に一定期間内の死亡を保障する商品である。保険期間終了後には満期保険金が受け取れるので、退職金の財源などに充てられる。
一定期間の死亡保障とともに資金も準備できるため、従業員の福利厚生に活用しやすい。
種類3.終身保険(死亡保障)
一生涯にわたって死亡保障が継続する商品である。解約時には解約返戻金が受け取れるので、役員に対する在職中の保障と退職金の支給を目的に活用できる。
保障期間が定められていないことから、相続対策にも活用しやすい。
種類4.医療保険・がん保険(医療保障)
病気やケガで入院・手術した場合や、悪性のがんと診断された場合などに給付金を受け取れる商品だ。
保障期間は一定期間と終身から選べる。解約返戻金がない掛け捨て式だが、保険料は割安だ。役員・従業員に対して在職中の医療保障を準備できる。
福利厚生に生命保険を活用したときの税制
法人が契約者として生命保険に加入する場合、商品や契約形態によって支払保険料の税務が異なる。ここからは、法人が加入する生命保険に関する税制を説明する。
定期保険及び第三分野保険(医療保険等)
契約パターン
契約者:法人
被保険者:役員・従業員
死亡保険金受取人:法人
最高 解約返戻率 | 損金算入 割合 | 資産計上 期間 | 資産計上額の 取崩期間 |
---|---|---|---|
50%以下 | 全額損金 | なし | - |
50%超 70%以下 | 3/5損金 | 契約日から保険期間の4割相当の期間が経過するまで | 保険期間の3/4の期間経過後から契約満了まで |
70%超 85%以下 | 2/5損金 | ||
85%超 | ・契約日から10年目まで 100%-(最高解約返戻率×0.9) ・契約日から10年経過後 100%-(最高解約返戻率×0.7) | ①から③のいずれかの期間 ①:契約日から最高解約返戻率となる期間まで ②:①の期間経過後において「解約返戻金の増加分÷年換算保険料相当額」が7割超となる期間がある場合は、契約日からその期間の終わりまで ③:①または②の期間が5年未満の場合は保健期間の開始日から5年を経過する日まで(保険期間が10年未満の場合は、保険期間の1/2の期間) | 解約返戻金額が最も高い金額となる期間経過後から契約満了まで (期間が複数ある場合は、最も遅い期間。左記③に該当する場合は③の期間) |
※年換算保険料相当額=支払保険料の総額÷保険期間の年数
※保険期間が終身の第三分野保険については、保険期間の開始日から被保険者の年齢が116歳に達する日までを計算上の保険期間とみなす。
最高解約返戻率50%超70%以下で、一被保険者あたりの年換算保険料相当額が30万円以下(全保険会社の契約を通算)となる契約については全額を損金に算入できる。
定期保険は、最高解約返戻率が高いほど損金算入できる保険料の額が少なくなる。計算式が複雑だが、各保険会社とも契約ごとに経理処理が決まっているため、契約者である企業が計算する必要はない。
養老保険
養老保険は死亡保険金と満期保険金の受取人によって、支払保険料の経理処理が異なる。
契約パターン1
契約者:法人
被保険者:役員・従業員
死亡保険金受取人:法人
満期保険金受取人:法人
支払保険料の全額が資産計上となる。
契約パターン2
契約者:法人
被保険者:役員・従業員
死亡保険金受取人:被保険者または被保険者の遺族
満期保険金受取人:被保険者または被保険者の遺族
支払保険料の全額が役員・従業員の給与となる。
契約パターン3
契約者:法人
被保険者:役員・従業員(全員)
死亡保険金受取人:被保険者の遺族
満期保険金受取人:法人
支払保険料の1/2が資産計上され、残額は期間の経過に応じて損金に算入される。ただし、特定の役員・従業員のみが被保険者となっている場合、損金に算入した額がその役員・従業員の給与となる。
終身保険
終身保険も死亡保険金との受取人によって、支払保険料の経理処理が異なる。
契約パターン1
契約者:法人
被保険者:役員・従業員
死亡保険金受取人:法人
支払保険料の全額が資産計上となる。
契約パターン2
契約者:法人
被保険者:役員・従業員
死亡保険金受取人:被保険者の遺族
支払保険料の全額が役員・従業員の給与となる。
福利厚生として生命保険を活用するメリット
福利厚生として生命保険を活用するメリットについてお伝えする。
メリット1.従業員の勤労意欲や満足度の向上
企業が在職中の死亡保障や医療保障、退職金を準備することによって、従業員とその家族の生活や健康を守れる。従業員の満足度が向上し、勤労意欲も湧くだろう。
メリット2.資金繰りの悪化に対処できる
解約返戻金のある生命保険に加入すれば、万が一資金繰りが厳しくなったときも保険契約の解約で対処できる。
「契約者貸付」制度を利用して財源を確保することも可能だ。解約返戻金の一定範囲内で貸付してもらえる。
メリット3.節税効果が得られる
契約形態によって、支払保険料の一部または全額を損金として算入できるほか、税の繰り延べ効果も期待できる。役員・従業員の保障を整えながら税負担を軽減できるので、企業にとって一石二鳥といえよう。
福利厚生として生命保険を活用する方法【役員向け】
役員や社長に万が一の事があると、その後の経営に支障をきたすだろう。保険に加入しておけば、そのようなケースに企業が保険金を受け取れるため、当面の運転資金を確保できる。
勇退時に向けて退職金を準備すれば、役員が退職後の生活費に充てられる。
定期保険
最高解約返戻率によって支払保険料の経理処理が異なる。
最高解約返戻率が「70%超85%以下」となる契約形態であれば、支払保険料の2/5が損金算入となる。
退職予定時期に解約返戻率が高くなるように加入すれば、在職時の死亡保障と退職金原資を合わせて準備できる。
退職時に法人が解約返戻金を受け取り、役員に退職金として支給した場合を考えてみよう。法人は支給額の一定額を損金として算入でき、役員が受け取った退職金は退職所得となる。
保険期間中の保険金額や解約返戻金の額は保険会社・年齢・商品などによって異なる。加入を検討する場合は保険会社の担当者に確認するとよいだろう。
終身保険
終身保険では、死亡保険金受取人を法人にした場合、支払保険料は損金に算入できない。しかし、退職時に解約返戻金を退職金として支給すれば、その額を損金として算入できる。
解約返戻金を退職金として支給する以外にも、保険契約の名義変更によって現物支給することも可能だ。死亡保険金の受取人を法人から役員の家族にすれば相続対策にも有効である。
福利厚生として生命保険を活用する方法【従業員向け】
従業員の福利厚生に活用できる生命保険は、養老保険や医療保険などだ。在職中の保障があれば、従業員は個人で負担する保険料を軽減できる。
企業は保険料の一部または全額を損金として算入できるほか、退職金の確保も可能となる。
養老保険
養老保険は全員加入(普遍的加入)が原則だ。普遍的加入でなければ、支払保険料の1/2が損金として算入されない。
しかし、年齢・勤続年数などの基準をもとに加入する場合、基準が合理的であれば普遍的加入と認められることがある。
医療保険
解約返戻金のない医療保険に加入した場合、法人が支払った保険料の全額は原則として損金に算入される。
契約パターン1
契約者:法人
被保険者:役員・従業員
給付金受取人:法人
支払保険料の全額が損金に算入される。給付金は法人が受け取る契約形態で、給付金の一部または全額をお見舞金などで被保険者に支給する。
契約パターン2
契約者:法人
被保険者:役員・従業員
給付金受取人:被保険者
支払保険料の全額が損金に算入される。給付金は被保険者である役員・従業員が受け取る契約形態である。
特定の役員・従業員のみが被保険者である場合、支払保険料は役員・従業員の給与となる点に注意したい。
法人保険に加入する際の注意点
商品・最高解約返戻率・契約形態などによって、法人が支払う保険料の経理処理は異なる。
同様の商品でも保険会社によって保険金額・保険料なども違うため、複数の商品を比較してから加入を検討したほうがよい。
退職金目的で加入する場合は、必要な退職金の額を踏まえながら、解約返戻金の推移や退職予定時期の解約返戻率などを確認する。その際、保険料負担の妥当性についても検討すべきだろう。
なお、死亡退職金・弔慰金・見舞金などの財源確保を目的とする場合は、「退職金規程」「弔慰金・見舞金規程」「福利厚生保険規程」などの作成・変更が必要となる。保障内容に変更があれば規程を修正することもある。
福利厚生を目的として生命保険を活用する場合、税務・労務などの知識が要求される。自社の状況に合わせて専門家に相談しながら加入を検討しよう。(提供:THE OWNER)
文・澤田朗(フィナンシャルプランナー・相続士)