7日、JR東日本は4-6月期の鉄道収入が前年同期比34.1%となった、と発表した。記者会見で深沢祐二社長は3密防止および新生活様式への対応として「時間帯別運賃制の導入を含む新たな運賃体系の検討に入る」と表明、あわせて、始発電車の繰り下げ、終電時間の繰り上げなど列車の運行体制や定期券の見直しにも言及した。
狙いは通勤ラッシュなどピーク時間帯の乗降客を分散させることによる混雑混和と時間帯別営業生産性の標準化、実施時期については明言を避けたが「利用客が以前のように戻ることはない」ことを前提に長期的に経営を維持するための検討を進める、とする。
新型コロナウイルスがもたらした最大の経済的災禍は “ヒトの移動制限” による。しかし今、“新生活様式” の名のもと、そこへの適応が社会的に要請され、デジタル化による “リモート社会の実現” が次世代成長戦略と位置付けられる。とりわけ、ビジネスにおけるテレワークの浸透、すなわち、ヒトの大量移動の縮小による大都市への一極集中の是正、地方の活性化、労働生産性の向上、といった社会的効用が期待される。
ウイズコロナ、アフターコロナの社会が日常生活における移動量の縮小を目指すのであれば、もはやその拡大を前提としたビジネスモデルは成り立たない。実際、在宅勤務の制度化やオフィス面積の縮小を発表した大手企業も多く、収益の柱である通勤定期需要の拡大はもはやあり得ないだろう。とすればJR東日本の戦略は一鉄道事業者としてごく自然な発想である。
移動量の縮小が社会的に肯定される未来を仮定すると、CASEやMaaSもその目指すべきゴールが変質するだろう。また、そもそも都市と地方では移動の量も質も異なる。岡山の両備グループが提起した地方の公共交通維持の問題についても未だ答えは出ていない。一方、ビジネス需要の持続的拡大を前提に1970年代に構想された第2東海道新幹線構想はリニア中央新幹線に名を代えてそのまま維持される。
新型コロナウイルスはヒトの移動が成長の前提となっていた社会のリスクを浮き彫りにした。しかし、単に量の最小化が正解ではないだろう。問題は質にある。巨大な危機を前にこれまでの前提と異なる社会を築くことが目指されるのであれば、もう一度、都市、地方、そして、高速交通網も含めて、国全体の公共交通の在り方をゼロベースから議論すべきである。
今週の“ひらめき”視点 7.5 – 7.9
代表取締役社長 水越 孝