今注目されている新しい技術のひとつに、「バイオマス発電」がある。バイオマス発電は産業構造に変化をもたらす可能性があるので、関連のある事業者はいち早くチェックすることが重要だ。該当する経営者は、これを機に基礎知識や将来の展望を確認しておこう。

いま注目の「バイオマス発電」とは?

バイオマス発電
(画像=tchara/stock.adobe.com)

バイオマス発電の「バイオマス(Biomass)」とは、化石燃料を除いた生物由来の再生可能資源のこと。具体的には林地残材や動物の糞尿などが挙げられるが、これらの再生可能資源にはこれまで廃棄する以外の選択肢がなかった。

そのような資源を有効活用し、燃料として電気を生み出す技術こそが、今回解説するバイオマス発電だ。バイオマス発電が日本で注目され始めたのは、平成14年に閣議決定された「バイオマス・ニッポン総合戦略」がきっかけとされている。

この戦略では農林水産省が中心となり、バイオマスの利活用の推進を目指して、具体的な取り組みや行動計画が策定された。これをきっかけに、バイオマス発電の導入は各地へと広がっていったが、政府はそれ以降にもさまざまな形でバイオマス発電の推進に取り組んでいる。

時期政府の主な取り組み
平成18年3月バイオマス・ニッポン総合戦略の改訂。
平成21年9月バイオマスの利活用をより推進する目的で、基本理念や施策の基本事項を定めた、「バイオマス活用推進基本法」を施行。
平成24年7月バイオマスを固定価格買取制度(FIT制度)の対象に含める目的で、「再生可能エネルギー固定買取制度」を開始。

上記の中でも「再生可能エネルギー固定買取制度」の開始は、バイオマス発電が大きな注目を浴びるきっかけとなった出来事だ。この制度が始められたことで、バイオマスは安定的に運転できる再生可能エネルギーとして広く認知されるようになった。

バイオマス発電の仕組み

バイオマス発電の基本原理自体は、火力発電と同じものだ。バイオマス燃料を活用して蒸気やガスを発生させて、その力でタービンを回すことにより電気を生み出す。

ただし、蒸気・ガスの発生方法に若干違いがあり、さらに同じバイオマス発電の中にも、以下のように3つの発電方式が存在している。

バイオマス発電の発電方式概要
・直接燃焼方式燃焼したバイオマスによって水を沸騰させ、その水蒸気でタービンを回す方式。作り出せる温度が低い影響で、効率的に電気を生み出すには大型の設備が必要になる。
・熱分解ガス化方式バイオマスを高温で蒸し焼きにし、その際に発生した熱分解ガスを使ってタービンを回す方式。燃焼温度が高いため、直接燃焼方式のような大型設備がなくても効率的に発電できる。
・生物化学的ガス化方式バイオマスを発酵させ、その際に発生した「バイオガス」を使ってタービンを回す方式。効率的に電気を生み出せる方式であり、かつ燃えにくいバイオマスでも発電できるため、さまざまな廃棄物を有効活用できる。

いずれの方式でもタービンを回す形で発電をするが、火力発電と大きく異なる点は「CO2(二酸化炭素)」の排出量だ。詳しくは後述するが、バイオマス発電は火力発電に比べると、CO2を削減しやすい発電方法として注目を浴びている。

ちなみに、バイオマス発電によって生じた排熱は、周辺地域の暖房や温水として活用できる。

バイオマスエネルギーの種類

バイオマス発電に使われる燃料(資源)は、「バイオマスエネルギー」と呼ばれている。では、具体的にどのようなものが該当するのかを交えながら、バイオマスエネルギーの種類について解説をしていこう。

1.乾燥系

乾燥系のエネルギーとは、その文字の通り乾燥した状態で使われるバイオマスエネルギーのこと。乾燥系のエネルギーにもいくつか種類があり、大まかには以下の3種類に分けられる。

乾燥系のエネルギーの種類該当する具体的なもの
・木質系林地残材、製材廃材
・農業、畜産、水産系家畜排せつ物(鳥ふん)、稲わらなどの農業残渣
・建築廃材系建築廃材

農業残渣には上記のほか、もみ殻やトウモロコシの残渣、バガスなどが含まれる。これらの乾燥系の燃料は燃えやすい性質をもっているため、主に直接燃焼方式のバイオマス発電に利用されている。

2.湿潤系

一方で、ある程度の水分を含んだバイオマスエネルギーは、「湿潤系」として区別されている。該当する具体的な資源は以下の通りだ。

湿潤系のエネルギーの種類該当する具体的なもの
・食品産業系食品加工廃棄物、水産加工残渣
・農業、畜産、水産系家畜排せつ物(牛豚糞尿)
・生活系下水汚泥、し尿、厨芥ごみ

乾燥系とは違い、湿潤系の燃料は水分を多く含んでいるので、直接燃焼させる発電には適していない。そのため、湿潤系の燃料は微生物の力で発酵させ、生物化学的ガス化方式のバイオマス発電に利用される方法が主流だ。

3.その他

バイオマスエネルギーには、乾燥系にも湿潤系にも該当しないものがある。具体的な燃料としては、主に以下のものが挙げられる。

その他のエネルギーの種類該当する具体的なもの
・製紙工場系黒液・廃材、セルロース(古紙)
・農業、畜産、水産系家畜排せつ物(牛豚糞尿)
・生活系糖・でんぷん、菜種、パーム油(ヤシ)、甘藷

その他に分類されたバイオマスエネルギーは、主に熱分解ガス化方式のバイオマス発電に活用されている。

バイオマス発電を導入するメリット・デメリット

バイオマス発電のメリット・デメリットは、従来の発電方法とは大きく異なる。もう少し理解を深めるために、具体的にどのようなメリット・デメリットがあるのかを以下で確認していこう。

バイオマス発電のメリット

バイオマス発電の最大のメリットは、CO2の削減を期待できる点だ。もちろん、資源の燃焼時にはCO2が発生するものの、これは火力発電によってもともと存在したはずのCO2なので、地球全体で見ればCO2の総量は変わらない。

また、植物系のバイオエネルギーは成長過程の中で光合成をすることにより、大量のCO2を吸収している。この時点からのCO2排出量を考えると、「成長過程で吸収したCO2の量=発電時に排出したCO2の量」とも言い換えられるため、地球規模で見たときにはCO2排出量が増加していない。これは「カーボンニュートラル」と呼ばれる考え方であり、バイオマス発電はこの考え方を基に開発されている。

ほかにも、太陽光や風力に比べて電力供給が安定しやすい点や、エネルギー資源に乏しい日本でも完結できる点など、バイオマス発電にはさまざまなメリットがある。発電者の立場から見ると、平成24年に再生可能エネルギー固定買取制度が始まった影響で、余剰電力を地域の電力会社に売却できるようになった点も大きなメリットと言えるだろう。

バイオマス発電のデメリット

バイオマス発電には魅力的なメリットがある一方で、「発電コストが高い」という問題点がある。発電設備自体も高価だが、近年では需要が増えた影響で化石燃料価格が高騰してきているので、当然のことながら発電者の収益率も下がっている。

また、安定的な燃料やスペースの確保など、現時点ではいくつか課題が残されている点もデメリットだ。トウモロコシやサトウキビなどの食糧を燃料にする方法もあるが、この方法を採用すると地域の食糧不足や価格高騰など、「別の問題を引き起こすのではないか?」と懸念されている。

バイオマス発電のメリットバイオマス発電のデメリット
・CO2の削減を期待できる
・燃料さえあれば、電力供給が安定しやすい
・日本だけで発電を完結できる可能性がある
・余剰電力を地域の電力会社に売却できる
・発電設備のコストが高い
・バイオマスエネルギーが高騰している
・安定的な燃料の確保が難しい
・燃料や設備のスペースを確保する必要がある

上記のデメリットを見てわかる通り、バイオマス発電にはいくつかの課題が残されている。しかし、従来の発電方法にはない魅力的なメリットもあるため、実用化がさらに進んでいく可能性は十分に考えられるだろう。

バイオマス発電に適した場所は?

バイオマス発電によって多くの電力を生み出し、かつ高い収益性を実現するには、「発電所の場所」にもこだわる必要がある。たとえば、以下の条件を満たしている発電所は、電力の生産から供給までをスムーズに行えるため、効率的に収益を生み出せるだろう。

・安定的に燃料が手に入る
・港に近いなど、補助的な燃料を運びやすい
・発電プラントに使用する水を、安価かつ大量に確保できる(工業用水など)
・特別高圧線が近くにある
・トレーラーが行き来しやすい立地にある
・工業団地のように、騒音や振動が問題になりにくい

なかでも特に重要になるポイントは、「燃料調達地から近いかどうか」だ。燃料調達地のすぐ近くに発電所を建てれば、そのエリアにおいて地産地消をスムーズに実現できる。

バイオマス発電は今後どうなる?将来の展望

バイオマス発電が広く普及すると、以下のようにさまざまな社会問題が解決に向かうと期待されている。

・地産地消の効果により、地域活性化につながる
・余分な木々を間引くことで、森林資源を保護できる
・第一次産業との関連性が強い、新たな雇用を創出できる

そのため、政府もバイオマス発電を積極的に支援する動きを見せており、平成28年度にはバイオマス関連の事業に10.5億円もの予算が割り当てられた。前述で紹介したように、法律や制度の整備が徐々に進んできている点も大きな変化と言えるだろう。

実際にバイオマス発電所を建設した事例は日本各地に存在するが、現時点では広く普及しているとは言えない。数ある課題の中でも、やはり「コスト」の問題が解決されない限りは、全国的に広がっていくことは難しいと予測される。

とは言うものの、バイオマス発電の将来性については多方面で認められており、2017年頃にはFIT制度の認定量が大幅に増加した。今後広く普及する可能性も十分に考えられるので、関係のある事業者は引き続き最新情報をチェックしておきたい。

関連性の強い事業者は、スムーズに対応するための準備を

実用化が進んでいるとは言え、バイオマス発電はまだ試験段階・発展途上の技術だ。現時点ではさまざまな課題を抱えており、なかでもコストの問題を解決できるかどうかが、今後の動向を大きく左右することになる。

しかし、バイオマス発電は多方面から注目されているため、今後も積極的に開発が進んでいくはずだ。特にバイオマス発電との関連性が強い事業者は、時代や技術の変化を敏感に感じ取り、スムーズに対応するための準備を整えておこう。(提供:THE OWNER

文・片山雄平(フリーライター・株式会社YOSCA編集者)