中小企業にとって「組織戦略」は、さまざまな経営課題を解決に導く重要なカギだ。効果的な組織戦略をスムーズに実行することが、会社の成長へとつながっていく。これまで意識してこなかった経営者は、これを機に組織戦略の重要性や立て方を学んでいこう。

そもそも組織戦略とは?

組織戦略
(画像=vegefox.com/stock.adobe.com)

組織戦略の定義は、実は明確には定められていない。ただし、一般的な法人のケースに当てはめれば、組織戦略とは「理想とする組織の姿」と「その理想を実現するためのシナリオ」の2点を明確にすることを表す。

これに対して、組織戦略に基づいて具体的な施策を計画し、それを実行することは「組織運営」と呼ばれる。企業やケースによって、組織戦略・組織運営の捉え方は若干異なるが、本記事では以下の考え方をベースとして解説を進めていく。

・組織戦略…「理想とする組織の姿」と「実現のシナリオ」を明確にすること
・組織運営…組織戦略をもとに施策を計画し、実行すること

組織戦略を考える重要性とは?事業戦略との関係性もポイントに

組織戦略の経営の中での位置づけは、企業によって実にさまざまである。ただし、特に労働力不足に直面しやすい中小企業では、いかに組織戦略をうまく立てるのかが経営を大きく左右する。

従業員個人の能力はもちろん経営に必要だが、その能力を最大限活かせるかは企業次第だ。たとえば、適材適所で各人材を配置できれば、個人能力の総和を超えるような成果が出ることも期待できる。

また、企業が組織戦略を考えるうえでは、「事業戦略との関係性」も意識しなくてはならない。なぜなら、組織戦略と事業戦略のどちらを重視するのかによって、以下のように経営の考え方が変わってくるためだ。

重視する戦略経営の考え方
・組織戦略組織の理想の姿を踏まえて、「どういう事業に取り組むか?」を考えていく。
・事業戦略ビジネスモデルや売上目標を先に考えて、それを実現するための組織戦略を計画する。

経営者は頭の中にあるビジネスプランを意識し、上記の「どちらの戦略を優位に立たせるのか?」について、冷静に判断をする必要がある。

どっちの戦略を重視するべき?ケース別に紹介

では、組織戦略と事業戦略のうち、重視する戦略はどのように選べば良いのだろうか。もちろん、状況の細かい変化によって重要な戦略は変わってくるが、それぞれの戦略を重視するべきケースは大まかに以下のようにわけられる。

重視する戦略具体的なケース
・組織戦略・共通の価値観を守りたいとき
・各従業員の個性を尊重したいとき
・個人の自由度を高めたいとき など
・事業戦略・ベンチャーキャピタルから出資を受けるとき
・一定期間で企業価値の向上を目指すとき など

組織戦略と事業戦略のどちらをベースにするのかによって、経営の在り方は大きく変わってくる。どちらが正解というわけではないが、会社経営を通して「何を目指しているのか?」を明確にしたうえで、より適した戦略を重視することが大切なポイントだ。

組織戦略を生み出す2つのアプローチ

ここからは話を組織戦略に絞って、解説を進めていく。企業が組織戦略を立てる方法は、「トップダウン・アプローチ」と「ボトムアップ・アプローチ」の2つに分けられる。

どちらの方法を選ぶのかによって、戦略を立てる際のポイントや注意点などが変わってくるため、アプローチに関する基礎知識もしっかりと身につけておこう。

1.トップダウン・アプローチ

トップダウン・アプローチとは、CEOなどの経営トップが経営戦略を策定して、その戦略を部下に実行させることだ。特に欧米の企業が多く採用しており、戦略を考える前提として「外部環境の分析」が必要になる。

このアプローチでは、分析結果をもとに組織戦略を組み立てるため、策定した戦略が定式化しやすい。オーソドックスな分析手法を使うことが多い影響で、ほかの企業と同じような結論に達しやすいのだ。経営トップはその点を理解したうえで、慎重に組織戦略を策定しなくてはならない。

また、部下に対する理解が必要になる点、分かりやすい形での共有が求められる点も、事前にしっかりと押さえておきたい。組織メンバーの理解が不十分なままであると、当初の目的を達成することが難しくなるので、部下に対しては十分な説明と説得をすることが重要だ。

2.ボトムアップ・アプローチ

一方でボトムアップ・アプローチは、現場の社員が提案を行うタイプの戦略の立て方。国内企業に多く採用されている方法であり、現場社員からの提案を受けた上司が、その内容を承認しながら意思決定を進めていく。

このアプローチでは、常に現場の状況に応じた組織戦略が生み出されるため、環境が変化してもスムーズに対処できる。ただし、複数の人間を介する影響で、責任の所在が曖昧になりやすい点には細心の注意を払わなくてはならない。

ボトムアップ・アプローチからはオリジナリティの高い戦略が生まれやすいが、採用するのであればより上位の人物が意思決定をし、かつオーソライズをして戦略を公認するなど、責任者を明確にする工夫をとり入れておきたい。

組織戦略を立てる手順の一例

組織戦略はただ考えるだけではなく、「機能する組織」を作り上げなくては意味がない。したがって、組織戦略は立てる手順にもこだわる必要があるが、実際の手順は企業によって大きく異なるため、「どうやって策定するべきか分からない…」と悩んでいる経営者は多いだろう。

そこで以下では、組織戦略を立てる手順の一例をまとめた。策定方法で悩んでいる経営者は、以下を参考にしながら自社の組織戦略を考えていこう。

【STEP1】発生している人事課題を、現地現物で把握する

組織戦略は、何らかの目的を達成するために立てるものなので、まずはすでに発生している人事課題を見極めなくてはならない。人事課題を見極める際には、人伝いに聞いた情報などを参考にするのではなく、「現地現物」の情報で判断をする必要がある。

その後は具体的な施策を立てることになるが、場合によってはこの工程を経て組織戦略を考えても、「今の状態では何かが足りない…」などの悩みを抱えることがある。このようなケースでは、「人事の守備範囲へのこだわり」が要因になっている可能性が高いため、人材や組織の守備範囲を一旦度外視したうえで、効果的な戦略や施策を考えてみることが重要だ。

【STPE2】解決するべき課題に優先順位をつけ、順位が低いものは切り捨てる

現地現物で組織に関する課題をチェックしたときに、さまざまな課題が浮き彫りになってくる中小企業は多く存在するだろう。このときに発見できた課題は、もちろんそのすべてを解決することが望ましいが、ひとつの施策に費やせる時間や人材は限られている。

そのため、解決するべき課題には「優先順位」をつけ、順位が低いものは思い切って切り捨てることが必要だ。たとえば、経営戦略とのつながりが弱い課題や、人材ポリシー・組織方針から外れている課題を切り捨てることで、本当に重要な施策をブラッシュアップしやすくなる。

【STEP3】経営課題を解決できる組織戦略かどうかを見極める

優先順位の高い課題を解決するための戦略を考えたら、最後に「その組織戦略が経営課題の解決につながっているか?」を冷静に見極める必要がある。仮に経営課題との関連性が薄い場合には、組織戦略を最初から考え直さなくてはならない。

特に経営陣から伝えられた経営課題を参考にしながら、ボトムアップ・アプローチで戦略を立てる場合には、「策定した経営戦略に自信が持てない…」といった状況に陥りがちなので注意が必要だ。社内で経営課題の共有が十分にできていないと、このような失敗を招きやすくなる。

したがって、経営陣と戦略を立てる人物の意思疎通が不十分な企業は、まずは将来の人材や組織の在り方について、議論するような場を設けるようにしよう。

組織戦略を上手に立てる3つのコツ

組織戦略を立てる際には、ほかにも前準備として取り組んでおくべき事項がある。特に以下で挙げる3つのコツは、意識するかどうかで組織戦略の質が大きく変わってくるため、自社のケースに当てはめながらしっかりと読み進めていこう。

1.スムーズに意識共有するための管理体制を整える

トップダウン・アプローチとボトムアップ・アプローチのどちらを選ぶにせよ、経営陣と現場社員の意識共有は必須事項だ。組織戦略自体はもちろん、企業の方針や経営理念をしっかりと共有できていないと、効果的な戦略を実行することは難しい。

そのため、まずは組織メンバーの管理体制を整えて、必要であれば各メンバーをサポートすることが重要になる。このように経営陣が現場の人材に目を向けるだけで、組織全体の生産力は上がってくるだろう。

2.現場社員の不平・不満を解消する

現場社員に不平・不満が募っていると、効果的な組織戦略を立てにくくなるうえに、施策に取り組んだ際の効果が薄くなってしまう。組織戦略は、組織全体でまとまって実行してこそ効果があるものなので、経営陣は公平性のある環境を整えることが必要だ。

たとえば、明確な人事評価制度をつくる、従業員のための相談窓口を設けるなど、不平・不満がたまりにくい状況を作っておきたい。

3.ミドル・マネジメントが重要になることを理解する

組織戦略を立案・実行していくうえで、「ミドル・マネジメント」は非常に重要なポジションにいる人材。ミドル・マネジメントとは、経営陣と現場社員の間に位置する人材であり、具体的には中間管理職などが該当する。

ミドル・マネジメントには実務経験があり、かつ企業の内情もある程度は理解している。つまり、全社的な視点で物事を考えられるので、特にボトムアップ・アプローチでは重要な役割を果たすことになる。

このミドル・マネジメントをどう活かすのかによって、会社全体の意思決定の質やスピードは変わってくるので、組織戦略を立てる前にミドル・マネジメントの立ち位置や動き方を見直しておこう。

早いタイミングで組織戦略の見直しを

本当に効果的な組織戦略は、一朝一夕で立てられるものではない。さまざまな前準備が必要になるうえに、立案後にも調整や修正を加えることになるので、実行に移すまでには多くの手間や時間がかかるだろう。

したがって、経営危機に直面してから見直すようでは、手遅れになる恐れがある。経営がうまくいっているように見えても、細かく見ればさまざまな経営課題・人事課題が見つかるはずなので、早いタイミングで組織戦略を見直していこう。(提供:THE OWNER

文・片山雄平(フリーライター・株式会社YOSCA編集者)