世界経済に急ブレーキをかけたコロナウィルスの感染拡大。株式市場は乱高下を繰り返し、その動きに翻弄された投資家も少なくないだろう。この間、為替相場の動きをみると、米ドル / 円のレートは3月に円高が進行する局面が見られたものの、その後の相場は小康状態で落ち着いている。
一方、新興国通貨に目を向けると、その動きは荒々しく、トルコリラやブラジルレアルなど対米ドルで通貨安が大幅に進行している通貨もみられる。下落が収まらない新興国通貨の動きを横目に、ドル化 (ダラーライゼーション) の政策の議論がささやかれるようになっている。
ドルが自国市場で流通
ドル化は、端的には米ドルを自国通貨として流通させる政策であるが、一口にドル化といっても、「公式なドル化」と「非公式なドル化」の大きく2つに分類される。前者は、政府が米ドルを自国の法定通貨として導入するものであり、文字通りその国で使用される通貨が米ドルに置き換わる。実際にエクアドルやエルサルバドルで導入されている。
後者の非公式なドル化は、政府は米ドルを法定通貨としては認めていないものの、自国通貨が下落するのを嫌い企業や個人などが決済において米ドルを使用することである。この場合、自国通貨も共存している状態である。例えば、海外旅行に行った際に、その国の通貨ではなく、米ドルでも支払いを受け付けてくれた経験などを思い出すと非公式なドル化の市場をイメージしやすいだろう。
日本では円安ドル高が進行すると、輸出競争力が高まり製造業を中心として為替益が上乗せされるため、通貨安がポジティブに捉えられることが多い。従って、円安がドル化の議論を呼び起こすことはないが、新興国ともなればその状況は一転する。新興国は相対的に高インフレであり、自国通貨が安くなれば輸入製品の価格が上昇し、さらなるインフレ圧力がかかる。
また、対外債務を抱えている新興国では、通貨安はドル建ての債務に対する返済負担の増加を意味し、債務不履行のリスクに晒される。債務不履行の懸念が高まれば、その新興国通貨はさらに売り込まれる可能性もある。こうした背景から、ドル化政策がささやかれるようになる。
ドル化のメリット・デメリット
実際にドル化が導入されれば、さらなる自国通貨安の懸念がなくなり、輸入価格もドル建てで安定することから、インフレをコントロールしやすくなる。こうしたメリットと引き換えに、失われるものもある。ドル化を採用すれば、ドルの価値は米国の景気や連邦準備理事会 (FRB) の政策に左右されることになり、自国の中央銀行による金融政策のコントロールが制限されてしまう。また、不況などでその国の通貨が売り込まれると、通貨安によって輸出が伸び景気回復の軌道に乗せることができるが、ドル化を採用すれば、そのサイクルの活用はできなくなる。
ドル化はどのような国にとって現実的な問題となるのか。自国の通貨安が進んだ場合、ドルを売って自国通貨を買うことで通貨安の進行を防ぐ為替介入が実施される。その資金ともなるのが外貨準備であり、通常その国の輸入額の3ヶ月分以上、あるいは短期対外債務残高の1倍以上を保有していることが理想とされる。
また、外貨準備に加え、その国の経常収支にも目を向ける必要がある。貿易や海外との利子・配当の受払などを含めた経常収支が赤字であると、海外に対する支払いの方が上回っており、ドル建てなどの支払いのために為替市場で自国通貨が売られ通貨安に拍車がかかる。
こうした観点から、新興国通貨は、外貨預金や債券などの金融商品で相対的に高い金利が示されて魅力的にみえるが、潜在するリスクにも注意が必要である。投資にあたっては、高金利だけに目を奪われず、対象国の外貨準備高の保有状況や経常収支といった点もチェックが欠かせないだろう。(提供:大和ネクスト銀行)
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