SlackやChatwork、LINE WORKSなど、ビジネス用のチャットツールの利用が広まっている。特に非対面でのコミュニケーションを効率化できるため、リモートワークに欠かせないツールとして注目度が高い。新型コロナウイルスの感染拡大によってリモートワークが導入されたことで、使い始めた人もいるだろう。しかし、電話やメールに長く慣れ親しんできた世代には、チャットに戸惑いを覚える人も少なくない。そこで、「働き方改革エバンジェリスト」として活躍する〔株〕日立ソリューションズの伊藤直子氏に、チャットの心得を教えてもらった。

「ニューノーマル」な働き方に必須のビジネススキル

チャットの心得,伊藤直子
(画像=THE21オンライン)

チャットツールは、「ニューノーマル」な働き方において、必須のビジネススキルです。「苦手だから使わない」では済まされません。

これからのビジネスにおけるコミュニケーションで重要なのは、まず、「オープンマインド」。つまり、自分が考えていることをきちんと言うことです。そして、過剰な敬語などで何が言いたいのかわからなくなってしまわないよう、「フラットコミュニケーション」を意識する必要もあります。

しかし、従来の対面を基本としたコミュニケーションは、これらを実現しにくいものでした。上司に対しては言いにくいこともありますし、疑問に思っても質問しにくいと感じることも多かったと思います。

ところが、非対面でスピーディにやり取りができるチャットなら、上司が相手でもカジュアルにコミュニケーションが取りやすい。すると、そこから建設的な議論が生まれてきます。それを実感すれば、「チャットではオープンマインドでコミュニケーションを取っていいんだ」という心理的安全性が得られます。

上司の意識改革も必要ですが、チャットツールは、オープンマインドとフラットコミュニケーションを実現するために、非常に有効なのです。

ただし、オープンマインドでコミュニケーションを取るとは言っても、注意するべきことはあります。

まず、リサーチの結果としても出ていますが、上司とのチャットでのコミュニケーションでは、「上司の言葉がキツい」と感じる部下が多くいます。ですから、部下とのチャットでは、極力、優しいニュアンスを心がけてください。ユーモアを入れるのも大切です。スタンプや絵文字を使ったり、文末に(笑)やwをつけたりして、カジュアルな雰囲気を出すのもいいでしょう。

また、メールと違って、チャットだと、すぐに返信が来ることを期待してしまいがちですが、電話のような完全にリアルタイムのツールではありませんから、しばらく返信が来なくても許容するべきです。

「対面のほうが伝わりやすい」は勘違い

「対面なら、指示の緊急度や重要度を口調や雰囲気で伝えられるのに、チャットは文字だけだから伝えづらい」。そう言う人もいます。

しかし、本当に、対面なら伝わっているのでしょうか?

確かに、文字だけのチャットよりも、対面のほうが、情報量は多い。話を聞いている部下が頷く様子を見ることもできます。だから、上司は伝えた気になりやすいし、部下も理解した気になりやすいのですが、認識のズレが生じていることは多々あります。

会議で出席者同士が議論をしているのを聞きながら、「本人たちは気づいていないみたいだけど、この2人の話はどこかズレているな」と感じた経験は、誰にでもあるでしょう。

もし、「チャットでは伝わりにくい」と感じているなら、それは、対面でも実は起こっていた問題が明るみに出たに過ぎません。

緊急度や重要度も、雰囲気で伝えようとせずに、きちんと言葉にして明確に伝えること。文字の大きさや色を変える機能があるチャットツールなら、その機能を使うのも有効でしょう。重要であることを示す記号をつけてもいいですし、何度も伝えることも大切です。

さらに言えば、本当に緊急で重要なことは、電話をかけて伝えるべき。チャットツールに音声通話やビデオ通話の機能があれば、それを使うのもいいでしょう。チャットツールが導入されたからと言って、なんでもチャットで伝えなければならないというわけではありません。

部下を注意するのも、チャットでは難しいと感じる人がいます。しかし、これもきちんと言語化して伝えればいいのです。

もし、「対面なら、怒鳴ったり、机を叩いたりして、どれだけ怒っているかを伝えられるのに……」と思っているのだとしたら、そんな考え方はもうやめましょう。

ただ、同じ言葉で注意をしても、人によって感じ方が違います。深刻に捉えて落ち込んでしまう人もいれば、それほど気に留めない人もいます。ですから、人によって伝え方は変えるべき。相手がどういう捉え方をしたかの確認も必要です。

これも、チャットツールだからこその問題ではなく、対面でも同じです。部下をよく理解して、関係構築をすることは、チームビルディングの基本です。そのために有効だと思うなら、リモートワークが定着しても、時には対面で話をする機会を持つのもよいでしょう。