中小企業は、大企業に比べて倒産リスクが高いという実情がある。中小企業経営者は、リスクに備えながら事業を拡大するために、自社の強みや弱みを考慮した「経営戦略」を立てる必要がある。今回は、中小企業が経営戦略を考える際の注意点や、経営戦略を立てるポイントについて解説する。
中小企業に経営戦略がないと大企業に負ける
中小企業は日本の全企業の99%以上を占めているが、開業してもその内の2割から3割は1年経たずに廃業してしまうという厳しい現実がある。
たとえ経営が軌道に乗って倒産を免れた中小企業であっても、経営者の高齢化と少子高齢化の進行により、事業承継を行うことができずに多くの企業が廃業すると予測される「中小企業2025年問題」が待っている。
また、リーマン・ショックなどの外部要因による不況で倒産する中小企業も多く、2008年には1万5,646件の企業が倒産している。
「不況に陥ったら倒産するのは大企業だって同じじゃないか」という声もあるかもしれない。確かに経済が悪化すると中小企業だけではなく大企業も倒産するが、倒産する確率が格段に違う。
中小企業庁「2016年中小企業白書」によれば、2015年の倒産件数8,812件のうち、小規模企業が7,647件、中規模企業が1,159件であるのに対して、大企業はたったの6件であった。
つまり、中小企業は大企業に比べて競争力が低いのである。その理由は、次の3つの弱点が中小企業にあるからだと考えられる。
中小企業の弱点1:資本力
大企業と中小企業では、そもそもの資本力に大きな差がある。中小企業基本法では、業種による違いがあるものの、資本金額が「5,000万円以下」「1億円以下」「3億円以下」であれば中小企業に該当すると定義されており、資本金が10億円ある企業が大企業に分類される。
資本金の違いは、投資規模や不況時の体力の違いとして表れる。資本金が多ければ大規模な投資が行えるし、いざ失敗しても損失を吸収する余力も残るだろう。不況時も留保金で資金繰り悪化を防ぐことができる。
しかし、資本金が少なければ、投資して失敗すれば損失を補填できない可能性が高い。2020年に発生した新型コロナ蔓延防止の自粛営業などの事態に陥ると、固定費の支払いなどで資金繰りが行き詰まってしまう。
中小企業の弱点2:人材
中小企業基本法では、従業員数も中小企業の定義づけの指標として用いている。業種によって異なるが、従業員数が「50人以下」「100人以下」「500人以下」であれば、中小企業に該当するとされている。
従業員数の違いも、企業としての体力の違いとして表れる。雇用できる人数が多いほど、多様な人材を雇用できるであろうし、先ほどの資本力の違いにも関連するが、仕事への対価として高い報酬を支払える大企業には優秀な人材も集まりやすいだろう。
優秀で多種多様な人材が活躍することで、効率よくビジネスを展開することもできる。
中小企業の弱点3:知名度
中小企業と比較すると、大企業の方が世間的な知名度が高い。知名度が高いということは、それだけ社会的な信用を得やすく、消費者が安心してサービスを利用してくれたり、融資の契約なども結びやすくなるだろう。また、知名度の高さは、資本力の増強や人材獲得にも一役買うことになる。
中小企業にはこれらの弱点があるため、大企業とまともに戦えば中小企業はあっという間に市場競争で負けてしまう。そのため、中小企業が事業を継続的に進めるためには、「経営戦略」が重要となるのである。
中小企業の経営戦略で押さえるべき4つのポイント
中小企業が行うべき経営戦略について語る前に、意識しておきたいことが4つある。
経営戦略は魔法の杖ではなく、あくまでも武器の一つにすぎない。資金や人材と同様、武器は使い方次第でよい道具にもなれば凶器にもなるのである。経営戦略を立てる前に、まずはこの事を理解しておかなければならない。
ポイント1:「弱者」であることを自覚する
経営戦略を立てる前に、「中小企業は弱者である」ということを意識しておかなければならない。起業当初や事業が順調である間は「自社はどこよりも強い」と思いがちだが、大企業に比べればさまざまな面で脆弱だ。資金繰りに窮したり、信用問題が発生すれば、あっという間に経営に行き詰まる可能性が高いのが中小企業の現実だ。
「弱者」と言われて気を悪くする経営者もいるかもしれないが、弱者というのは事実に過ぎず、弱者であるからこそ常に生き残る工夫を考え、時代の変化にも敏感になる。弱者で規模が小さいからこそ、大企業よりも小回りが利くのだ。経営戦略次第では、事業革新が生まれて競争に勝ち抜くことが可能となるのだ。
ポイント2:戦略立案の前に調査と分析を行う
経営戦略といっても、他社の成功事例を真似るだけでは意味がない。成功した企業の事例がそのまま自社と同じ市場やユーザー、商品に対しても有効とは言えないからだ。
立地や業態はもちろん、オンライン販売かオフライン販売かといった違いでも戦略は異なる。経営戦略を考える前に、自社の市場や競合他社、ターゲットとそのニーズについて、アンケートや営業を通じて調査・分析を行う事が肝要だ。
ポイント3:無理なく無駄なくはじめる
中小企業の資金や人材などの資源は、大企業に比べて限られている。内部留保が厚いなら別だが、そうでないなら一発逆転を狙うような経営戦略の計画・実行は避けた方がよい。投資に失敗すれば赤字につながるだけではなく、既存の販売チャネルの喪失や人材の流出、資金繰りの悪化や信用の低下につながりかねないからだ。
大胆な経営戦略をいきなり立てるのではなく、「小さく始めてみる」「無料でモニターを募る」など、無理と無駄をできるだけ排除した形で実行するとよいだろう。成功と失敗から自社独自のノウハウを蓄積し、パターンが見えてきた後で展開規模を大きくしても遅くはない。
ポイント4:分かりやすく具体的にする
戦略を実行するのは経営者だけではない。従業員の協力も必要だ。経営戦略は、経営理念も含めて分かりやすく具体的であることが重要である。
また、経営戦略の計画策定にあたっては、従業員の負荷が増えないように「無理なく無駄なく」も意識しておこう。「これなら自分たちにもできる」と従業員が思えることが重要である。
経営戦略は3つの角度から立てよ
経営戦略を立てるには、具体的にどのようなポイントを押さえるべきだろうか。次の3つのポイントを意識しながら戦略を立てていくとよい。
他社と差別化する
市場やユーザー、ニーズ、競合他社を調査・分析していく中で、しだいに明確になってくるのが自社の強みだ。この強みをうまく使って、他社と差別化を図るとよい。大企業や一般的なサービスとの違いを明確に打ち出し、ユーザーの反応が得られれば、生き残る戦略を見つける手がかりにもなる。
差別化を考える際、特に注目したいのが「自社にとっては当たり前でも、実は他社にはないこと・やっていないこと」だ。なぜなら、固定のユーザーは「自社の当たり前」のファンになっていることが多いからである。
定期的に顧客の要望を聞きに来る、レスポンスが早い、クリンネスが徹底しているなど、普段自社が何気なく行っていることを見直して工夫することで、差別化につながる可能性がある。
何気なくやっていることを「何がユーザーの心をつかんでいるのか」「なぜこれを始めたのか」「どのように続けてこられたのか」など、5W1Hで分析することで、自社が掲げるべき経営戦略がおのずと見えてくる。
価格と市場のバランスを見極める
商品やサービスの価格と、市場の需給バランスを考えるのも重要だ。自社の特徴を差別化するなら、市場を確認しながらどのように価格設定をするかがカギとなる。
自社の商品とサービスを特定のユーザーにのみ提供するなら、価格を高く設定し、ユーザーのニーズに徹底的に答えていく形にする。逆に、親しみやすさや割安感を自社の特徴とするならば、価格を押さえて誰もが購入しやすい価格帯にする。このように、自社のポジションを意識した経営戦略を立てるのもいいだろう。
価格設定においては、利益率をどれくらいに設定するかも併せて考えておきたい。月の売上から必要な利益を計算し、その金額に収めるために費用を削減する施作を行うことは、自社のノウハウの蓄積となるであろう。
自社のリソースを見直す
戦略には自社のリソースをどのように活用するかも大事だ。リソースとは資源を意味するが、「資金」「人材」だけではなく、「立地」「ユーザー」「SNS」といったものも資源となる。
自社の置かれた環境を見直すことで新たな資源に気づけば、戦略実行上の有力な武器となる可能性がある。「これしかない」と思うのではなく、「他にもあるかも」といった視点で探していくとよい。
中小企業の弱みは強みになりうる
経営戦略の立案において自社ブランドの差別化を考えるとき、「強み」にばかり着目しがちであるが、実は「弱み」の中にも自社にとって武器となるものがある。
「強み」や「弱み」といった指標は、目の前にある事実に対して人が色付けしたに過ぎない。時代が変わって環境も変われば、人の考えや行動にも変化が生じて、弱みが強みに変わることもある。逆もまた然りだ。
新聞の販売を例に挙げてみよう。かつて新聞販売は、販売店をどれだけ持っているかが勝敗を分けていた。後から参入した新聞社は、販売店が少ないため固定客の獲得が難しく、どれだけ充実した紙面を作っても売上で古株の他社に勝てなかった。
しかし、2000年前後からインターネットが社会インフラとして定着し始めると、新参の新聞社にとって販売網を持たないことが逆に強みとなった。電子版の新聞を主軸とすべく一気にインターネット部門を拡張し攻勢をかけたからだ。
「紙の媒体離れ」という世の中の流れも追い風となり、オンライン上での売上は順調に伸びていった。
逆に販売網を多く抱える古参の新聞社は、オンラインでの戦略を強めようにも販売店の反対が足かせとなり遅れを取ってしまったのだ。
弱みを言い訳の材料にするのではなく、「生き残り戦略の材料としてなんとかうまく使えないか」と角度を変えて眺め、自社の勝ち残りの武器として活用してほしい。(提供:THE OWNER)
文・鈴木まゆ子(税理士・税務ライター)