新型コロナウィルスの感染拡大という想定外の状況の中、プライベートではオンライン飲み会やビデオ通話を使ったチャットなどが盛んに行われている。新型コロナウィルスの終息後にこのようなスタイルが残るかどうかは別として、オンラインでのコミュニケーションが注目を浴びたことは間違いない。
ビジネスの現場でも、海外との打ち合わせなどではすでに行われていたオンラインミーティングだが、これを機会に営業のオンライン化を検討する企業が増えている。今回は、新しい営業の形であるオンライン営業を紹介しよう。
訪問営業は時代遅れ?
新入社員が営業部に配属され挨拶をした際、先輩社員の足の筋肉を見て驚く、というテレビコマーシャルがあった。「足で稼ぐのが営業だ!」と言う先輩に対して、それはもう古い営業スタイルだとして、電話を使ったオンライン商談システムをアピールするものだった。果たして、訪問営業はもう時代遅れなのだろうか?
確かにオンラインで商談ができれば、移動時間や交通費が節減できることは容易に想像できる。移動時間で業務をこなすのはなかなか難しく、長距離を新幹線などで移動するならまだしも、短い距離の移動であれば、その時間のほとんどが無駄になっていると言えるだろう。移動時間の削減は残業を減らすことにもつながるし、交通費や出張費の節約はコスト削減に直結する。
経営にとっては良いことずくめであり、インターネットやIoT機器の普及を考えれば、もっと早く普及すべきだったのではないかとさえ思える。しかし、今後オンライン営業を導入するとしても、その問題点を把握しないまま導入を進めるのは、危険だ。「時代遅れだから」という理由だけで判断するのではなく、全体像を把握した上で導入を検討したい。
以前から普及していたオンラインミーティング
実際、海外をはじめとする遠隔地との打ち合わせには、かなり前からオンラインミーティングが用いられていた。
海外企業や海外拠点との打ち合わせには、いち早くこのシステムが導入された。最大の理由はコスト、つまり渡航費用の問題だ。2番目の理由は、時間の有効活用である。ヨーロッパやアメリカならば、往復で2日以上を移動だけで使ってしまうことになる。ミーティングをする双方に理解されやすかったため、いち早くオンラインミーティングが導入されたと考えられる。
社内の打ち合わせについても、国内拠点間のミーティングでは早くから導入されていた。内容が営業的なものであれ技術的なものであれ、コストや効率を考えたトップダウンでの指示となれば、運用に関わる意思統一もしやすいからだ。
オンラインミーティングの導入が進んだケースの背景には、打ち合わせをする双方の理解、もしくは意思統一があったと言える。では、オンライン営業の場合はどうだろうか?
顧客の理解が不可欠な「オンライン営業」
オンライン営業において、営業担当者の先には当然のことながら顧客が存在する。結論から先に言ってしまえば、顧客の理解が得られなければオンライン営業は行えないのだ。これがオンライン営業の普及を妨げてきた、最大の理由であると思われる。
コストや効率を考えてオンライン営業を行いたいというのは、営業する側の都合である。自分にとって特別なメリットがない限り、顧客としては訪問して欲しいというのが本音かもしれない。
わかりやすい例が、電話営業だろう。こちらの都合をまったく考えずにかかってくる売り込みの電話を、疎ましく思って切った経験は、誰でもあるのではないだろうか。もちろんオンライン営業は事前のアポイントが前提となるが、それでもこちらの都合でお願いしていることを忘れてはならない。
オンライン営業の最大の障壁は、顧客の理解だ。特に最初は「相手にとってはメリットが少ない」ということを忘れずに、丁寧にお願いすることが肝要だ。営業スタイルがルート営業のようなもので、オンライン営業によって削減したコストを顧客に還元するといったメリットをアピールできれば、顧客の理解を得られるかもしれない。
オンライン営業のメリット・デメリット
顧客の理解さえ得られればメリットの多いオンライン営業だが、デメリットもある。導入する際は、対策が必要になることを理解しておこう。
オンライン営業のメリット
・交通費、出張費等の節減
オンライン営業の最大のメリットは、コスト削減だろう。特に遠方の顧客を訪問するとなれば、交通費の他に宿泊費、日当なども発生する。オンライン営業を導入したら、真っ先に遠方の顧客に適用したい。
・移動時間の節減
移動時間を他の営業や事務作業に充てられる他、(営業には付かないことも多いが)残業代の節減にもつながる。また時間の節減は、人件費にも影響する。ルート営業のような営業スタイルの場合、割り当てられた顧客を定期的に巡回することになるが、時間調整も含めると顧客間の移動時間は思いのほか多くなるものだ。
移動時間を削減できれば、決められたエリア内を担当する営業マンを減らすこともできるだろう。オンライン営業は、人件費の削減にもつながるのだ。
・顧客のスクリーニング
スクリーニングとは審査、選別のことだ。経験の長い営業マンなら、引き合いがあって訪問した顧客の要求が、自社のサービスとはまったく違うものだった、という経験があるだろう。いわゆる「無駄足」だ。
引き合いのあった顧客とオンラインで面談する機会を設けられれば、自社の商品・サービスを紹介するとともに顧客の要求を聞くこともできる。もし認識の齟齬がある場合はこの時点で判明するので、時間と経費が無駄にならない。
オンライン営業のデメリット
・システムの導入費用
後述する商談ツールには無料のものもあるが、パソコンやカメラ、マイク付きのヘッドセットなどは最低限用意する必要がある。ツールについても、営業マンの数が多い場合やセキュリティを考えれば、サポートのしっかりした有料ツールを導入したい。
・見えにくい顧客の信用度
付き合いの長い顧客であればあまり心配ないかもしれないが、見える範囲が限られたオンラインでは、顧客の全体像が見えにくい。優れた営業マンであれば、訪問時に顧客の些細な異常に気がつくものだ。以下は、営業教育などで教わることが多い、顧客の経営や信用に関わる異常を示す例だ。
「最近、女性社員の数が減った」
女性は会社内の情報に詳しく、危機に対しても敏感だ。自分の会社の経営が危ないと感じれば、男性よりも素早く判断を下し、転職してしまうことが多い。
「社内の掃除が行き届いていない」
掃除を外部委託する余裕がない。社員も気持ちに余裕がなく、掃除が疎かになる。
「社長や役員の姿を見かけなくなった」
経営的な問題から、金策のため銀行に通い詰める。もしくは借入金の返済に窮しており、会社にいることができない。
どれも極端な例ではあるが、顧客を訪問していないと感知することが難しい事象である。
・営業力が求められる
オンライン営業は対面と違い、成約までのストーリーがとても重要になる。対面の場合は多少の無駄話も潤滑油になるが、少し距離感のあるオンライン上の会話では白々しくなってしまうことが多い。面談の始まりには目的や議題を明確にし、お互いの時間を無駄にしない工夫が必要だ。オンライン営業の場合は、訪問営業以上に話の流れを重視しよう。これは、デメリットというより注意点と言えるだろう。
オンライン営業のための商談ツール
オンライン営業専用のツールから、オンラインミーティング全般に使えるツールまで、各社からさまざまなツールがリリースされている。いくつか紹介しておこう。
ベルフェイス
冒頭で紹介したテレビコマーシャルの製品だ。電話とWebブラウザを組み合わせた遠隔営業システムで、音声は電話、画像はWebブラウザに表示する。顧客はソフトをインストールすることなく、すぐに使えるのが特徴だ。
音声は電話回線を使うため、途切れることが少なく、安定した会議ができるのもこのツールのメリットだ。料金は初期費用の他に月額費用が発生し、月額費用は同時接続人数に応じて料金が変動する従量課金制となっている。
Zoom
アメリカに本拠を置くZoomビデオコミュニケーションズの製品。パソコンやスマホにもインストールでき、対応デバイスが多いのが特徴。スマホなら、外出先から顧客につないで会話をすることもできる。
Zoomには無料プランと有料プランがあり、無料では基本的には1対1(時間無制限)、3人以上のミーティングは利用時間が40分に制限される。有料版ならクラウドレコーディング(画像と音声の記録)ができるほか、会議を開催するホストを複数設定でき、時間制限もほぼない(最大連続24時間)。
ツール導入時の注意点
ツールの導入時に注意することは、セキュリティが確保されていることを確認したい。会話の内容が漏洩することがないように、高いセキュリティ性能を持つツールを選ぶことが大切だ。次に、顧客の使い勝手も考えなければならない。接続する際に複雑な操作が必要になるツールでは、商談どころではなくなってしまう。すべての顧客が、ITに詳しいわけでないことも考慮してツールを選ぼう。
オンライン営業の成功事例
ベルフェイスのWebページには、転職サイトを運営する「エン・ジャパン株式会社」の成功事例が掲載されている。オンライン営業システムの導入前、営業マンは求人広告を出稿したい顧客との商談のために、車や公共交通機関で移動していた。あるプロジェクトで、営業効率向上を目的として移動時間と商談時間の統計を取ると、面談時間よりも移動時間がはるかに長いことが判明する。
オンライン営業システムの導入に際し、当初は「コミュニケーションは対面が大切で、直接会うことに意味がある」という顧客も多かったようだが、プロジェクトメンバー全員で目標を掲げ、客先に丁寧に説明をしながらオンライン商談への理解を求めていった。また社内では、成功したメンバーの体験談を共有し、戦略上の正しさを認識し合うことも忘れなかった。
結果として、オンライン営業システムの導入は「交通費の大幅ダウン」「移動時間の大幅ダウン」「商談件数の大幅アップ」「受注数の大幅アップ」という成果を上げた。
大切なのは訪問とオンラインの使い分け
オンライン営業はこちらの都合であって、決して顧客の都合ではない。顧客の理解を得ずに導入を進めれば、場合によっては顧客としてのプライオリティが低いと勘違いされてしまうおそれがある。肝心なのは、使い分けだ。顧客の特性によって、訪問営業とオンライン営業をうまく使い分けていくことが大切である。(提供:THE OWNER)
文・長田小猛(ダリコーポレーション ライター)