「バーチャルオフィス」という言葉を聞いたことはあるだろうか?今までは、レンタルオフィスの一機能として、現実の空間に「擬似的なオフィス」の機能を構築するサービスを指すことが多かった。しかし近年は、テレワークやオンライン会議などが普及したこともあって、「バーチャルオフィス」は言葉どおり、仮想空間上に「仮想のオフィス」を作ることを意味するようになってきている。今回は、従来のオフィスを仮想空間上に再現して業務を進める「バーチャルオフィス」について紹介していこう。

バーチャルオフィスの目的と概要

バーチャルオフィス
(画像=tartila/stock.adobe.com)

今までのバーチャルオフィスでは現実の空間、たとえばレンタルオフィスの一角に数台の電話やファクシミリが置かれた部屋を設け、秘書代行をするスタッフが電話を受けたり、その住所に送られてくる郵便物を顧客に転送したりしていた(電話転送サービス、電話秘書代行サービス、住所貸しサービスなどと呼ばれる)。

このサービスを利用する顧客は、レンタルオフィスの住所を使って自らの会社を登記し、あたかもそこに自分のオフィスが存在するかのように見せることができた。つまり現実の空間を、複数の顧客でシェアしている状態をバーチャルオフィスと呼んでいたのだ。

今回紹介するバーチャルオフィスは、上記のようにオフィスが存在するかのように見せる目的のサービスではない。インターネットに(多くの場合はクラウドに)仮想的にオフィスを作り、社員があたかも現実のオフィスにいるようにコミュニケーションをしながら、業務を遂行できるようにするのが目的だ。

実際には、各社からリリースされているバーチャルオフィスを構築するためのツールを利用することになる。ほとんどのツールでは、パソコンなどの画面に着席している社員の顔が表示され、その様子が映し出される。現実のオフィスと同じように話しかけることもできるし、会議に誘えばすぐに打ち合わせを始めることもできる。これからは、文字どおりのバーチャル空間にオフィスを構築することになるのだ。

テレワークの弱点を補完するバーチャルオフィス

何のために、現実のオフィスをわざわざバーチャル空間に作る必要があるのだろうか?その目的の一つは、テレワークの弱点を補完することだ。テレワークは、データを自宅に持ってくる、もしくは指定されたサーバーなどに入って作業を行うことが多い。その他、必要に応じてオンライン会議やチャットで情報共有を行うが、基本的な作業は1人で行うことがほとんどだ。

政府の働き方改革推進や新型コロナウイルス感染症の影響などもあり、自宅で作業することが増えているが、現実のオフィスと違ってテレワークはコミュニケーションが不足しやすい。コミュニケーション不足は勘違いやミスにもつながるが、孤独感やストレスによるメンタル面への悪影響も報告されている。

後述するバーチャルオフィスのツールを使えば、何かを聞きたいときにはいつものように同僚に聞くことができ、仕事の合間にちょっとした雑談をすることもできる。テレワークが普及して改めてわかったことは、「人の存在感」や「挨拶」、「雑談」が大切なコミュニケーションであるということだ。

会社のコスト削減と業務効率を向上させるバーチャルオフィス

テレワークのためのバーチャルオフィスではなく、会社のコスト削減と業務効率を向上させる目的で使われるバーチャルオフィスもある。マイクロアントレプレナー(マイクロ起業家)やスモールビジネスという言葉がもてはやされているように、1人もしくは数人で企業を立ち上げ、ユニークなアイデアを武器にビジネスを展開するケースも増えている。

多くの場合は資本が少ないこともあり、起業直後はコストの削減、特に固定費の削減が重要だ。バーチャルオフィスは、それを解決する有効な手段と言える。それぞれの社員が自宅からバーチャルオフィスに「出勤」すれば、高い賃料や保証金が不要になるので、固定費を限りなく圧縮することができる。

また海外や地方に拠点を設ける場合も、バーチャルオフィスは有効だ。海外の場合は時差の問題は残るかもしれないが、意識に差があることの多い外国人とも必要な時にすぐに話し合える、最適なコミュニケーションツールとなるだろう。バーチャルオフィスはコスト削減だけでなく、コミュニケーションを密にすることで業務効率の向上を期待できるツールでもあるのだ。

バーチャルオフィスのメリット・デメリット

多くのメリットを持つバーチャルオフィスだが、少なからずデメリットもある。導入を考える前に確認しておこう。

バーチャルオフィスのメリット

  • 固定費の削減
    オフィスを借りるための保証金や賃料を削減することができる。契約の更新料や管理費も必要ない。

  • 設備費の削減
    通常のオフィスに必要な電話やファクシミリ、コピー機などを用意する必要がない。ただし、各社員に、スマートフォンやパソコンなどを支給する必要がある。

  • 支社や支店の開設が容易
    国内の地方拠点、海外拠点を開設する際も保証金や賃料がかからない。また国によっては必要になる、各種手続きも不要だ。

  • オフィス開設までの時間がかからない
    通常オフィスを探す際は、現地の内覧や契約に時間がかかるが、バーチャルオフィスの場合はソフトのインストールとパソコンの設定作業だけで完了するので、時間がほとんどかからない。

バーチャルオフィスのデメリット

  • 会社の登記
    代表者の自宅を法人として登記できるなら問題ないが、自宅がマンションなどの場合、管理組合の規定で法人登録ができないことがある。その場合は、レンタルオフィスの住所貸しサービスや登記に関わるサービスを利用することになる。

  • 代表電話の設定や郵便物の取り扱い
    顧客からの問い合わせや郵便物を受け取るためには、会社としての代表電話や住所が必要になる。上記と同様に、レンタルオフィスの電話転送サービスや電話秘書代行サービス、住所貸しサービスなどを利用して解決することになる。

  • 勤怠管理
    バーチャルオフィスだけの問題ではないが、テレワークなどでも勤怠管理は課題になっている。管理者からすると、社員がその時間本当に働いているかどうかわかりにくいのがテレワークなどの問題点だ。バーチャルオフィスツールを選ぶ際は、勤務中の社員の顔が映るものや、タイムカード機能のあるツールを選択するといいだろう。

  • 帰属意識
    オフィスをまったく持たず、バーチャルオフィスだけで運営されている会社ではこれが最大の問題になるだろう。帰属意識とは、自分がその会社に属している、または社員であると自覚する意識のことだ。

テレワークは家庭と仕事の両立(育児や介護)を可能にし、離職率を下げる効果もあるが、これとてまったく現実の交流がなくなった場合は、帰属意識に悪影響を及ぼす可能性がある。

実際の交流がないことを前提としたバーチャルオフィスでは、時間の経過とともに人間関係が希薄になり、やがて転職してしまうことは十分考えられる。バーチャルオフィスの考え方とは相反するかもしれないが、定期的に会議や懇親会を企画するなど、社員間のコミュニケーションに配慮する必要があるだろう。

バーチャルオフィスのためのツール

バーチャルオフィスを構築するためのツールをいくつか紹介しておこう。ツールを選択する際は、それぞれの特徴と自社で重視する施策が合うものを選びたい。

Remotty(リモティ)

名刺管理ソフトで有名な「Sansan株式会社」などが導入しているバーチャルオフィスツールだ。出社している社員の顔を2分間隔で撮影して、各社員の画面に共有するのが基本的な機能だ。電話をかけているといった様子がわかるので、最適なタイミングで声がけができる。

現実のオフィス同様に、自分の座席スペースが用意されているので、他の人を呼んで雑談をすることなどもできる。オンライン会議ツール連携や掲示板、入退室ログの機能もあり、バーチャルオフィスに必要な機能がひととおり揃っている。

Sococo(ソココ)

仮想のオフィスを上から眺めるようなユーザーインターフェースが特徴のバーチャルオフィスツール(オフィスのレイアウトは30種類以上から選べる)。自分のアバター(自分自身の分身)をコントロールして、オフィス内を移動しながら執務を行う。

チャットでも音声通話でもコミュニケーションができ、必要な時は顔写真を表示しながら会議をすることもできる。特別なアプリケーションは不要で、ブラウザベースで使えるので、使うパソコンやスマホの種類、OSに依存しない。親しみの湧くユーザーインターフェースと、ITに詳しくない人でも使える簡単な操作が魅力だ。

ツール導入時の注意点

バーチャルオフィス専用のツールは、まだ数が少ない。在宅勤務時のコミュニケーションの重要性に目が向けられていないことや、スモールビジネスを展開する経営者たちにその効果が認識されていないことなどがその理由だろう。

数少ないツールから自社に最適なものを選ぶ際は、ほとんどのバーチャルオフィスツールに用意されている無料トライアルを利用したい。一定期間試用してみて、自社にメリットがあるかどうかしっかり確認しよう。

注意したいのは、セキュリティ面だ。顧客との打ち合わせ内容を記録したり、顧客のデータを共有したりすることを考えれば、セキュリティ性能の高いツールを選ぶ必要がある。導入実績の多いメーカーのツールを選択すると、間違いが少ないだろう。

地方や海外での運用に大きな可能性

テレワーク時のコミュニケーションツールや、スモールビジネス展開時のコスト削減策など、バーチャルオフィスツールは幅広い用途に使うことができる。特に新しい拠点の開設など、成果が上がるかどうかわからないため、大きな投資をしたくない場合には最適だ。まだツールの数は少ないが、昨今の状況を受けてこれから多くリリースされることが予想される。その動向から、目を離さないようにしておこう。(提供:THE OWNER

文・長田小猛(ダリコーポレーション ライター)