オンラインでの打ち合わせは、以前から海外拠点や国内の地方拠点とのミーティングで使われていた。しかし以前は比較的高価なオンライン会議用の設備を使って、会議室で行われるものが多かったのではないだろうか?
政府が推進する働き方改革や新型コロナウイルスの感染拡大などによって、状況は一変した。離れた場所でも、まるで会って話しているように会議ができるオンライン打ち合わせは、オフィスのデスクだけでなく、街中のカフェや自宅のリビングでも行われるものになりつつある。今回は、さまざまな状況から使われ方が劇的に変わっていくオンラインでの打ち合わせについて紹介していこう。
意外と歴史が古いオンラインでの打ち合わせ
以前のオンラインでの打ち合わせは、カメラと大きなモニター、スピーカーやマイクが会議室の机に置かれ、あらかじめ先方と日時を決めて開催されるものだった。「テレビ会議システム」などと呼ばれ、数十万円単位の投資が必要だった。
また、そのほとんどはセキュリティのために専用線(電話回線)を必要とし、システムも独特だったため顧客の会議室とつなぐことはできなかった。したがって、社内の海外拠点や遠方の国内拠点との会議に使われることがほとんどだった。それでも、大勢で移動したり出張したりすることでかかる経費と時間を考えれば、安いものだったのだ。以前の「テレビ会議システム」は、主にコスト削減のために導入されていたと言える。
しかしこの状況は、インターネットの普及(主に帯域の拡大や通信速度の向上)やパソコンの性能向上、スマートフォンの登場によって一変した。
オンライン打ち合わせが普及した背景
インターネットの帯域拡大や通信速度の向上はめざましい。以前はEメールに少し大きめのファイルを添付することさえはばかられたが、現在は画像ファイルや音声ファイルを送ることもできるようになった。外出先でYouTubeなどの動画サービスを視聴する際も、通信速度の問題はほとんどない。データが往来する通信インフラの性能は、ここ数年で劇的に進化したのだ。
パソコンの性能向上やスマートフォンの登場も、オンライン打ち合わせの普及を後押ししていると言えるだろう。最近は収納スペースの問題やモバイルでの利用を考えて、ノートパソコンを購入する企業が多い。
最近のノートパソコンは性能向上も著しいが、カメラやスピーカー、マイクが始めから装備されていて、無線LANなどインターネットとの接続環境も充実しているものが多い。また最近のスマートフォンは、ノートパソコンが持つオンライン向けの機能を標準装備しているものがほとんどだ。このようなモバイル機器の普及は、オンラインでの打ち合わせを手軽に導入できる素地となっていたのだ。
顧客との打ち合わせもできる
通信インフラや汎用的なモバイル機器の機能が劇的に進化し、その利用が特別なものではなくなったことから、以前のテレビ会議システムのように特別の機器や専用線が必要なくなった。後述するツールを利用すれば、社内だけでなく顧客とのオンライン打ち合わせもできるようになったのだ。ただし、顧客との打ち合わせでは情報漏洩に配慮し、強固なセキュリティシステムを備えた環境で行う必要がある。
政府の推進する働き方改革
政府は2018年に成立した「働き方改革関連法」に基づき、労働に関わる法律の整備や労働環境の改善を進めている。政府の掲げる働き方改革の中で、企業が積極的に導入を進めている施策の一つが「テレワーク」だ。ICT(情報通信技術)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方として注目されているこのテレワークも、オンラインでの打ち合わせを前提としている。
オンライン打ち合わせのメリット・デメリット
新しい働き方が求められている背景や、それを可能にするICT技術の進化があってオンライン打ち合わせが普及し始めたわけだが、実際にはどのようなメリット・デメリットがあるのだろうか?
オンライン打ち合わせのメリット
・業務効率向上
遠方はもちろん、近隣であっても顧客との打ち合わせに伴う移動時間を削減できる。また実際の面談では遅刻しないために早めに行動しなければならないことも多いが、オンライン打ち合わせではこのような時間調整が不要なので、限られた業務時間を効率的に使うことができる。また社内の打ち合わせでも自分の机で会議に参加できるため、業務効率を上げられる。
・コスト削減
社内であれ社外(顧客)であれ、打ち合わせのための移動による交通費、出張費などを削減できる。またテレワークでも、オフィスのスペースや机などの設備にかけるコスト、従業員への交通費支給などの削減につながる。
・テレワークの推進
テレワークの推進自体がオンライン打ち合わせのメリットではないが、テレワークの仕組みを社内に浸透させることで、副次的なメリットが生まれる。中でも大きいのが、離職率の低減だ。育児や介護でやむなく離職する女性は多いが、仕事と家庭を両立できるような仕組みあれば、離職率は大幅に減ると言われている。
オンライン打ち合わせができるシステムを構築すれば、本社のサーバーからデータをダウンロードして作業を行い、ミーティングはオンライン打ち合わせシステムで行う、といったことができるようになる。優秀な人材を確保するためにも、テレワークは有効なのだ。将来日本の労働人口が減ることは間違いないが、政府はその防止策としてテレワークを推進しているというわけだ。
オンライン打ち合わせのデメリット
・設備、ツール(ソフトウェア)の導入費用
パソコンなどはすでに1人1台になっていると思うが、デスクトップパソコンであればノートパソコンに替える、また周囲の社員に配慮してマイク付きのヘッドホン(ヘッドセット)などを用意する必要がある。他にも、後述するツールの導入費用も考えておかねばならない。
・オンラインならではの雰囲気のつかみにくさ
特に顧客との打ち合わせでは、オンライン特有の「場の雰囲気のつかみにくさ」がデメリットとして挙げられる。前向きな打ち合わせ内容であればいいのだが、紛糾することが予想される内容(たとえば不手際による謝罪など)だと相手の雰囲気をつかみにくく、不用意な発言をしてしまうと取り返しのつかないことにもなりかねない。顧客との打ち合わせでは、内容に応じて直接の打ち合わせを選択すべきケースもあるだろう。
・コミュニケーション不足
テレワークなどで起こりやすいことだが、オンラインの打ち合わせだけでは細かいニュアンスが伝わらず、気がついたときにはお互いの認識が大きくずれている、ということがある。少しでも疑問に思うことがあれば、相手にダイレクトメッセージを送って確認するか、定期的に現実の打ち合わせを持つようにするなど、コミュニケーション不足を補う工夫が必要だ。
オンライン打ち合わせのためのツール
1対1での利用から大人数での打ち合わせが可能なできるものまで、各社からオンラインの打ち合わせに最適なツールがリリースされている。いくつか紹介しておこう。
Zoom
無料でも使いやすく、導入も容易なことから急速に普及しているツールだ。アメリカに本社があるZoomビデオコミュニケーションズの製品で、パソコンやスマホにすぐインストールできる。
無料プランと有料プランがあり、無料プランで1対1なら時間無制限、3人以上の打ち合わせでは利用時間が40分に制限される。ちょっとした打ち合わせなら無料プランで十分だが、有料プランならクラウドレコーディング(画像と音声の記録)ができるほか、利用時間の制限がほぼなくなる(最長24時間)ため、ビジネス利用なら有料プランが最適だろう。
Teams
マイクロソフトが提供するオンライン打ち合わせやチャット、共同作業のためのツールだ。無料版でもチャットや、オンラインのビデオ会議が開催できるほか、「ゲストアクセス」機能によって、社外のユーザーも打ち合わせに招待できる。有料版と無料版で基本的な機能は変わらないが、有料版は保存できるデータ容量が大きく、管理監査機能、会議の録画・録音機能などが利用できる。Zoomと同じようにパソコンやスマホにすぐインストールでき、使い勝手も良い。
ツール導入時の注意点
ツールの導入時に気を付けたいのは、セキュリティ性能だ。顧客との打ち合わせはもちろん、社内の打ち合わせであっても、情報漏洩等のリスクがあってはならない。上記で紹介したツールなら、会話の内容やチャット、データの転送などはすべて暗号化され、容易には読み取れないようになっている。ツールの導入時は、信頼できる企業が提供するツールを選ぶようにしよう。
オンライン打ち合わせの成功事例
上記で紹介したZoomは米国の製品だが、日本ではNECのグループ会社であるNECネッツエスアイが取り扱っている。NECネッツエスアイのホームページには、国内の導入企業として「ハウス食品」「豊田通商」「JCB」「井村屋」「東急コミュニティー」といった有名企業が名を連ねており、その性能が信頼できるものであることがわかる。
特筆すべきはその活用方法で、社内ミーティングはもちろん、在宅勤務者や外出中の営業社員との打ち合わせ、遠隔地との定例会議、現場作業員との情報共有、セミナーや勉強会への活用と幅広い。幅広いデバイスに対応する、オンライン打ち合わせシステムならではの成功事例と言えるだろう。
成功のカギはファシリテーターの存在
最新のツールを使ったオンライン打ち合わせシステムにはさまざまな利用法があるが、打ち合わせに限って言えば、成功のカギはファシリテーター(進行役)の存在だ。通常の会議でも同じだが、優れたファシリテーターの存在は会議の効率を左右する。進行の大切さは、独特の距離感があるオンラインの打ち合わせでは特に際立つ。いかにIoTの技術が進んでも、最後は運用する人間の能力が重要であることを忘れないようにしたい。(提供:THE OWNER)
文・長田小猛(ダリコーポレーション ライター)