「不動産投資は運用の基盤に置くべき」

こう解くのは公認会計士であり、税理士でもある澁谷賢一氏である。銀行預金の利息で資産を増やすことは難しい昨今、こうした運用を選択肢の一つとして考えるのは悪くない。

ただ、はじめて不動産投資を検討する人にとって、その収益性をイメージするのは容易ではない。澁谷氏の著書の中から、具体的な数字のシミュレートを紹介する。他人資本を使って自己資本を積み上げていく不動産投資のイメージが湧いてくるだろう。

(本記事は、澁谷賢一氏の著書『公認会計士・税理士が教える「東京」×「中古」×「1R」不動産投資の始め方』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)

不動産投資の収支をシミュレーションしてみよう

不動産投資
(画像=FrameRatio/Shutterstock.com)

具体的な数字例で見てみましょう。

例にするのは、物件価格2380万円、文京区の築年数15年の物件です。

家賃収入は9万2000円、建物管理費8200円、修繕積立金3200円、賃貸管理手数料3300円で、月々のネット収支は7万7300円です。

この物件を頭金10万円、残りの2370万円はローンを組み、その条件は35年間、金利1.64%とします。これを計算すると、月々のローン返済額は7万4202円となり、ローン返済後の手取り収支は3098円のプラスとなります。(下図)

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(画像=『公認会計士・税理士が教える「東京」×「中古」×「1R」不動産投資の始め方』より)

ここで勘違いされやすいのは、2370万円ものローンを組んだのに、月々たったの3098円しか儲からないの?ということです。

月々のローン返済額7万4202円の内訳は、元本返済額4万2128円、支払利息3万2074円となっています。この元本返済額4万2128円は、入居者が稼いだお金で支払ってくれる家賃の9万2000円と相殺され、ローンの残債を減らしていく部分になります。ローンの残債が減っていくということは負債が減っていくことになりますから、資産から負債を引いた純資産の部分が増えていくことになります。純資産の部分は売却を通じて現金化することができます。

なので、元本返済額の累計額は、第三者が作ってくれる貯金として機能するわけです。毎月の手取り収支3098円にだけ注目してしまうと、投資判断を誤るおそれがあります。

月々の収支がプラスでなければ運用をする意味がない、という方もいるのですが、これは不動産で資産形成をするうえではあまり本質的な議論ではありません。なぜなら、現在では最大45年間でローンを組める場合もあり、ローン期間を長くすれば月々の返済額は減り、収支を良くすることは簡単だからです。

先ほどの物件で他は同条件でローン期間を45年で計算すると、手取り収支は1万5213円に向上します。一方で元本返済額は2万9921円となりますので、ローンの残債が減っていくスピードは遅くなり、結果として第三者が作ってくれる貯金が貯まるスピードは遅くなります。

現在の不動産市況であれば、東京都心部の中古物件でフルローン、融資期間35年、1%中盤の金利で、月々の収支はプラスマイナス5000円程度が許容範囲と考えています。これがマイナス1万円や2万円などと大幅に持ち出しになるような物件であれば、物件価格が高いか、賃料が低すぎるか、建物管理費や修繕積立金が高いか、金利が高いかなどのマイナス面が強いため、購入は避けた方が無難です。

割高な不動産を融資期間45年のローンで組んで、月々たったの数千円の持ち出しで購入できます、と見た目をカモフラージュする販売手法も存在しますが、本書を読んでいただいた皆さんはこれに惑わされることはありません。

生命保険や携帯電話、食事には、平気で1万円、2万円と支払う方は多いですが、いざ不動産投資となるとしり込みをしてしまう方が多い印象を受けます。これは不動産投資の基本的な仕組みを理解していなく、住まいや車を買うための借り入れと混同してしまっていることが大半です。

徐々にローンという負債が減っていき、不動産という資産が残るわけですが、ここで、勘の良い方であれば、借入金の返済を続けていって不動産が残ったとしても、不動産の資産価値が下がったらどうするの?という疑問が湧いてくると思います。

不動産の資産価値をいかに残していくか、ということを戦略的に考えて、しっかり運用していくことが、私は不動産投資で最も重要な点だと考えています。

先ほどの文京区の物件を例にします。

ここでは家賃変動や更新料収入、修繕などのコストはかからず、節税効果や納税については一旦度外視します。

融資期間35年のローンを組んでいたとすると、ローン完済後の35年後には一体どうなっているでしょうか?

(1)購入時に頭金10万円と諸費用の55万円、計65万円を支出したとします。

(2)月々の手取り収支は3098円として、35年では130万1160円のプラス手取り収支です。

(3)固定資産税等が年間4万5000円かかるとすると、35年間では157万5000円です。

(1)~(3)を合算すると、下の図のように35年間では92万3840円のマイナス収支となります。

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(画像=『公認会計士・税理士が教える「東京」×「中古」×「1R」不動産投資の始め方』より)

一見すると約90万円のマイナス運用であったとみることもできます。

さて、ここで忘れてはならないのが、不動産投資では不動産それ自体に資産価値があるということです。この物件の物件価格は2380万円なので、ローン完済後には、負債がゼロになりますから、仮に購入時の物件価格を維持できていたとすると2380万円の純資産が残ったというわけです。ここでは、この不動産を売却して2380万円の現金を手に入れたと仮定しましょう。

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(画像=『公認会計士・税理士が教える「東京」×「中古」×「1R」不動産投資の始め方』より)

そうすると、手元に残るお金は上の図のように35年間の収支と売却収入を合計した2380万円−92万3840円となり、運用収益トータルとしては2287万6160円のプラス収支ということになります。

不動産投資の数字を試算するうえでは減点方式で考えていくべきです。

ここまでの数字には、不動産のリスクは反映していませんでしたが、ここからは35年間の運用収益トータル金額の2287万6160円をベースに、少し大きめなリスクを反映した数字で検討してみましょう。

・空室が5%発生:(9万2000円−3300円)×12ヵ月×35年×空室率5%=186万2700円

・家賃が10%下落:9万2000円×家賃下落10%×入居率95%×12ヵ月×35年=367万800円

・15万円の修繕費が3回発生:15万円×3回=45万円

・売却価格が30%下落:2380万円×売却価格下落30%=714万円

これらのリスクの金額を合計するとマイナス1312万3500円です。

リスク反映後の運用収益トータル金額は2287万6160円−1312万3500円=975万2660円となります(下図)。

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(画像=『公認会計士・税理士が教える「東京」×「中古」×「1R」不動産投資の始め方』より)

つまり、これだけのリスクがあると考えても、初期投資額65万円で約1000万円の資産を構築できたことになります。

これが2戸、3戸と所有していたらどうなるでしょうか。

東京都心部の中古ワンルームマンションで2500万円程度の不動産を購入すると考えた場合、4戸で資産総額は1億円に到達します。

ワンルームに融資をする金融機関では、年収の8倍程度まで貸し出しをしてくれるため、1億円÷8倍=1250万円以上の年収がある方については、その時点で1億円の資産を手に入れて、ここで説明したように資産を積み上げていくことができるのです。年収が1250万円に満たない方であっても、不動産の売買を繰り返していくことで、資産総額を段階的に増やしていくことは可能なため、資産総額1億円を目指すことは十分可能です。

また、不動産投資は必ず35年間持ち続ける必要があるかというとそうではありません。市況が良いタイミングで売却をして、そこで得た利益を再投資するという戦略も考えることができます。保有期間が10年でも15年でも20年でも、途中で売却してしまって、そこで得た収入を頭金にして、新たな不動産を購入しても良いのです。年収が1250万円に満たないけれど1億円の資産を目指したいという方は、不動産売買を戦略的に行い、新たな不動産を購入して資産を増やしていくことが必要です。

不動産会社の中には、「不動産は持ち続ける資産だから、仕組みが成り立つのであれば物件は何でも良いのです。選り好みをする必要はないので私に任せてください!」と平気な顔をして話す営業マンもいますが、そんなことはあり得ません。

不動産投資は1、2年の短期売買を繰り返すには向いていなく、中長期的な運用を念頭に置くべきであって、一生持ち続けることもできる優れた商品ですが、何かあった場合に売りづらい物件を持っていたら、長年持ち続けていたとしてもトータル収支でマイナスなんていうことだってあり得るのです。

自分は絶対に売らないから大丈夫とタカをくくっていても、ご自身に万が一のことが起きて不動産が相続されたご家族はどうでしょうか?なかなか売れない物件で、入居率も悪く家賃も大幅に下げないといけないなんてことがあれば、固定資産税の支払いで残されたご家族が苦しむ状況も想像できます。

不動産の資産価値が将来大きく目減りするような物件は買うべきではないのです。

ここでは様々なリスクを反映した場合の収支もご覧いただきましたが、実際には賃を上げられる可能性も十分にあります。

私自身、築年数18年の不動産を購入しましたが、実は半年ほどで入居者が退去してしまいました。そのあと、とある施策を行ったことが功を奏して、2.5ヵ月間の空室期間が生じたものの、結果として家賃を1万円も上げることに成功したのです。

公認会計士・税理士が教える「東京」×「中古」×「1R」不動産投資の始め方
澁谷賢一(しぶや・けんいち)
公認会計士、税理士、㈱ブリッジ・シー・エステート 代表取締役、ドムスレジデンシャルエステート㈱ 代表取締役。2007年に成蹊大学 経済学部経営学科卒。2010年の公認会計士試験合格後、㈱ブリッジ・シー・キャピタルの立ち上げに関わる。同社立ち上げ後は、一部上場企業へのコンサルティング業務や、中小企業から個人まで数十社の顧問業務を担当。総額40億円規模の不動産開発、企業買収案件、富裕層の相続対策や資産運用にも従事。2013年10月に、個人向けの不動産サービスに特化した㈱ブリッジ・シー・エステートを立ち上げる。東京都心の区分レジデンスを国内外の投資家に提供中。WEBメディア「幻冬舎ゴールドオンライン」や「WHITE CROSS」連載、雑誌「Forbes Japan」「PRESIDENT」、テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」など、メディア出演実績多数。

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