「不動産投資は運用の基盤に置くべき」と説く公認会計士・税理士の澁谷賢一氏だが、不動産投資にはリスクもつきものだという。

不動産投資にまつわるリスクは主に2つ。「空室リスク」と「金利上昇リスク」である。それぞれ、どのように対処していったらよいのか、澁谷氏の著書からお届けする。

(本記事は、澁谷賢一氏の著書『公認会計士・税理士が教える「東京」×「中古」×「1R」不動産投資の始め方』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)

不動産投資とは切っても切れないリスク

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(画像=Monster Ztudio/Shutterstock.com)

不動産投資をするうえでは、リスクはつきものです。不動産会社からいろいろな話は聞いているものの、不動産に投資するのがまだ怖い、と話す方は、リスクについての話をしっかりと聞いたことがなく、メリットの話ばかりを聞いているケースが多いと感じています。

どんな運用商品もリターンとリスクは表裏一体です。リターンもリスクも取りたくない場合には、引き出しの手数料がかからないネットバンキングの預金口座にでも入れておくことが今考えられる中では一番安全な対策かもしれません。

本書を手に取っていただいている方は、少なからず資産を増やしたいとか、将来に残したいという考えがあると思いますので、それを前提に解説を進めますが、リスクあるところには必ずそれを回避、また軽減させるための解決方法はあります。ここからは、不動産投資における代表的なリスクと、その対策について見ていきましょう。

●空室リスク

不動産投資は、基本的には金融機関から借り入れをしてローンを組み、その返済額を入居者からの家賃収入で支払っていく構造です。ではこの構造上もっとも重要な要素は何になるでしょうか?

答えは、入居者からの家賃収入です。この家賃収入が安定的に入ってくるかどうか、これが最も重要です。

入居者が退去してしまい、家賃収入が入ってこなくなれば、返済額を自分の貯金から支払わなければならなくなるため、長期間空室になることは避けたいです。この空室期間が生じることが最大のリスクなのです。

ワンルームマンションではおよそ4年に1回、退去と入居が行われるサイクルとなります。もちろんこれよりも長く住む方もいれば、短い時間で退去される入居者もいます。空室リスクを完全にゼロにすることはできませんが、ゼロに限りなく近づけていくことは可能です。

例えば、35年間で、4年に1回退去すると仮定すると、8回退去が行われることになります。退去して次の入居者が付くまでの時間が1.5ヵ月間と仮定した場合の空室率は、

8回×1.5ヵ月/420ヵ月=2.86%となります。稼働率でいうと97.14%ということです。

この稼働率が80%や70%になってしまうようであれば、そもそもの不動産運用の前提を揺るがしてしまうほどにリスクが大きくなってきます。

・賃貸需要の高いエリアに拘ること

高い入居率を確保するためには、賃貸需要の高いエリアの物件を保有することに勝る解決策はありません。立地がすべてといっても良いでしょう。築年数が経過してしまい、内装をリフォームしなければならなくなっても、それに対応することはできますが、立地だけはどうしようもないからです。特に鉄板エリアは、人口が多い東京23区の、駅から徒歩10分以内の物件です。厳密には、23区の中でも一定のエリアであったり、駅からの距離は近いに越したことはありません。

・入居者募集をする条件を見直す

いくら賃貸需要の高いエリアに物件を購入したとしても、転勤や卒業のシーズンには空室が出る可能性はあります。万が一空室になった場合でも、敷金・礼金の見直し、入居者付けをしてくれる賃貸会社へ支払う成約手数料の増額、フリーレント期間の付与などを検討することで、成約のスピードを加速することができます。

私たちでは、入居者が退去する2ヵ月前には退去する旨の通知をもらう賃貸借契約にしています。入居者から2ヵ月前までに退去のお知らせをもらったら、その時点で次の入居者の募集をかけます。そうすると、入居者が出て行って原状回復工事が完了するまでに1週間から2週間くらいかかりますが、工事が終わった次の日から新しい入居者が入ることができる流れを作ることができます。

・家賃保証(サブリース)サービスを利用する

空室リスクを回避するために、家賃保証サービスを利用することも考えられます。

家賃保証サービスは第2章で少し触れましたが、賃貸管理会社が一括で借り上げますので、空室リスクは賃貸管理会社が負い、オーナーにとっては安定的な家賃収入を受け取ることができるのです。ただし、通常の集金代行契約よりも高い手数料を支払うことになりますので、空室リスクとのバランスを考えて活用すべきです。

このような家賃保証サービスですが、サブリース契約を締結する場合には注意が必要です。サブリース契約は、不動産業者が条件を自由に設定しやすい契約になっている場合が多く、そこを逆手に取ってオーナーにとって著しく不利な契約内容になっている場合があるからです。

実際に入居者が支払っている家賃よりも高い保証賃料になっている場合

物件価格が高く、利回りが低くて売りづらい物件を販売するために、月々の収支や利回りを良く見せようとして、実際の契約賃料よりも高い金額でサブリース契約を結んでいる場合です。

例えば、入居者が8万円の賃料を払っているところを、9万円の保証賃料という形で保証しているケースがこれにあたります。サブリースを運営している会社からすると、保証賃料の方が実際の家賃収入よりも大きい状態となり(逆ザヤといいます)、毎月1万円赤字が出ますが、販売利益にこの赤字部分も織り込んでいるので、不動産業者としてはそれほど痛くはありません。すでにサブリースが条件となっていて、実際の入居者との家賃を教えて貰えない場合には注意が必要です。

保証賃料が、管理会社が一方的に設定できる内容になっている場合

サブリース契約は2年毎の更新契約が多いですが、契約更新時に保証賃料の見直しをする場合、契約期間中に実際の入居者賃料を下げてしまい、それに応じて保証賃料も下げられてしまうケースがあります。

そもそも実際の賃料を安易に下げられてしまうと売却時に大変困るのですが、一方的に管理会社が保証賃料を下げることができる契約になっている場合には、十分注意が必要です。

サブリース契約が実質的に解除できない契約になっている場合

契約自体が、簡単には解除できない条文になっている場合があります。

20年や35年間家賃保証をする、ということを謳っている不動産業者もいますが、これが契約期間の途中で解除することができる内容になっているかはよく確認しておくべきです。また、解除できるとしても、多額の違約金を取られる場合があるので、その内容もしっかり確認することが重要です。

サブリース契約を解除できない物件には、提携金融機関は融資を嫌いますから、次の買い手はいくらそのマンションが気に入っても、提携金融機関を使って購入することが困難になります。提携金融機関は基本的に、販売会社が賃貸管理を行うという前提で融資をします。オーナーチェンジで売買するときには、基本的には仕入れた販売会社系列の賃貸管理会社に替わるのですが、賃貸管理を移管できないので、販売会社も仕入れられないのです。

サブリース契約の場合には、しっかりその条件を確認してからでないと、売却しづらくなる、出口が狭まってしまうという問題が発生します。

不当なサブリース契約を発端に、実際に裁判になっているケースがありますが、多くの場合不動産業者が勝っています。契約書自体は法的には問題ないという判断なのです。契約内容が明記されていて納得したうえでの署名・捺印をしていると、裁判所は判断しているのです。

繰り返しですが、空室リスクは、可能な限りゼロに近づけていくことが重要です。

ただ、賃料を上げるために一定の空室期間が生じることは、私はさほど気にすることではないと考えています。家賃を1万円上げることができればざっと300万円近い不動産価値を上げることができるのです。とすれば、2〜3ヵ月間空室期間が生じたからといっても、その分家賃を上げることができれば大成功といえるのです。

●金利上昇リスク

現在は空前の低金利が続いていますが、ローンの金利が上がることで将来の返済の負担が増加し、収支に影響を及ぼしますから、金利上昇はリスクになることが考えられます。

ただし、一般的には金利の上昇局面というのは景気の上昇局面とリンクすると考えられますので、景気が上昇すれば物件価値の上昇も見込まれますから、いわゆる景気上昇に伴う金利上昇に関しては、それほど心配する必要はないともいえます。

注意すべきは、景気の回復・上昇とは連動していないところで金利が上昇することです。

例えば日本国債。今は日銀が買い支えていますが、国債が仮に暴落するような事態になると、一気に金利が急騰します。当然景気も悪くなってしまいます。国債の金利が上昇すれば、住宅ローンの金利も上昇しますので、そういった景気が悪化した中での金利上昇局面があることにも留意しておかなければなりません。

金利上昇リスクに対する解決策としては、(1)売却、(2)繰り上げ返済、(3)固定金利プランの選択などが考えられます。

・売却を検討する

金利に即して基本的には地価も連動して推移してきますので、物件の資産価値も上がっていることが想定できます。資産価値の高い時点でマンションを売却して現金化することも選択肢の1つでしょう。

・繰り上げ返済を検討する

金利上昇が続くと予測される状況にある時には、繰り上げ返済によって早期に完済することも1つの手段です。繰り上げ返済とは、余剰資金をローン返済に早期に回していくことです。繰り上げ返済には、期間短縮と返済額軽減の2種類のやり方があります。

期間短縮とは、返済額は変えずに、ローン期間を短縮させます。

返済額軽減とは、ローン期間は変えずに、返済額を少なくさせます。

このような繰り上げ返済は、金利上昇が続く局面だけではなく、通常の運用時にも活用することも考えられます。ボーナスや退職金でまとまったお金が入ってきた場合に、繰り上げ返済を有効活用することで月々の返済負担を軽減させたり、ローン返済期間を短くすることで早期に資産形成を行うような場合に使えます。

・固定金利を選択する

金利上昇に備えて固定金利プランを選ぶという選択肢もあります。実際、東京オリンピックイヤーをにらんで、景気の回復・上昇に伴って金利が上がっていくのではないかと考える方が、現時点では固定金利も非常に低いので、とりあえず2年や3年の固定で様子を見るというスタンスをとっていました。

固定金利でも短期間であれば、変動金利とほとんど差はありません。35年間の固定金利では、金融機関にもよりますが1%程度高くなります。投資用ローンで固定金利を採用している金融機関はごくわずかですが、もしそういった金融機関が使えるチャンスがあれば選択するのも1つの手でしょう。

公認会計士・税理士が教える「東京」×「中古」×「1R」不動産投資の始め方
澁谷賢一(しぶや・けんいち)
公認会計士、税理士、㈱ブリッジ・シー・エステート 代表取締役、ドムスレジデンシャルエステート㈱ 代表取締役。2007年に成蹊大学 経済学部経営学科卒。2010年の公認会計士試験合格後、㈱ブリッジ・シー・キャピタルの立ち上げに関わる。同社立ち上げ後は、一部上場企業へのコンサルティング業務や、中小企業から個人まで数十社の顧問業務を担当。総額40億円規模の不動産開発、企業買収案件、富裕層の相続対策や資産運用にも従事。2013年10月に、個人向けの不動産サービスに特化した㈱ブリッジ・シー・エステートを立ち上げる。東京都心の区分レジデンスを国内外の投資家に提供中。WEBメディア「幻冬舎ゴールドオンライン」や「WHITE CROSS」連載、雑誌「Forbes Japan」「PRESIDENT」、テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」など、メディア出演実績多数。

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