コロナ禍の影響で、若者たちの就職事情が変わってきている。都市部の密を避けて、地方での就職を希望する学生が増えているのだ。さらにその理由として「働き方への意識変化」が顕著になっており、感染リスク防止だけではないというのもポイントである。この好機に地方企業が優秀な人材を確保すべく、経営者ができることを考えてみたい。

学生の就職希望に変化か

地方就職
(画像=Gajus/stock.adobe.com)

コロナによってリモートワークが急速に広がり、それが就職を希望する学生や転職者の職業や就業場所の選択にも影響を与えているようだ。

都市部ではなく地方での就職を希望する人が増加

新型コロナウイルス感染拡大を機に、地方での就職を希望する人が増えているという。いよぎん地域経済研究センターの調査によると、コロナ禍の影響で就職希望場所に変化があったと回答した学生の割合は、11.8%だった。このうち78.6%が「地方を希望するようになった」という。

また全体で見ると、学生の約9%が「就職場所として地方を希望するようになった」と回答した。都市部の一極集中によるさまざまなリスクを避ける目的のほかにも、オンラインを活用したリモートワークが急速に広がったことで、ワークライフバランスの充実をはかる狙いなどが背景にありそうだ。

都市部から地方に“転職”を希望するケースも

また、20代向けの転職サイト「Re就活」を運営する学情が20代の転職希望者361人に対して行ったアンケート調査においても、地方転職を希望する声が増えているという。

同調査で「UターンやIターンでの地方転職を希望する」と答えた転職者は36%で、今年2月の調査と比べると14.3ポイント多くなっている。また「地方への就職・転職」に積極的な求職者が、慎重な求職者を21.1ポイントも上回っている様子だ。新卒者だけでなく、転職者も地方への就職希望が増えているようだ。

なお、地方への転職を希望する理由については、人口密度の高い都市部における感染リスクを避ける以外にも、「地元に貢献する仕事をしたいと思ったから」「テレワークで場所を選ばずに仕事ができることがわかった」といった回答が目立ち、仕事に対する考え方の変化がみられている。

意識変化により都市部で働くことの価値に疑問か

地方就職は、「U・I・Jターン」でしばしば区別される。「Uターン」とは、都市部に一度移住した人が、自分の故郷・出身地に戻って働くことを指す。また「Iターン」は、出身地ではない地方の地域において働くことを指す。「Jターン」はUとIのあいだをとったような意味で、一度都市部に出た人が、出身地に近い地方都市に戻って働くことを指す。例えば、子育て世代など、故郷の市町村では不便がある場合などに、故郷にほど近い地方都市を選択するようなケースだ。

コロナ禍によるリモートワークの急速な普及で、地方で働く仕事の選択肢が増えている状況のなか、あえて都市部で働くことに疑問を抱き始めている学生も少なくない。つまり、働く場所にとらわれないことに価値が見いだされるようになった今、地方就職の波はコロナ禍が過ぎ去れば終わる、というものでもなさそうだ。

経営者はどう対応すべきか

このような若い人材のニーズに対応すべく、経営者がおさえておきたいポイントを考えてみたい。

会社説明会などはオンラインで開催する

いよぎん地域経済研究センターの調査によれば、オンラインでの会社説明会は「あり」と答えた人は 80.4%だったという。つまり、会社説明会はオンラインでもよいと感じている学生が多いことがわかる。

特に遠方の学生にとっては、興味のある企業の説明会にオンラインで手軽に参加できることは大きなメリットだろう。全国の優秀な人材を取り込むために、自社の魅力をオンラインでどう伝えられるかが勝負になりそうだ。

都市部企業はアピールポイントの見直しを

逆にいえば、都市部の企業にとっては向かい風となっている。「都市部で働くことの魅力」をあまり感じない学生が今後も増えれば、優秀な人材確保の倍率は上がりそうだ。

そのため、これまでどおりのアピールでは通用しないということを認識し、休暇制度や福利厚生の見直しなど、企業制度そのものを改革していくことも有効ではないだろうか。

地方就職に関する不安解消も忘れずに

地方の企業もそれなりの策が必要だ。いくら地方就職の人気が出てきたからと言って、待っているだけでは、良い人材は集まらない。

ここで忘れてはならないのが、学生は、地方への就職を希望する一方で、“地方就職に不安を抱えている”ケースも多いということだ。自分の希望する業界での求人有無のほか、都市部と比べると、生活の利便性、給与水準などを不安視する人もいるだろう。

このような学生の悩みや不安を、企業がいかにフォローできるかがカギとなる。若者のニーズにアンテナを張り、「この地域の、この企業で働きたい」と思わせるような独自の魅力を打ち出していくことが重要だ。

自治体との連携も有効

コロナ禍を経て、地方就職は急速に追い風となった。これは人口増加・地方創生を狙う自治体にとってはチャンスであり、行政手腕が問われるところでもある。

この好機を逃さないために、地方企業と自治体がタッグを組み、人材確保へ乗り出すのも良いだろう。特に、コロナショックにより落ち込んだ地域経済を支援する目的として、今年8月に施行された「改正金融機能強化法」においては、公的資金の保証枠が15兆円に増え、申請要件や返済期限がなくなった。つまり、地方の金融機関が公的資金を受け取りやすくなったということだ。

これは、地方企業の資金繰りを支援する体制が整ったことを意味しており、コロナショックで苦境にある地方企業にとっては、雇用確保で立て直すための強力なバックアップとなりそうだ。

地方企業にとっては優秀な人材獲得のチャンス

コロナ禍によって、経済的な影響をうけている若者は少なくない。地元に戻って働くことは、生活費などのコストを抑えられるという点でも魅力がある。これを好機とみて、地方企業こそ意欲的に人材確保に乗り出したい。苦境だからこそ雇用を強化することで、既存事業のアップデート、さらにはニューノーマルに向けて新規事業を立ち上げるなど、業績を立て直すきっかけをつかめるかもしれない。(提供:THE OWNER

文・木村茉衣