新型コロナウィルスの感染拡大により、給付金などがさまざま策定されている。給付金を初めて受給する企業にとって、仕訳や税務処理は気になるだろう。今回は、給付金に関する課税や仕訳、消費税の処理について解説する。給付金を受給する前に概要を把握しておこう。
そもそも給付金は課税対象?
持続化給付金や自治体から支給される休業協力金が所得税の課税対象である点について、一部の人々に不満が生じているようだ。
個人に支給される10万円の給付金は非課税であり、その点と矛盾しているように思えるのだろう。まず、給付金について課税・非課税を区分する基準をみていきたい。
法人・個人事業主を問わず課税
法人においては、原則として補助金や助成金などによる所得が課税対象になる。今回は、特別な非課税措置は講じられていないため、法人に支給される給付金などはすべて課税対象となるだろう。
同様に、個人事業者に支給される給付金なども課税対象である。
ちなみに個人事業主の場合、事業に対して支給されるものは原則課税対象、生活に対して支給されるものは非課税であることが多い。
課税によって支給の効果が薄れる?
持続化給付金は売上減少の補填、雇用調整助成金は人件費の補填として給付されているが、あくまでも課税所得を構成する要素だ。
結果的に赤字であれば課税されないため、支給対象とならなかった事業者に公平性を示せる。
反対に、給付金によって黒字になれば担税力があると判断される。資金繰りや取引先、貸倒債権などの事情があっても、課税されるのはやむをえないだろう。
納税が困難な場合は特例を活用
ただし、黒字になっても種々の事業により納税が困難な場合もある。該当する事業者は、納税猶予の特例を活用するとよい。
2020年2月以降、1か月以上にわたって収入が前年同期比で20%以上減少した場合、法人税や所得税の納税が1年間猶予される。
給付金などの仕訳について
ここからは持続化給付金など資産の取得に紐づかない給付金に関する仕訳について解説する。
仕訳1.給付金を受け取ったとき
50万円の給付金が入金された場合、下記の処理を行う。
(借方)普通預金 500,000円/(貸方)雑収入 500,000円
仕訳2.入金が決算をまたいでしまう場合
支給決定通知書が届いた段階で下記の処理を行う。
(借方)未収入金 500,000円/(貸方)雑収入 500,000円
入金があった時点で次の仕訳処理を行う。
(借方)普通預金 500,000円/(貸方)未収入金 500,000円
勘定項目について
なお、給付金などは雑収入勘定となるが、消費税ではなく所得税や法人税の課税対象となる。
所得が最終的に赤字であれば所得税や法人税はかからないが、黒字の場合には所得税や法人税がかかる。
給付金の税負担を減らす方法
給付金などをもらった際に、それが益金として計上されるケースがある。用途が限定されていなければ問題ないが、資産の取得に紐づいた給付金などの場合、臨時的な収益に対する課税が収益を圧迫する。
高額の資産を取得した際には、減価償却費を通じて長期間にわたり損金計上がなされる。しかし、益金が臨時的に計上されては、給付金を受け取るメリットが薄れて本末転倒である。
圧縮記帳とは?
そこで、法人税法では特例として課税負担を一時的に減らす会計処理を認めている。いわゆる圧縮記帳だ。
圧縮記帳では、給付金による収益を固定資産の取得価額から減額し、圧縮損を計上する。収益金額と圧縮損を相殺して、給付金に対する課税を一時的に回避する。
圧縮記帳の対象
ただし、給付金などのすべてが圧縮記帳の対象になるわけではない。法人税法では、圧縮記帳の対象となる補助金や法人を限定しており、その条件は下記の通りである。
①国または地方公共団体から受け取る補助金、給付金、あるいはこれらに準ずるもので政令に定めるもの(法人税法上は「国庫補助金等」という)の交付を受けること
②国庫補助金等をもって交付された事業年度に固定資産の取得や改良に充てたこと
③国庫補助金等が交付された事業年度の末日までに国に返還不要が確定したこと
④国庫補助金等を受け取った法人が清算中でないこと
⑤法人税計算の基礎となる会計処理上も圧縮記帳を行っていること
⑥法人税の確定申告書に圧縮記帳に関する明細書を添付していること
資産取得を目的とした給付金には、経費も含まれている。しかし、その部分は圧縮記帳の対象にならないので注意してほしい。また、金銭の代わりに国から給付された固定資産も圧縮記帳の対象となる。
最近の給付金は申請が長期にわたり、資産の取得時期から時間が経過してしまいがちだ。受給した給付金について、返還不要が事業年度の末日近くに確定した場合、給付金を使って固定資産を購入した時期が翌事業年度になってしまうケースも少なくない。
この場合、補助金受贈益は仮勘定で負債として処理する。益金に参入せず、固定資産の取得時期にあわせて圧縮記帳を行う。
圧縮記帳のデメリット
圧縮記帳は一時的に課税が回避されるものの、免除されるわけではない。減価償却費の減少を通じて繰り延べられ、翌年以降の納税によって清算する。
また、圧縮記帳にともなう処理には手間がかかる。給付金を受領した年だけでは完結せず、翌事業年度の処理にも注意しなければならない。
さらに、圧縮記帳の方法には間接減額方式があり、経理処理と、法人税申告書の別表に関する処理が必要で非常に複雑だ。
給付金については、給付後の用途に関する報告や審査が必要になる。報告が毎年必要になるケースだと面倒である。処理の煩雑さを踏まえて給付金を検討するとよい。
給付金などを返還したときの税務処理
消費税法上、給付金などの収入は不課税取引に該当する。そのため、給付金の受給に対して消費税が生じることはない。
一方、給付金などの収入によって事業に費やす経費は、控除対象仕入税額として仕入税額控除が可能となる。
課税売上はゼロである一方、事業にかかった経費を控除対象仕入税額に算入でき、課税事業者は消費税相当額の還付を受けられる。結果、想定以上の支援を受けたことになるのだ。
したがって、控除対象仕入税額のうち給付金にかかる部分について、返還しなければならない。
返還の必要がある対象事業者
具体的には、以下の条件にすべて該当する事業者が対象となる。
①消費税の課税事業者
②課税方式により申告している
③給付金などによって支出した経費にかかる消費税額を仕入税額控除として税額控除している
返還が不要な事業者の例にも触れておこう。消費税の免税事業者は還付を受けないため、給付金などを返還する必要はない。
また、簡易課税方式によって消費税を申告する場合もよい例だろう。給付金などによって支出した経費は消費税の計算に関係しないので、給付金などを返還する必要はない。
返還額の算定について
返還額はどのように決まるのだろうか。たとえば、100万円の給付金などで、90万円(税抜)の機械を購入したケースを考えてみよう。
100万円の不課税売上に対して、90万円(税抜)の課税仕入れとなり、この取引だけをみると90万円に対する消費税9万円が還付される。
消費税について全額控除により計算するとしよう。9万円の全額を個別対応方式による「共通対応」に区分した場合や、一括比例配分方式によって計算した場合は、課税売上割合を乗じた金額を返還する。(提供:THE OWNER)
文・内山瑛(公認会計士)