テレワークの普及は日本では遅れていたが、新型コロナウイルスによる外出自粛などを転機として、中小企業でもテレワークを導入するケースが増えている。今回は、テレワーク導入企業の事例も紹介しつつ、導入のメリットやデメリット、テレワークに役立つITツールについて説明する。
中小企業におけるテレワークの現状
はじめに中小企業でテレワークがどの程度普及しているか、その現状を確認しておこう。
テレワークは大企業の3分の1しか導入していない
総務省が公表している「平成30年通信利用動向調査」によると、資本金の規模が大きい企業ほどテレワークの導入が進んでいる状況だ。資本金50億円以上の大手企業のうち53.3%でテレワークの導入が進んでいる一方で、資本金5,000万~1億円の中小企業では15.9%にとどまっている。さらに資本金の規模が低い企業のテレワーク導入割合は、10%台前半とさらに低い水準だ。
つまり、中小企業では大企業の約3分の1、またはそれ未満しかテレワークが普及していないのである。
テレワークの導入が中小企業で進まない理由
なぜ、中小企業ではテレワークの導入が進まないのだろうか?
同調査によると「現在も今後も導入しない」と回答した企業のうち73.1%(2018年度以下同)が、テレワークに適した仕事がないことを理由に挙げている。基本的にテレワークは、ITエンジニアや事務、経理などのデスクワークに適している働き方だ。中小企業の場合、デスクワーク専任の人材の割合が大企業よりも少ないため、テレワークを積極的に導入しないと考えられる。
他にも、「業務の進行が難しい」が22.8%、「情報漏えいが心配」は20.5%という回答もあり、システム面への不安もテレワークの導入が遅れている理由となっている。
企業がテレワークを導入するメリット4つ
中小企業では普及が進まないテレワークだが、導入すると主に以下のような4つのメリットを得ることが期待できる。
1.固定費の削減
テレワーク導入により企業が得られる最大のメリットは、固定費を削減できることである。
例えば、テレワーク主体の勤務形態にすれば、都心の家賃が高い場所に大きなオフィスを構える必要はない。郊外にオフィスを設けたり、オフィスの面積を小さくすることもできるため、毎月の家賃を大幅に削減できるだろう。また、社員の出勤がなくなれば、通勤手当として毎月支払う固定費も削減できる。
オフィスの電気代や消耗品費の削減にも効果的だ。売上げを増やさなくとも、コスト削減によって収益が改善できるため、業績が伸び悩んでいる中小企業にとっては大きなメリットといえる。
2.労働生産性の向上
従業員の労働生産性向上もメリットの一つだ。テレワークを導入することで、従業員はわずらわしい人間関係や満員電車での通勤といったストレスから解放される。その結果モチベーションが向上し、労働生産性が高まる事も期待できる。また、自宅から直接営業先に向かえるようにしたり、ミーティングをオンラインにすれば無駄な移動時間を削減できる。
テレワーク導入によって生まれた余裕時間を、収益を高めるための業務に費やすこともできるため、会社全体での生産性向上も期待できるだろう。
3.優秀な人材の獲得
テレワークのメリットを語る上でもう一つ忘れてはならないのが、「優秀な人材の獲得」である。一般的には、介護や育児で出勤できなかったり、オフィスから遠い場所に住んでいる人材の獲得は困難だ。しかし、テレワークでは働く場所の制限が無くなるため、優秀な人材を獲得できる可能性も高まる。
日本・東京商工会議所が2019年に行った、「中小企業における人手不足の現状等について」の調査結果によると、約66.4%の企業が「従業員不足」と回答している。テレワークの導入は、中小企業の深刻な課題を解決する有効な一手となる可能性があるのだ。
4.災害時に臨機応変に対応可能
地震や水害などの災害が起きた場合、出社できないことで業務の遂行が困難となる事もある。しかし、テレワークを導入している企業であれば、ネット環境や電力供給が遮断されていなければ、災害時でも自宅で業務を続行することも期待できる。2020年の新型コロナウイルスの影響下でも、テレワークを積極的に導入することで事業活動を継続できた企業もある。
災害に臨機応変に対応し、事業の停止による業績悪化のリスクを低減できる点は、テレワークのメリットの一つといえる。
企業がテレワークを導入するデメリット3つ
テレワークの導入によって、メリットのみならずデメリットも生じる可能性がある。テレワークの導入に際しては以下の3つのデメリットも押さえておこう。
1.モチベーションの維持が困難
テレワークは自宅でストレスフリーで働けるメリットがあるが、モチベーションの維持が困難となるリスクもある。自宅で働く場合には、会社と違って同僚や上司の視線がなく、その上漫画やゲームなどさまざまな誘惑があるため、集中して働くためのモチベーションが削がれるケースも少なくないだろう。そのため、従業員全体の仕事の進捗を把握できるように管理したり途中で休憩時間を設けたりするなど、モチベーションを維持できるような工夫が必要だ。
2.コミュニケーションの減少
テレワークでは、従業員それぞれが自宅やカフェなどで働くため、どうしても社員同士のコミュニケーションが減少してしまう。
社員同士のコミュニケーションが減少することで、業務に関する質問や相談を気軽にできなくなり、かえって労働生産性が低下する可能性もある。また、孤独感が増すことで逆にストレスが増えてしまう従業員も出てくるかもしれない。
テレワーク故のこうしたデメリットを低減するには、オンラインミーティングを定期的に開催して、顔を見ながらコミュニケーションを行うなどの工夫が必要である。
3.情報漏えいのリスク
テレワークを導入する上で企業が最も注意すべきデメリットは、「情報漏えいのリスク」だ。
例えば、カフェで仕事を行っていると、画面に表示されている顧客情報などの秘匿情報を、他人に見られるリスクがある。また、重要な企業秘密が入っているパソコンやスマホを外出先で紛失すれば、そこから情報が漏えいする可能性もあるだろう。テレワークを行う場所を限定したり、セキュリティソフトを導入するなどして、少しでも情報漏えいのリスクを軽減することが重要だ。
テレワークを行う有名企業の事例3選
テレワークはご存じのように大企業でも積極的に活用されている。今回はテレワークを行う大手3社の事例を紹介するので、ぜひ事例からイメージを深めてみよう。
日本IBM
コンピュータ関連製品を販売する日本IBMでは、1999年からテレワークに該当する「e-ワーク制度」を導入している。IT企業の強みを活かし、自宅にいながら高度なセキュリティ環境下でのテレワークを実現しているのだ。育児を行う女性社員の提案によって始まった「e-ワーク制度」は、いち早く柔軟な働き方を実現した事例として総務省の「テレワーク先駆者百選」にも選ばれている。
サントリーホールディングス
大手飲料メーカーのサントリーホールディングスは、フレキシブルな働き方を推進する施策の一環として、テレワークを積極的に導入している。同社の特筆すべき点は、厳しい理由を設けずにテレワークを認めていることだ。例えば、育児が目的の場合、子どもの年齢に関係なくテレワークができる。柔軟にテレワークの利用を認めることで、2018年度には約8割の社員がテレワークを活用するに至っている。
日本オラクル
ソフトウェア製品の販売などを手がける日本オラクルでは、2003年から「Work@Home」という制度を導入し、社員のテレワークを推奨してきた。この制度は、上司の認可さえ得られれば、週1回の出社以外はすべて自宅で仕事ができる仕組みとなっている。テレワークを導入した事例として、日本IBMと同様に「テレワーク先駆者百選」に選出されている。
参考:日本オラクル、在宅勤務プログラム「Work@Home」を開始
テレワークに役立つITツール3つ
テレワークを円滑に進めるには、ITツールを積極的に活用することが大切である。ここでは、テレワークに役立つITツールを3つ紹介する。
Zoomミーティング
Zoomミーティングは、オンライン上でビデオ会議ができるツールだ。会議をしながらアンケートや質疑応答を行うチャット機能も付いているため、対面でのミーティングにはない会議の進行もできる。
Zoomミーティングには無料プランと有料プランがあり、無料のプランでも、最大100人が同時参加できる会議を40分まで実施できるため非常に便利だ。本格的に運用する場合は有料プランへの登録が必要だが、2,000円台からとリーズナブルな価格設定である。
参考:Zoomミーティング
Slack
Slackは、オンライン上で使えるチャットツールで、複数人が関わるチーム運用に便利である。重要なメッセージを指定の時間にリマインドする機能があり、Zoomと同様に音声通話やビデオ通話を行う事もできる。
また、GoogleやDropboxなどの各種ツールとの連携機能があることもSlack特有のメリットだろう。チャット上から直接各種ツールに移動できるため、画面の切り替えなどのわずらわしさから解放される。
プロジェクトや顧客別など、目的に応じてチャットグループやスレッドを分けられる点も魅力の一つだ。料金プランは、無料プランやスタンダード(月850円)、プラス(月1,600円)などの有料プランに分けられる。基本的には無料プランで事足りるが、グループ通話などの機能を使いたい場合は、有料プランの利用が必要だ。
参考:Slack
マネーフォワード「クラウド勤怠」
マネーフォワードの「クラウド勤怠」は、インターネット上で勤怠管理を行えるツールだ。従業員の勤怠状況をリアルタイムで把握できるのはもちろん、有給休暇や異動履歴の管理なども行える。
料金プランは従業員数や法人・個人によって異なる。例えば、従業員数が31名未満の法人を対象とした「ビジネスプラン」は、月額5,980円(年額プランの場合は4,980円)から利用可能だ。
テレワークの導入を検討しよう
テレワークは、労働生産性の向上や人材獲得の点で大きなメリットをもたらす。また、新型コロナウイルスのような会社への出社が困難となる災害に対して、柔軟な対応が可能となる。
テレワークの導入を検討している経営者は、自社におけるテレワークのメリットやデメリットを勘案した上で、事例やITツールの情報を参考にして導入を検討してみよう。(提供:THE OWNER)
文・THE OWNER編集部