「廃業」とは、何とも寂しげな言葉だ。新聞やテレビのニュースで何度となく耳にしてきた言葉ではあるが、いざ自分のこととなると冷静ではいられない。しかし、経営者として廃業を決断したならば、感傷に浸っている場合ではない。社員や取引先、顧客のことを考えれば、誰にも迷惑をかけることなく、しっかりと会社を着地させるのが経営者の使命だ。今回は廃業の概要とそのタイミング、手続きにかかる費用などについて解説していこう。

企業の廃業とは?

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(画像=one/stock.adobe.com)

長年経営を続けてきたベテラン経営者であっても、廃業を何度も経験した人はほとんどいないだろう。ほとんどの経営者は、初めて直面する事態に違いない。廃業とは、簡単に言えば「会社をたたむ」ことで、株式会社の場合は会社を解散し、法人格を消滅させることだ。廃業と倒産は混同されやすいが、まったく違うので、そこから解説していこう。

廃業と倒産は違う

「破綻」や「倒産」、「破産」は、混同されやすい言葉だ。廃業との違いを明確にするためには、まずは混同されがちな言葉の意味を先に説明するべきだろう。実際にはさまざまな状況があり、明確に定義することは難しいのだが、一般的に以下の状態を指すことが多い。

  • 「破綻」は、債務が積み重なって収益のバランスが崩れ、経営が立ちいかなくなった(破綻した)状態を指す。
  • 「倒産」は、経営が破綻した結果不渡り手形などを出し、銀行取引停止となって、事業を継続することができなくなった状態をいう。
  • 「破産」とは、倒産して資産を債権者に配分した後、会社が消滅することをいう。

明らかに違うのは、廃業が主に能動的行為なのに対し、破綻や倒産は経営のバランスが崩れることによって引き起こされる、避けようのない状態であることだ。

ここからは廃業の説明に入るが、廃業のプロセスは「解散」と「清算」の2つに分けられる。

解散

解散とは会社の活動をすべて停止させ、法人格を消滅させる行為のことだ。会社法では、以下の7つがその原因として定められている。

  1. 定款で定めた存続期間の満了
  2. 定款で定めた解散事由の発生
  3. 株主総会の決議
  4. 合併により会社が消滅する場合
  5. 破産手続開始の決定
  6. 裁判所による解散命令
  7. 休眠会社のみなし解散の制度

ここでは、能動的な廃業による解散の原因を「3.株主総会の決議」と定義しよう。この場合、株主総会で特別決議もしくは書面決議で解散を承認し、法務局に登記することで法人格は消滅する。ただし、この手続きで解散を行っても、廃業手続きが完了するわけではない。次に清算という手続きが必要になる。

清算

単に会社(法人格)を消滅させただけでは、会社に資産と負債が残ったままになってしまう。清算とは、これを整理する手続きのことだ。清算は、大きく「通常清算」と「特別清算」に分かれる。通常清算は、解散した会社に残っている資産で債務を完済できる場合の清算方法。特別清算とは、会社が債務超過の状態にあり、残っている資産では債務を完済できない場合に取られる清算方法だ。

通常清算では、一般的に会社から指名された清算人が在庫や売掛金の換価回収を行い、債務がある場合はその資金で弁済を行う。これで会社の清算手続は完了だ。

特別清算の場合は、裁判所に特別清算の申し立てを行い、裁判所の監督下で清算を行っていく。特別清算はいわゆる「倒産手続」で、これには前述した破産も含まれる。

破産も、特別清算と同様に裁判所に破産の申し立てを行い、裁判所の監督下で清算を行うが、特別清算と違うのは、裁判所が「破産管財人」を選任し、会社の清算は破産管財人が行う点だ。破産による倒産手続きは株式会社以外の法人でもできるが、特別清算は株式会社しか利用できないことに注意したい。

前向きに廃業させるケースもある

廃業にはどうしてもネガティブなイメージがつきまとうが、前向きな理由で廃業を選択する経営者も多い。

会社や事業には成長サイクルがあり、一般的には「創業期(事業や商品なら導入期)」、「成長期」、「成熟期」、「衰退期」に分類されることが多い。

後述するが、廃業にはそれなりの費用がかかる。会社が衰退期に入って売上や利益が減少すると、その費用を負担できなくなってしまうことも考えられる。また衰退期が急に訪れて、会社が債務超過の状態に陥ってしまったら、会社を清算する選択肢は限られ、廃業ではなく倒産となってしまう。

早期廃業の秘訣

早い時期に事業(会社)の限界を判断し、新しい事業のための会社を興そうと考えているなら、成熟期のうちに廃業を考えるべきだ。成熟期は、成長期の売上や利益の伸びが一段落し、成長期には見えなかった会社の欠点や課題が顕在化する時期だ。それらの解決の目途が立たない場合や、競合企業に勝てる見込みがないと判断した場合、廃業は有力な選択肢になる。

廃業ではないが、海外のアントレプレナー(起業家)の中には、立ち上げた会社がある程度成長すると第三者に譲渡し、それによって得た利益で次の企業を立ち上げる人も少なくない。

このように、廃業はネガティブな理由で行われるものだけではなく、次へのステップとして選択されることもあるのだ。そして何よりも重要なのが、廃業のタイミングだ。

廃業のタイミングをどのように判断し、誰に相談すべきか?

廃業のタイミングを自分で判断するのは、容易ではない。自分の会社には思い入れもあり、日々忙しく経営判断を行う中で、自社を取り巻く状況を俯瞰することは難しいからだ。ましてや衰退期のように会社の趨勢がはっきり見える時期ではなく、まだ成長するようにも見える成熟期に廃業の判断をすることは、ベテランの経営者でも難しいはずだ。

自社の経営状態や、企業として成長サイクルがどの段階にあるかは、中小企業診断士や信用できる経営コンサルタントに相談するべきだ。その上で廃業を決断したら、一般的には税理士と司法書士が手続きを進めることになる。

廃業の手順(手続き)

実際に会社を廃業することになったら、どのように進めていくのだろうか?大まかに「解散」「清算」の順と説明したが、具体的な手順について見ていこう。

廃業日の決定と関係者への連絡

法人の廃業は、3ヵ月程度の余裕をもって行うべきだ(後述するが廃業する会社は2ヵ月以上、官報に解散公告を掲載しなければならない)。廃業予定日を決めたら、まずは社内と顧客、取引先に廃業の説明をし、理解を得るべきだろう。特に顧客は、廃業するあなたの会社に代わる仕事の依頼先を探さなければならない。不要なトラブルを避けるためにも、早めに報告と説明を行うことが肝心だ。

株主総会

廃業日の確定と関係各所への連絡が終わったら、株主総会を開催する。株主から解散を承認してもらうことが主な目的だ。株主総会で特別決議を行い、原則として議決権の3分の2以上の賛成、書面決議の場合は株主全員の賛成が必要だ。

解散が承認されて決定したら、次は清算人を選任することになるが、代表取締役が清算人になるケースがほとんどだ。解散が承認された時点でその会社は営業ができなくなり、清算だけが進んでいく。

株主総会の後は、2週間以内に法務局で解散登記と清算人の登記を行う。また税務署で、法人事業税や法人住民税に関して異動届を提出し、市区町村の役所や都道府県税事務所には解散届を提出する。

自社が各種許認可を受けている場合は、許認可を管轄する官庁に廃業に関わる書類を速やかに提出する必要がある。

解散公告

これらの登記や届出が完了したら、官報に2ヵ月以上にわたって会社が解散する旨を公告しなければならず、この期間が過ぎなければ会社は清算に移ることができない。あなたの会社に債務がある場合、債権者には債務を返済してもらう権利があり、官報での公告はそれを保証するために行われるからだ。

法人の廃業は3ヵ月程度の余裕もって行うべき、とはこのような理由から述べたもので、どのように早く手続きを進めても、「官報掲載の2ヵ月)だけは短縮できない。廃業を計画する際は、忘れずに予定しておこう。

清算

公告期間が2ヵ月以上経過すれば、清算作業を始められる。株主総会で選任された清算人は、売掛金の回収や債権の取り立て、債務があればその弁済など、資産の換価(帳簿にある資産を現金化していく)を行い、会社の資産を整理していかなければならない。債務の返済をすべて終えても資産が残った場合は、株主に分配する。

清算手続きをすべて終えたら、決算書類を作成し、再び株主総会で承認手続きを行う。決算書類の内容が株主総会で承認されたら、法務局で清算結了の登記を行う。これで、会社は完全に廃業したことになる。

廃業後は50日以内に、労働保険を廃止するために確定保険料申告書を労働基準監督署に提出する。別途清算確定申告書を作成し、清算事業年度の確定申告を行えば、書類上の手続きも完了する。

廃業の費用

ここまでは廃業に必要な手続きについて述べてきたが、廃業にはどれくらい費用がかかるのだろうか?手続きに関わる費用としては、以下のものがある。

  • 解散登記 3万円
  • 清算人選任登記 9,000円
  • 清算結了登記 2,000円
  • 官報公告費用 約3万2,000円
  • 厚生年金保険や雇用保険などの廃止手続き 5万円

この他に、司法書士や税理士に支払う報酬も考慮しておく必要がある。また、事務所を借りている場合は原状回復費用、社員がいれば退職手当や慰労金なども考える必要があるだろう。まったく手元に現金がない状態では、廃業はできないのだ。

必要なのは自社の事業に関わる冷静な判断

廃業を成功させるために必要なのは、冷静な状況判断と適切なタイミングを見極めることだ。廃業せざるを得ない状況になってから、バタバタと準備を始めることのないようにしたい。日頃の経営についても言えることだが、後手に回った判断は手間と資金の浪費につながる。常に信頼できる相談相手と話せる状況を作っておき、第三者の意見を積極的に取り入れていこう。(提供:THE OWNER

文・長田小猛(ダリコーポレーション ライター)