インバウンド需要の増加やオリンピックなどの影響で注目されているのがホテルの経営だ。今回の記事では、ホテルの経営が儲かるのかについて、経営の形態や必要な準備などもあわせつつ解説する。

ホテルの経営形態

ホテル経営
(画像=one/stock.adobe.com)

ホテル経営と一口にいっても、経営形態は多岐にわたる。形態によってそれぞれに経営で重視すべきポイントは異なるため、まずは違いを知っておくことが必要だ。具体的なホテルの経営形態は、大きく「所有直営」「運営委託」「リース」「フランチャイズ」の4種類に大別される。

所有直営

所有直営とは、ホテルの運営会社が土地や物件を所有し、実際にホテル経営を行う形態である。つまり、ホテルの物件取得から経営までのすべてを行う方法だ。ホテル経営における最も基本的な運営形態であり帝国ホテルやプリンスホテル、鉄道会社が運営するようなホテル、観光地にある旅館などの大半は、この経営形態を採用している。

経営母体である会社が、すべてのホテルの運営方針をコントロールできる点が最大のメリットだ。また、不動産やノウハウなどの経営資源を保有しているため、金融機関や投資家から企業価値を高く評価されやすい。

運営委託

運営委託とは、建物と土地を保有するオーナー経営者(法人)が、ホテルの運営を他の会社に任せる形態だ。「星野リゾート」「オークラ ホテルズ&リゾーツ」などが、この経営形態に該当する。ホテルの運営をすべて外部に委託するため、所有直営と比べて、ホテル経営の負担を大幅に軽減することが可能だ。

一方、運営会社側は、建物や土地を購入する初期費用をかけずにホテルの運営を行えるメリットを得られる。

リース

リースとは、オーナーが土地と建物を貸し出し、運営会社が借りた建物・土地を使ってホテルを経営する形態である。土地や建物を借りている対価として、運営側はホテル経営で得られた収益の一部をリース料という形でオーナー側に渡すことが一般的だ。運営委託と同様に運営会社側はホテルの経営にのみ特化できることや、オーナー側は収益の獲得に特化できる点がメリットとなる。

ちなみにリースの経営形態は、主にルートインや東横インなど大手ビジネスホテルチェーンが採用している。

フランチャイズ

フランチャイズとは、本部側がブランドやノウハウを加盟店に提供し、その対価として加盟店側が収益の一部をロイヤリティとして支払う経営形態のことだ。スーパーホテルやアパホテルなどホテル業界で強力な知名度やブランドを持つ企業がこの経営形態を採用している。

加盟店側は、本部(アパホテルなど)の持つブランド名やノウハウを使ってホテルを経営する。そのため、自身で一からホテルを経営する場合と比べて、集客や収益化をスムーズに進めることが可能だ。

一方で本部側から見ると加盟店にホテル経営を任せるだけで安定した収益を得られる点が大きなメリットとなる。

ホテルの経営を始めるうえで必要な準備

ホテルの経営を始めるにあたっては、いくつか事前に準備すべき事柄がある。この章では、ホテル経営を始めるうえで必要な5つの準備内容を解説していく。

営業許可の取得

ホテル経営を始めるには、必ず旅館業の営業許可を取得しなくてはならない。また、レストランなどで料理を提供する場合は飲食店業営業許可、宿泊客以外に温泉などを利用させる場合には公衆浴場の営業許可がそれぞれに必要となる。各許可の申請先や取得方法・条件、取得までの所要時間などは異なるため、一つひとつ入念にスケジュールを立てたうえで取得することが重要だ。

資金調達

どのくらいの資金が必要となるかは、開業するホテルの経営形態や事業規模などによって異なる。例えば、大手ホテルのチェーンに加盟するには、少なくとも数億~10億円が必要だ。

一方、地方で小さなホテルを開業する場合は、初期費用を安く抑えられる傾向がある。とはいえ、「土地や物件の取得」「機器の購入」などを合計すると、少なくとも約1,500万~3,000万円の初期費用は必要だ。必要な資金の額を明確にしたうえで、資金調達の方法を考えるのが正しいプロセスである。

物件の購入や建設

運営委託やリースでない限り、ホテル経営を始めるには物件を購入または建設しなくてはならない。まともに物件を購入・建設するとなると、少なくとも1,000万円以上はかかってしまう。少しでもコストを抑えたいならば、中古の居抜き物件を購入したり、土地の価格が安い立地を選んだりする工夫が必要である。

ただし、あまりにもコストを意識しすぎると立地が悪い場所や内装が汚い物件を購入することとなり、収益を十分に得られなくなる可能性も否めない。そのため、コストだけでなくその後の集客も考慮したうえで物件を選ぶことが、ホテル経営を成功させるうえでは重要である。

事業計画の策定

ホテルの経営に限らないが、新しいビジネスを始めるに際しては、事業計画の策定が不可欠である。あらかじめ事業計画を策定すれば「いつまでに」「何を」「どのように行うべきか」を明確にすることが可能だ。ホテルの事業計画を策定するにあたっては、最低でも下記の項目は盛り込むと良いだろう。

  • ターゲットとなる顧客層
  • 事業を運営するエリア
  • 具体的なサービス内容
  • 市場の環境(近隣の競合企業)
  • 資金計画
  • 仕入れや人員、採用などに関する計画

実際のホテル経営は、この計画に基づいて行うことになる。したがって具体的な行動もしっかり盛り込むことが求められる。

従業員の採用や集客

ホテル経営していくには従業員を採用する必要がある。ホテルでは接客の質も重視される傾向にあるため、早い段階から採用しておき、あらかじめ接客マナーを教育しておくのが良いだろう。また集客も採用と同じくらい欠かせない。自社ホームページやWeb広告をフルに活用するのはもちろん、必要に応じて大手の宿泊予約サイトや地域情報誌などの活用も検討しておこう。

ホテル経営は今後儲かる?

新しくホテル経営を始めるかどうか検討するうえで、重要となるのはその収益性だ。結論からいうと、ホテル経営は今後儲かる可能性が高いと判断できる。ホテル経営が儲かると考えられる理由としては、以下の3つが挙げられる。

インバウンド需要の増加

日本政府の積極的なインバウンド施策により外国人観光客は大幅に増加している。日本政府観光局(JNTO)によると2003年の訪日外客数は約521万人だったが、2019年度は約3,188万人と大幅な増加となった。2020年は新型コロナウイルスの影響で落ち込んでいるものの終息に向かってくれば、外国人観光客は増加すると考えられる。それに伴いホテルの宿泊需要も増加するだろう。

オリンピックや万博、統合型リゾートなどによる特需

2020年代はオリンピックや万博、統合型リゾートの解禁など外国人観光客の誘致につながるイベントが次々と開催される予定だ。これらのイベントによりホテル業界も外国人観光客の宿泊による特需を実感できるだろう。

遊休地の活用による業界の活性化

インバウンド需要の増加に伴い遊休地(使っていない土地や物件)を積極的に活用しホテル経営で収益を得ようとする動きが活発化している。このような動きが活発化することで、ホテル・観光市場が拡大し、結果的にホテルを運営する企業の業績も良くなると見込まれる。

ホテル経営のリスク(デメリット)

今後儲かる可能性が高いとはいえ、ホテル経営にはリスクやデメリットも存在する。ホテル経営を始めるにあたっては、以下の2つのリスクやデメリットに注意が必要だ。

コストがかかる

ホテル経営を始めるうえで、最も大きなデメリットとなるのが運営コストの高さだ。前述した通り、ホテルの経営を始めるには少なくとも数千万円もの初期費用がかかる。また、経営をスタートしたあとも、食材の調達費や人件費、集客などに多大なコストがかかってしまう。一定のランニングコストがかかるため、十分な売り上げを得られなかった場合は、莫大な赤字となるリスクがある。

景気やインバウンド需要に左右されやすい

景気やインバウンド需要に左右されやすい点は、ホテル経営に特有のリスクである。景気が良かったりインバウンド需要があったりすれば、多くの宿泊客を呼び寄せることができるため、大きな収益を得られるだろう。

しかし、反対に不景気やインバウンド需要が減退した場合には、急激に宿泊客が減少し、たちまち業績は悪化してしまうだろう。

ホテル経営の成功に近づくためのヒント

最後に、ホテル経営が成功に近づくためのヒントを2つ解説する。ホテル経営に限った話ではないため、経営やマーケティングに関心がある人も参考にしていただきたい。

ターゲットやコンセプトを明確にする

ホテル経営を成功させるために不可欠となるのが「ターゲットやコンセプトの明確化」だ。一口にホテルといっても、利用客には単身赴任のサラリーマンや若いカップル、老後を楽しむ夫婦などさまざまである。つまり、ターゲットによって宿泊価格やコンセプト(ホテルのテーマ)、料理のメニューなどに対するニーズはまったく異なるのだ。

そのため、ターゲットを明確にしておかないと、顧客のニーズとホテルの提供する価値が一致せず、十分な収益を得られなくなる可能性がある。そのような事態を回避するためにも、まずはターゲットを明確にし、そのターゲットのニーズに合うようなホテルのコンセプトを明確にすることが重要だ。

集客施策を徹底的に行う

どれほど顧客のニーズに沿った価値を提供していても、ターゲットに知られていないと当然宿泊はしてもらえない。したがって、ホテルを開業したら集客施策は徹底的に行うことが必要だ。前述したように、自社サイトや外部のメディアサイトを最大限活用し、1人でも多くのターゲット客に自社ホテルを認知してもらうことが重要となる。

また、利用客に自社のホテルの良さを広げてもらうための施策やSNSを活用した施策も同時に検討すると、なお良いだろう。いずれにせよできる限りの集客施策を徹底的に行い自社ホテルの認知度を高めることが、ホテル経営を軌道に乗せるうえでは必要なわけだ。

リスクを踏まえ、入念な計画と準備をしてホテル経営をスタート

インバウンド需要の増加でホテルの経営は今後、大きく盛り上がりを見せる市場の一つと考えられる。しかし、一方で需要に大きく影響されやすい点や運用コストが高いことなど、それ相応のリスクやデメリットがあることも事実だ。入念に計画や準備を行ったうえでホテルの経営を始めるようにすべきだろう。(提供:THE OWNER

文・鈴木 裕太(中小企業診断士)