資金の側面から見た事業とは、出資や借入で集めた資金で投資をし、費用を払い、売上を増やして回収するサイクルをまわしていくことである。事業を維持・拡大していくにはいつでも資金が必要になるが、資金ショートは端的に言えばこの資金が不足することを指す。ここでは、資金ショートの理由や、資金ショートしないために今すぐできることを紹介する。

資金繰りがショートするとどうなる?

資金繰り
(画像=beeboys/stock.adobe.com)

経営者にとって資金不足は、会社存続の危機である。資金ショートするとどうなるか、その理由についても見ていこう。

資金ショートとは?

資金ショートとは、事業に必要な資金が不足することである。手許にある現金よりも社外に払う必要のある金額が大きく、支払いができないということを意味する。英語でshortやshortfallということから、それがそのまま日本語になったものであると考えられる。

資金がショートすると、場合によっては事業を継続できなくなってしまうため、経営者や財務担当者としては絶対に避けなければならない状態である。資金がショートしそうな状態を早期に把握して、事前に手を打つことが非常に重要だ。

資金繰りがショートする理由

資金ショートの要素を細分化すると、保有している資金、入ってくる資金、出ていく資金、に切り分けることができる。つまり、資金がショートする理由としては、手許資金が少ない、入金が少ない、出金が多い、ということになる。それぞれの発生原因を時間軸で考えていくことで対応が見えてくる。

手許資金が少なければ、今後の支払いに充てられる資金も当然少ない。資金の安全性の観点から、費用の何ヵ月分を現金として持つべきか、赤字の場合は赤字が何ヵ月分続いても問題ないか、などを把握しておく必要がある。

入金が少なければ、手許資金が増えない。入金はおもに売上に関する請求に基づくため、売上高の状況や回収条件と関係が深いものとなる。出金が多いということは、費用が嵩んでいる場合や、支払条件が良くない場合などが考えられる。

<緊急レベル高>資金繰りがショートしそう!今すぐできること

すぐにでもなんとかしたいという場合、できることをいくつか紹介する。

正確に現状を把握する

手許資金と、予定している入金および出金を正しく確認することになる。平時では月単位などの把握でも問題ないが、緊急性が高い場合は日単位での資金繰りを見る必要がある。たとえば、ある月の25日に支払いがあり資金がショートしそうだが、30日には売上代金が入金されてくるため、この5日間をどう資金手当てするか、という具体的な話が見えてくる。

また、ここでショートのおそれがある場合は、保有している資産のうち、すぐに資金化できるものは何か、資金化した場合にいくらになるのか、などを把握しておくことが重要だ。上場株式や投資信託など流動性が高く時価の見えるものは分かりやすいが、非上場企業の株式や土地などの固定資産は、流動性に乏しく、時価も常に把握できるわけではないため、すぐに資金化することが困難と考えられる。

手形割引やファクタリング

資金がショートしないためのキャッシュフローの鉄則は、入金は早く、出金は遅く、である。売上債権の入金期日を早めることができればよいが、取引条件を契約で定めていたり、取引先特有のルールがあったりして、変更は難しいことが多い。次善策としては、多少コストがかかるが、保有する売上債権を期日前に手放して資金化する方が考えられる。

もし、売上代金を受取手形で回収している場合には、手形割引という方法がある。受取手形は、支払期日が予め定められており、手形の受け取りから支払期日までに3ヵ月や6ヵ月など時間を要する場合が多い。手形割引とは、支払期日を待たずに手形を資金化する方法である。金融機関のほか、ノンバンクの事業者でも対応可能であり、支払期日までの金利相当分や手数料が発生する。

受取手形ではなく売掛金を資金化する方法が、ファクタリングである。これは、ファクタリング事業者が売掛金を買い取って代金の回収リスクを負い、回収業務を行うものである。売掛金などに対する与信審査があるため、資金化に時間を要する場合もある。

支払いを遅らせる(税金や社会保険、取引先への支払いなど)

出金は遅くという意味では、支払いを遅らせることができる経費を精査する。支払い先は主に、国や地方自治体への税金、年金事務所や健康保険組合や労働局への社会保険、取引先への仕入や経費の代金、銀行への利息や元本が考えられる。

大別すると、公的なものと、それ以外がある。税金や社会保険料等の公的なものについては、事業環境の急激な変化や事業者の状況によっては、支払いが猶予される場合がある。たとえば、2019年から2020年にかけて事業環境が大きく変化したCOVID-19流行の際には、一定の要件のもと、国税庁や税務署で手続きをすれば納税が猶予されることになった。

財務省・国税庁リーフレット
社会保険料も同様の措置をとっている。
厚生労働省HP

一方、公的でないものは、支払猶予は取引先の任意によるものであり、待っていても期待はできないため、こちらから働きかける必要がある。借入金の元本や利息の支払いが厳しい場合は、毎月の支払を利息だけにする等、金融機関に相談するとよい。

取引先の場合は、支払猶予の相談は実質的にはかなり難しい場合もあるだろう。メーカーとサプライヤーのように関係性が強く、苦しい時に助け合えるような間柄であれば相談の余地はあるかもしれないが、そうではない取引先に支払いの猶予を相談すると、場合によっては以後の取引条件が厳しくなるなど取引に影響が出る可能性がある。

よって、事務処理の誤りや漏れ、認識の相違などという表面的な理由をつけて支払いを遅らせるような場合も多いのではないかと考えられる。もちろん、資金がショートして事業が続けられないおそれがある場合は相談をすることも選択肢となるだろう。

いずれにしても、支払の「猶予」であって「免除」ではないため、どのように事業を立て直して、支払いの原資を確保し、いつ支払いをするのか、という計画や見通しとセットになる。

融資などによる資金調達

資金ショートのおそれがある場合は、金融機関に相談することも大変重要だ。苦しい会社に融資する金融機関があるのかという見方もあるが、金融の意義の一つは出金と入金のタイミングのギャップを埋め、事業の継続と経済の活性化を進めることである。

苦しくなる前に相談できればもちろん理想であるが、資金ショート懸念の局面は、当面の運転資金という資金使途は分かりやすい。苦しい局面にあるが、事業を継続すれば社会や顧客に価値が提供でき、売上高の増加やコストカットを通じて資金を確保して返済できる、という合理的な説明をすることが重要である。

なお、資金が厳しい状況においてどの程度支援してくれるかを見ると、その金融機関や担当者の姿勢や方針がわかることも多い。事業を立て直したあと、苦しい時の対応の悪さを理由にメインバンクを変更した事例も耳にする。

会社の資産や社長の個人資産の売却

入金を増やすという意味では、「正確に現状を把握する」で述べたように、保有している資産を資金化することも選択肢となる。たとえば、滞留している在庫や、有価証券、固定資産が売却できないかを考える。

具体的には、在庫を買い取ってくれる取引先を探したり、市場のある株式や投資信託を売却したりすることを検討する。生産設備や不動産を保有している場合は、セールアンドリースバックという手法もある。使用している資産を売却し、リース料を支払ってそのまま使用し続けるというスキームである。

また、資金を社長から会社に貸し付けるという方法も考えられる。社長の手許資金や、個人資産を売却して得た資金を会社に投じることになる。会社から見れば借入金である。事業継続への社長のコミットメントを内外に示したり、資金調達に際して外部者との交渉やコミュニケーションが不要であったりする点はメリットがあるが、社長が過度のリスクを負うことにもなりかねないので十分注意が必要である。

<緊急レベル低>資金繰りに不安がある場合にする対応

緊急レベルは低いが、資金繰りに不安がある場合にできることは、以下の2点である。

コスト削減、固定費・変動費を見直し

前もって手を打っておくことができるならば、コストの見直しは必須と言える。毎月課金がされたまま使用していないサービスや、不要不急の経費については、使用をやめることで費用が削減できる。極端な例だが、シャープ株式会社(証券コード6753)が再建の際に、300万円以上の決裁は社長によるものとしたように、費用の発生を厳密に管理することも重要である。

費用の中では役員報酬も見直しの対象である。資金がショートしそうということは経営成績が芳しくない場合も多いため、その責任をとって役員報酬を削減するケースがある。期中に役員報酬を変更すると会社の税金計算上不利になることがあるが、適切に検討をすれば不利にならないこともあるので、顧問税理士等に相談することをお勧めする。

資金計画や赤字事業を見直す

資金繰りに懸念がある場合は、定期的に資金計画を見直すことが必要である。緊急度が上がらないように、コスト削減や後述する手を打ち、危険水準にならないように注視することが必要だ。

また、複数の事業を営んでいる場合で、赤字の事業がある場合は、その継続についても早めに検討しておく必要がある。資金繰りが厳しい状況下において、赤字を垂れ流している状態を続けるのは、その後の資金ショートにつながりかねない。

資金繰りがショートしないために普段からできること

資金繰りがショートするという事態に陥らないようにするには、普段から資金の出入りを管理する必要がある。

キャッシュフローの正確な把握

普段から入金や出金の予定を把握しておくことが重要である。手許資金と、売上の入金予定や費用の支払予定から、資金繰りの見通しを見ておくとよい。このとき、請求漏れなどがあると予定がずれるため注意が必要だ。

また、債権管理を正しく行い、未入金がないかを期日の都度確認することが重要である。さらに、未入金がある場合の督促タイミングや担当者など、対応方針をあらかじめ決めておくとよい。

不要な在庫は持たない

在庫は、仕入れる際に支払いが必要だが、資金回収は売れるまでできないことが一般的である。在庫は少なすぎると機会損失につながるが、過大になると資金繰りは悪化する。

普段からの資金管理と緊急時の対応を想定することで資金ショートを回避

事業の肝である資金がショートしないための方法をみてきた。資金ショートを回避するような動きを普段からしておくことが大切であるが、天災など予期せぬ事態によって急に資金ショートの危機に直面することもある。その際は、債権の資金化や公的な支援、取引の条件変更など、緊急性が高い場合にできることを参考にしていただければ幸いである。(提供:THE OWNER

文・新井良平(バックオフィスLABO代表)