(本記事は、三科公孝氏の著書『儲かるSDGs ーー危機を乗り越えるための経営戦略』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)

SDGs
(画像=PIXTA)

ブルーオーシャンのニッチトップを狙え!

「SDGs(エスディージーズ)」とは、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称であり、2015年9月に国連で開かれたサミットで世界のリーダーによって決められた、国際社会共通の目標です。

このサミットでは、2015年から2030年までの長期的な開発指針として、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択されました。この文書の中核を成す「持続可能な開発目標」をSDGsと呼んでいます。

SDGsの市場規模は確実に拡大していきます。

そこには、確実にビジネスチャンスがありますが、市場規模が拡大するとわかっていれば、SDGsに興味がないライバルも次々に参入してくる可能性があります。

繰り返しになりますが、SDGs経営はニッチ戦略に向いているので、中小企業や小さな組織・自治体の場合は、ただ漫然と「貢献しよう」とは思わず、市場規模が拡大する中でも、自分たちがイキイキと泳げるブルーオーシャンを見つけることが大切です。

SDGsは「戦わずして勝つ」の最適解(業種×17の目標)

そこで試していただきたいのが、下記図表14のマトリックスを埋めることです。

自社の業種を横軸に置き、縦軸にSDGsの目標を並べて、できそうなもの、向いていそうなものを考えて、自社が目指すべき貢献を探します。

戦わずして勝つブルーオーシャン発見マトリックス
(図表14 戦わずして勝つブルーオーシャン発見マトリックス)

加えて、ライバル企業の分析もしてみましょう。自社にできて、ライバル企業にできない場所があれば、そこがSDGs経営をするべき「戦わずして勝てる土俵」になります。

ここで重要になるのが、このマトリックスも常にアップデートしていく意識です。

仮にブルーオーシャンを見つけて、自社が成功を収めたなら、真似をする同業他社が現れて、その土俵がレッドオーシャンになる可能性が高いと言えます。その兆候を感じたら、新たなブルーオーシャンを探してください。

そこでポイントになるのは「細分化」です。

業種の中身を細分化して考える。あるいは、縦軸を細分化して、169のターゲット(SDGsの17の目標の内容を、より細分化したもの)から考えて、まだブルーオーシャンである場所を探すのです。

それでも、再びレッドオーシャン化することもあるでしょう。

そんなときも、やるべきことは1つ。もう一度細分化して、マトリックスを埋める。

仮に自社がハウスメーカーとして、木造住宅をつくるにしても、北欧風、昔ながらの和風日本の木など木材にこだわる―等々、細分化した横軸の中身も、細かく分類されたフィールドがあります。そこでブルーオーシャンを探しましょう。

私がこのようなお話をすると、「逃げ」の戦略と思われることもあるのですが、そうではありません。

自社の土俵のレッドオーシャン化は、「市場規模の拡大」とセットです。細分化するのは拡大した市場においてのこと。成長期から成熟期へと進んだ結果としての新たな細分化は、事業規模の縮小を意味するとは限りません。

細分化市場は、往々にしてその後の数年は市場規模を拡大しながら成長していきます。ライフサイクル理論に置き換えれば、成熟期となり市場の成長が頭打ちとなった市場は、細分化することでそれぞれが新たな成長期を迎えると言い換えられるからです。

また、仮に縮小を伴うとしても、レッドオーシャンに居続けてコモディティ化に巻き込まれるほうが、経営上のダメージは大きくなります。

質の高い利益を上げ続けていても、踊り場に立つ時期はどうしても訪れるものです。その時期を切り抜け、再び上昇トレンドに乗るためにこそ、新たな細分化とブルーオーシャン探しを行うべきだと考えます。

加えて言うなら、細分化と新しい土俵への進出は、「戦わない経営」の継続を意味します。

ライバルと利益を食い合う機会を最大限減らし、みんなで儲け続けられる道を探すこと自体がSDGs的です。縦軸や横軸の細分化を進めることで、初めて気がつくニーズ、見逃していた問題が見つかる可能性が高いのもポイントです。

そんなふうに新しい場所を見つけて、そこを照らすビジネスをすることは、最澄の「一隅を照らす、これすなわち国宝なり」という言葉を想起させる行いです。そんなビジネスの継続が、国宝となるのです。

このような取り組みをマクロに見れば「世の中の不足をみんなで手分けして埋め合わせ合っている」とも言い換えられます。

これまで競合企業は、市場のパイを奪い合う相手と捉えられてきましたが、ブルーオーシャン化した世界では、世の中の不足を手分けして埋め合う相手と捉えられるようになっていくような気がします。このことを入り口として、「競争の時代」から「共創の時代」へと、時代は移っていくのかもしれません。

自社の「強み」をマトリックスから探す

このマトリックスを埋めるとき、自社の「強み」から考えるのが基本的なやり方になります。

しかし、ビジネスシーンでよく用いられる言葉ですが、「自社や自分の強み」を理解している企業や人はそう多くありません。

また、自信はあるけど結果が出ておらず、「○○だと思うけど、そうは言っても赤字だからなあ」などと考える方もいます。ほかにも、それなりに思うところはあるけれど、「強みだなんて、大層なものは……」などと謙遜する方も珍しくありません。

このようなふわふわした認識になりがちなのは、「強み」が儲けや勝ち負けのような発想につながるからです。だから、自信があっても嫌味に聞こえないかと思い、あまり強く言えない。そして、目に見える結果が出ていないと、「勝っていないから強みとは言えない」といった考えに囚われてしまう……。

そこでおすすめしたいのが、儲けではなく、貢献目線で強みを探すことです。

貢献から考えると、他者とのつながりが重視され、敵を生みにくいアイデアやアクションが生まれやすくなります。人に嫉妬されたり、恨みに思われたりする心配がなくなり、伸び伸びと可能性を検討できます。また、みなさんの中に隠されていた本当の強みが、見る角度を変えることで発見される可能性もあります。

たとえば、男性と女性が仕事や待遇の区別なく、イキイキと働いているものの、儲けに目を向けるとほどほどである企業Aがあったとしましょう。そんなA社の中にいると、「ウチはいい空気で、みんな仲良くやっているけど、強みと言えるほどの武器はないなあ」と思ってしまうかもしれません。

一方、近隣の同業で自社よりも利益を上げているB社は、数字は出すもののノルマが厳しく、人の入れ替わりも激しい。残って働き続け、数字を出している従業員も、日々ストレスに晒されて社内の空気が非常に悪い企業だとします。

この例で言えば、ジェンダー問題や働きがいについての貢献において、A社は立派な強みを持っています。その貢献を広くアピールすることができれば、優秀な人材がA社に集まって、儲けでもB社に勝てるかもしれません。

総花的取り組みは「感動」と「成果」を生まない

書籍では、SDGs経営に取り組む場合、目指す目標は1つでいいと述べています。

この理由も、ニッチ戦略から説明できます。

「精力的に取り組んでいる姿を見せたい」という実施する側の思いと、着手されない目標を「切り捨てているのでは?」と思う外野の目線の両面から、すべてに取り組もうとする人は数多くいます。要するに、「全部やろうとする」ことが、すでにレッドオーシャンなのです。

そして、全部やろうとすると、結果的に似た総合戦略になり、目立つこともできません。

また、そもそもある程度の規模以上の企業・自治体でなければ、全目標にしっかりと取り組み、成果を出すのが難しく、ポーズだけに終わってしまうケースが出ます。

ほかにも、すべてに手を出すと、外部から「特徴がない」と見られる可能性があります。

SDGsの取り組みは「知られてナンボ」。発信も大切ですが、知ってもらうには口コミの連鎖も重要です。そして、口コミを広げるには、中身の質に加えて、尖った特徴や、ひと言で紹介できる特徴も大切になります。

メリハリがあるから感動が生まれ、その感動がシェアされやすくなる。

それに、実務的な面で見ても、よほど大きな組織でなければ、結果を出すためにもリソースは一部に集中させるほうがベターです。

必然性があれば、複数の目標に取り組んでもいい

ただし、基本的にはそうするのがベターとは思うものの、絶対に1つの目標だけに取り組むべきだ―と言いたいわけではありません。詳しくは書籍の序章をご参照いただきたいのですが、私が関わっている事例でも、複数の目標に取り組んでいるクライアントはいます。

また、17の目標すべてに取り組み、しっかりと結果を出せる企業や自治体もあります。世界的大企業や、東京・大阪レベルの大都市なら、そうするべきである、とも言えるでしょう。

ですから、しっかりとマトリックスを分析してブルーオーシャンの土俵を探した上で、複数の目標に取り組むべきだと思えるなら、それは自分たちの持つ強みが、それだけ多いことを意味します。そのため、必然性のある企業や自治体の場合、複数の目標に同時に取り組むこと自体に問題があるとは思いません。

しかし、その場合に少し気をつけていただきたいのが、自分たちの取り組みの発信方法です。

たとえば、すべての目標に取り組む自治体でままあるのが、17の目標に対する優先順位をつけずに、1つの階層でSDGsの目標に国連が振った番号順で紹介し、「よりよい未来をつくるために、SDGsの全目標に取り組んでいます」といったアピールをするパターンです。

誰も傷つけないので批判は回避できますが、SDGsに詳しい人には、特徴も結果も出ない方法論だと見なされてしまいます。

そうではなく、SDGsをよく知った上で、複数分野に着手していることを伝えるには、情報に階層や重みをつけて、次のように提示することが大切です。

① 第一階層
当市(町/村)全体としては、17の目標のうち、○番と△番に貢献点があります。
それは、わが市(町/村)の歴史として□□があるからです。
② 第二階層
上記以外にも、社会的に解決されるべきであるという問題意識から、差別化を実現できるほどではありませんが、○番の目標にも取り組んでいます。
③ 第三階層
今後は○番と△番に力を入れることで、その連鎖が□番と◎番にも波及するようなアクションを行い、将来的には○番と◎番を活かしたオリジナルのまちづくりを進め、伝統産業の再生から雇用増加、人口増加を目指します。

まず、①のように、複数の取り組みの中から、特に自分たちの強みと関わりの深いもの、力を入れたいものを提示します。また自治体の場合、強みなどと関係なく、力を入れるべき貧困などの社会問題もあるため、そのような目標がある場合は②のように補記します。

そして、③のように今後のビジョン、起こしたい正の連鎖などをしっかりと説明できれば、「単にアレコレと手を出しているわけではない」と納得を得やすくなります。

目標を絞ることで、それを切り捨てていると受け取られてしまう懸念がある場合は、SDGsの理念、仕組みを説明して、そうではないことを周知するテキストも用意できるといいかもしれません。また、その場合は、近隣でその問題に取り組む民間企業やNPO法人とパートナーシップを結び、まち全体の取り組みで全目標をカバーする姿勢を提示するのが理想です。

儲かるSDGs
三科公孝
株式会社ノウハウバンク 代表取締役。
1969年山梨県生まれ。立命館大学文学部哲学科を卒業後、株式会社船井総合研究所に入社。多数の企業のコンサルティングを行い、収益改善や組織改革の経験を積むとともに着実に成果を上げる。
2000年に同社退職後に独立し、株式会社ノウハウバンクを設立。中小企業の集客・売上アップ・販路開拓などの企業活性化プロジェクトとともに、地域資源活用によるヒット商品開発や観光集客・PRなどの地方創生プロジェクトも手掛けるほか、研修・講演活動なども行う。
企業・官公庁・公的団体など組織形態を問わず、実践的で確実に売上・集客につなげるコンサルティング手法に定評があり、特に近年は、東京ビッグサイトや幕張メッセなどでの大規模イベントを含め、全国でSDGsに関する講演・セミナーを行っている。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます
ZUU online library
(※画像をクリックするとZUU online libraryに飛びます)