(本記事は、三科公孝氏の著書『儲かるSDGs ーー危機を乗り越えるための経営戦略』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)
実践SDGs いまの取り組みを分析しよう(フォアキャスティング分析)
「SDGs(エスディージーズ)」とは、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称であり、2015年9月に国連で開かれたサミットで世界のリーダーによって決められた、国際社会共通の目標です。
このサミットでは、2015年から2030年までの長期的な開発指針として、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択されました。この文書の中核を成す「持続可能な開発目標」をSDGsと呼んでいます。
ここまでは考え方をメインにお伝えしてきましたが、ここからはSDGsの取り組みを 具体的に見つけていくための分析手法をお伝えします。
大きな効果を生み出すSDGs的取り組みは、「バックキャスティング(逆算)分析」から生まれると私は考えています。
その紹介は、内容的にも分量的にも多岐にわたるので、書籍をご参照いただきたいのですが、本項では、その説明のその説明の前段として、現在から未来を予想する「フォアキャスティング分析」について説明します。
SDGsの重要ワード「連鎖」
SDGsにおいて、「連鎖」は非常に重要だと第1回で述べました。フォアキャスティング分析や、バックキャスティング分析も、連鎖の経路をたどるような分析手法です。
また連鎖は、SDGsを抜きにしても、ビジネスや地方創生の施策を魅力的なものとするためにも、必要不可欠な要素です。
ルネサンス期のイタリアで、絵画以外にも人体の解剖スケッチを行うなど、さまざまな分野を切り開き、知識を広げたレオナルド・ダ・ヴィンチの天才性も、連鎖あってのものと私は考えています。彼が発見した明暗法も、絵画を離れて、光の研究をしていた時期に見出したものだと言われます。
世界で最も有名な絵画の1つであり、彼が亡くなるまで傍らに置き手を加え続けた『モナ・リザ』も、そのような数多くの知見の連鎖の集大成であったと感じます。
さまざまな分野に手を出し、研究を重ねたダ・ヴィンチは多作な作家ではありませんが、生涯をかけて絵だけを描き続けるよりも、結果的に偉大な作品を残しているように思うのです。
歴史に残る万能の天才のエピソードは、少し唐突に感じられるかもしれません。しかし、私は読者のみなさんにも、連鎖を意識してどんどん自分の世界を広げていただきたいと考えています。
当たり前の話かもしれませんが、ビジネスや地方創生において、ダ・ヴィンチのような天才である必要はありません。それでも、連鎖を意識することで、爆発的に世界が広がることがあります。
イノベーションは、純粋なゼロイチの発明である必要はなく、携帯電話とパソコンを組み合わせたスマートフォンのように、「既存のアイデアの掛け合わせ」からも生まれるとよく言われます。
同じように、自分のこれまでの武器と、別の何かを連鎖させる。
そして、もしかしたら、その「何か」は、SDGsであるのかもしれません。
連鎖で重要なポイントは、「自分の持ち物同士でなくても起こせる」という点です。
SDGsの17の目標を、自分一人でカバーするのではなく、1つの目標に注力する自治体や民間セクターの力を束ねて達成を目指してもいいように、他者と連鎖を生むこともできる。
書籍の第3章で紹介している鉄の展示館や足利市立美術館がたくさんの人を集めることができたのも、まちの持つ歴史や文化に、『刀剣乱舞』や『新世紀エヴァンゲリオン』というコンテンツと、それを愛するファンの方々という掛け合わせがあってのものです。
ここで大切なのは、外部との幸福な連鎖を生むには、適切なタイミングがあるということです。鉄の展示館のみなさんや、展示館のある長野県坂城町の山村弘町長が、どれだけ先進的な考えを持っていたとしても、『刀剣乱舞』がリリースされる2015年より前だったら、先述の成功例は生まれなかったかもしれません。
このような連鎖はイノベーティブな成功を生みますが、幸福な連鎖を起こせる相手と適切なタイミングで出会うには、常にダ・ヴィンチのように自分が興味を感じる分野に好奇心を向けていることが大切です。それがさまざまなヒト・モノとの出会いにつながり、コラボレーションのチャンスを生みます。
そして、SDGsに話を戻してみると、このような「正の連鎖」を起こし続けなければ、もはや地球の危機は待ったなしと言えます。だからこそ国連も、連鎖を非常に重要視しています。
SDGsの17の目標のゴールに到達するための連鎖は、ダ・ヴィンチのように、一個人、一組織の中でも起こせますが、それには時間がかかります。他分野の研究に没頭して、絵筆を動かす手を止める猶予が、地球や社会に残されているとは限りません。
2030年というゴールに向けて、より短い時間で連鎖を起こし、地球の持続可能性にイノベーションを起こすには、外部の人・企業・組織などとの連鎖を生むしかないと私は考えています。
みなさんの事業にイノベーションを起こすためにも、地球や人類を守るためにも、正の連鎖を起こそうではありませんか。
負の連鎖が問題を深刻化させる
では、実際にフォアキャスティング分析の例を、SDGsの目標とセットで示していきます。
ここで取り上げるのは、アフリカのチャド湖です〈図表15〉。
ニジェール・チャド・ナイジェリア・カメルーンにまたがっていた広大な湖は、いまや見る影もありません。国連大学ウェブマガジンの記事によると、1963年から2001年までの間にその面積の95%が失われたそうです。
分析と言うよりも、すでに起きている悲劇をなぞる試みかもしれませんが、連鎖の恐ろしさがよくおわかりいただけると思います。連鎖の力はマイナス方向にも容易に働き、ときには地球や社会を簡単に壊してしまう。正の連鎖は、負の連鎖を防ぐ行動とも言い換えられます。
連鎖のイメージを図表16に示しますが、本書冒頭にカラーで掲載した「17の目標」を参照していただくと、よりわかりやすいかもしれません。
湖の面積が減っていくのは、「15. 陸の豊かさも守ろう(以下、その他の目標も含め、1度目以外は番号のみで記します)」に反するものです。
「15」の悪化が進むと「6. 安全な水とトイレをみんなに」に連鎖します。「6」の悪化の影響が最初に出るのは子どもたちです。水汲みが必要になり、そのための労働力として求められるからです。片道30分の道を1日に4往復もしなければいけない子もいるそうです。
それまで不要だった遠方への水汲みが発生すると「4. 質の高い教育をみんなに」に連鎖します。
「4」を受けられない子どもが増えると、「8. 働きがいも経済成長も」に連鎖し、数年後、この子どもたちが生産年齢となったとき、雇用機会や得られる報酬額に影響します。
「8」を得られない人が増えると、「10. 人や国の不平等をなくそう」に連鎖します。
ここまで連鎖すると、貧困に陥る人の増加は避けられません=「1. 貧困をなくそう」。貧困状態が広がれば、飢餓=「2. 飢餓をゼロに」や病気=「3. すべての人に健康と福祉を」に直結します。
そして、「1」の蔓延を改善できないと、さらに飢餓や病気が広がり、さらに貧困に苦しむ人が増える「1」→「2」→「3」→「1」……という悪しきサイクルが生まれます。陸の豊かさの毀損を防げないことで、ここまで負の連鎖はつながってしまうのです。
負の連鎖は、さらに紛争など、他にさまざまな悪しき現象につながります。
テロや内戦が起これば「16.平和で公正な社会」にも飛び火し、それがより貧困を悪化させます。
いかがでしょうか?
水がなくなることで、貧困や戦争にまで連鎖するとわかると、逆にどんなに小さなものでも、みなさんにできるSDGs的な取り組みが、世界平和にすらつながると感じていただけるのではないでしょうか?
実際、貧困が原因で、雇用を生み出せない国や地域では、銃を持って戦う以外に稼ぐ手段がないところもあるようです。そして紛争地のある組織では、戦闘員の半数以上が「収入を得る仕事」として、仕方なく銃を手に取っているのだと言います。
このような地域では、雇用を生み出しさえすれば、戦争や紛争をすぐゼロにするのは困難だとしても、銃を持って殺し合う人たちの人数を半分にできるかもしれない。
このように捉えれば、私たちが日常で取り組むSDGsのアクションの意義の大きさがより説得力を持って感じられるのではないでしょうか。
ちなみに、この事例では負の連鎖の広がりを見ましたが、フォアキャスティング分析で正の連鎖を考える場合は、同じ順番でプラスの方向に考えれば大丈夫です。
企業がいま仕事を得られていない方の雇用に力を入れれば、「8」の貢献になり、「10」の貢献にもつながります。自社だけでは小さな力でも、志を同じくする人たちと連鎖すれば、「1」の貧困の解消につながり、「2」や「3」の解消にもつながります。