(本記事は、三科公孝氏の著書『儲かるSDGs ーー危機を乗り越えるための経営戦略』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)
成長カーブ曲線から見る「儲け」と「貢献」
「SDGs(エスディージーズ)」とは、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称であり、2015年9月に国連で開かれたサミットで世界のリーダーによって決められた、国際社会共通の目標です。
このサミットでは、2015年から2030年までの長期的な開発指針として、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択されました。この文書の中核を成す「持続可能な開発目標」をSDGsと呼んでいます。
一見相反するように見える、「儲け」と「貢献」は、SDGsで両立できるというのが私の考えです。
さらに言うなら、両立できるどころか、これからは、儲けるためにこそ、SDGsを意識する時代になると考えています。この項では、その理由について説明します。
利益の「量」だけに着目する経営は持続可能性が低い
経営で重要なのは、利益の「量」である―。
このように言われて、疑問を抱く方は少ないでしょう。「儲け」と「貢献」は両立しないと思う経営者の多くは、利益の量に着目し、増えれば素晴らしい、と考えています。
もちろん、利益の量は大切です。ただし、利益を見る基準が量しかないと、時代の変化に乗り遅れると私は考えています。
利益には、もう1つ、「質」という観点があります。
数値化できず、言語化しにくい部分もあったため、多くの人が利益の質について考えるような機会は少なかったように思います。しかし、いま「質の高い利益にはどんなものがあるか?」と問われれば、私は簡単に答えられます。
社会の持続可能性に配慮しながら生み出される利益―すなわちSDGs経営による利益は、例外なく、質の高い利益と言えます。
利益の量に着目したマーケティングでは、図表5に示す「成長曲線」がよく用いられてきました。急激に伸びた企業は衰退も急激で、じっくりと伸びてきた企業は長く成長を続ける―というものです。
前者の軌跡はよくロケットにたとえられ、かつてのITバブルなどは、この曲線にあてはまる企業が非常に多くありました。
とはいえ、私は「儲けの持続性を高めるために少しずつ儲けよう」と主張したいわけではありません。
私が提案したいのは、図表6のように、「量」ではなく利益の「質」のマトリックスで考えることです。
利益の質の向上は、その企業や組織のサポーターの増加と比例します。成長カーブ曲線ではなく、SDGs経営による利益の質向上を目指し、サポーターを獲得できると、好調期の持続期間が長くなります。
ここで出発点に立ち戻り、「利益の質」という言葉について考えてみましょう。
本来、「利益率が高いビジネスによる利益」は、質の高い利益と言えました。しかし、時代は変わり、消費者は企業の儲け方・お金の使い方に注目し、それをチェックしています。
その結果、ここ数年で、利益率などの数値化が簡単な要素よりも、「儲け方の姿勢」といった定量化しにくいマインド面が「質」のポイントになっています。
とはいえ、それを踏まえて、いまの時代に評価される「質の高い利益」を出し続ければ、右肩上がりで成長できる―とも思いません。質が高く、継続性もあるSDGs経営を実現できた企業や組織は、図表7のような成長を見せると私は考えます。
1つのやり方で質を高め続けるのは、基本的には不可能です。どこかで技術的に踊り場を迎えるでしょう。また、仮に成長の踊り場がない類のビジネスだとしても、その場合は模倣が容易なので、ライバルが増えてレッドオーシャン化します。
そのため、仮に絶対的なレベルをキープできても、消費者から見た相対的な質の高さはどこかで必ず停滞します。
たとえば無印良品を運営する良品計画は、順調な成長を見せていましたが、2000年代に急激に業績が悪化しました。
ITバブル崩壊などによる不景気で、100円ショップが大きく躍進した時代です。成功を収めた100円ショップ側は、無印良品の「ブランドロゴがなくてもブランドになれる」商品づくりを意識していました。良品計画は2001年2月の決算期に初の減益となり、株価も約5分の1に急落、時価総額は4100億円目減りしました。
その後の復活の立役者となった当時の社長・松井忠三(ただみつ)氏によると、マネジメントの問題が多く、商品の品質などにも問題が多々あったようです。それでも、それまでの10年間で無印良品が提案したスタイルに衝撃や感銘を受けたサポーターやファンがいたからこそ、停滞期を乗り越えられたのではないかと私は見ています。
私が独立前に勤めていた船井総合研究所でも、社会や企業は直線状に良くなっていくことはなく、平常時や非常時の変化・浮き沈みを経て、スパイラル状に良くなっていくものと考えます。
企業側の動きがどれだけ的確でも、リーマン・ショックや東日本大震災、新型コロナウイルスのような非常時に巻き込まれる可能性をゼロにはできません。
そんなとき、まさに「応援」し、支えてくれるサポーター・ファンがいれば、沈み切ることなく、再び上昇トレンドに乗れるのではないでしょうか。
ルールが決まると法律が決まる。法律が決まると市場が生まれる
今後、圧倒的に利益率が高いビジネスでも、環境や人の犠牲の下に成立するものなら「質の低い利益」と見なされ、応援されずにロケット型の成長カーブ曲線を描くようになります。
私がそう考える根拠はSDGsであるわけですが、ここで重要となるのは、SDGsの中身以上に、「SDGs」というルールや考え方が存在している―という事実です。
ビジネスの世界では、次のような流れがあります。
国際ルールが決まる → 国内の制度が決まる → 補助金決定 → 市場が生まれる
そして、この一連の流れは、往々にしてセットで起こります。
たとえば太陽光発電市場を考えると、この流れがわかりやすいでしょう。
1997年に「気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書(京都議定書)」が採択され、京都議定書を批准する日本でも、温室効果ガスの削減を進めるために、太陽光発電が広まるような施策を行いました〈図表8〉。
その後、2011年の東日本大震災による福島第一原子力発電所事故などもあり、日本中に大小さまざまなソーラーパネルがつくられるようになりました。
いま、SDGs経営も、完全にこのような流れに乗っています。
ある考え方をひと言で述べられるキーワードが定着することは、社会に拡散する上で非常に重要です。その点で、2014年に国が「地方創生」の旗印を大きく掲げたことは、大きな意味があったと私は感じています。
結果としては、インバウンド誘致以外で大きな成果をもたらした施策は少なく、コロナ禍の現在は外国人観光客の訪日もあまり期待できません。しかし「地方に目を向けて応援しよう」という市民の意識の醸成に、「地方創生」というキーワードは大きく役立ったと思うのです。
そう考えると、これだけ社会に対する意識が高い消費者が増えている割に、「SDGs」というキーワードはそこまで一般化していません。これは喜べる話ではありませんが、逆に言えば、SDGsで儲けるチャンスは、まだまだ広がるとも考えられます。
だからこそ、「取り組むのはいま」であり、機先を制することが肝心なのです。
そしてもう1つ、ここであらためて意識したいのが「的確な貢献」です。
お金儲けだけを目的にSDGs的な取り組みをしても、アンテナが鋭くなった消費者の目を完全に欺くことは不可能です。仮に欺瞞に気づく人がごく少数でも、いまはSNSなどで、その風評が簡単に広がります。一時的に儲けることは可能でも、継続的な利益は上げられません。