(本記事は、三科公孝氏の著書『儲かるSDGs ーー危機を乗り越えるための経営戦略』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)
「SDGs(エスディージーズ)」とは、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称であり、2015年9月に国連で開かれたサミットで世界のリーダーによって決められた、国際社会共通の目標です。
このサミットでは、2015年から2030年までの長期的な開発指針として、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択されました。この文書の中核を成す「持続可能な開発目標」をSDGsと呼んでいます。
書籍では、今回の内容の前項にてグリッド型組織こそが、これからの時代に合った組織形態であると述べ、そのメリットをお伝えしましたが、かといって、ピラミッド型組織にいますぐ階層型をやめろと言いたいわけではありません。
私は、ピラミッド型とグリッド型を併存させることが大切だと考えています。
オープンソースマネジメントが組織のスピードを上げる
グリッド型組織の動力は、さまざまな場所にいる、さまざまな人材が担います。
これは、オープンソースを意識するとわかりやすいでしょう。インターネット上のオープンソース型の辞書であるウィキペディアもそうです。
しかし、このオープンソースにもメリットとデメリットがあります。だからこそ、両方を併存させ、それぞれの強みを活用することが大事なのです。
ウィキペディアは最低限のITリテラシーがあれば誰でも利用できますが、いい加減な内容が書き込まれることも珍しくありません。
質で言えば、専門家が大変な時間をかけてつくり込んだ辞書のほうが明らかに信用できます。
この価値を認めないことは、逆に知の軽視であると言わざるを得ないでしょう。
ただ、そのような限られた人の知性・リーダーシップに頼るやり方は、サイト制作や辞書編纂に限らず、時間がかかりがちです。スピードに関してはオープンソースの圧勝です。
そして、平常時はそれで対応できても、非常時はとにかくスピードが求められます。つまり、グリッド型・オープンソースのマネジメントは、緊急事態への対応力にも優れているのです。
その対応力を身につけるためにも、ピラミッド型組織も、グリッド型の強みを取り込み、併存させるべきだと考えます。
オープンソースマネジメントは、グリッド型につながった人同士のあらゆる接点から意見が出ます。それは、多くの場合、はっきりとした指示の形ではありません。しかし、それでいいのです。強い指示は他の意見を隠してしまいがちです。
最初はちょっとした意見だったり、「いいね」や「好き」につながる情報の拡散だったりします。しかし、それを見た人たちの支持が一定以上に積み重なると、「これをやるべきだ」という指示、組織の意思に変わっていきます。
1つのアイデアが指示にまでなる形は、ピラミッド型組織でも大きな違いはありませんが、ピラミッド型は複数の階層があるので、1つの階層で「いいね!」となっても、上の階層でまた意見を取りまとめ、通過してもその上の階層で……というプロセスが必要です。そのため、組織全体に指示が行き渡るまでにどうしても時間がかかり、対応速度に不安があるのです。
役割でつながる縄文式マネジメント
とはいえ、ピラミッド型組織に慣れている方には、どうしても上下の概念がない、あるいは緩くなることに不安もあることでしょう。
そこで意識していただきたいのが、「階層」ではなく、「役割」でつながるという発想です。
縄文時代はあまり上下の概念がなく、みな平等な立場で長く平和な時代が続いたとされます。
それでも、狩りが得意な人は狩りを、釣りが得意な人は釣りを、といった役割分担はありました。人と人との関係において上下はなく、それぞれ得意なことをやる。自分の得意を認められると、人は意気に感じ、喜びにもつながる―という形で組織が運営されていたようです。
「上下関係がない」というのは、「個人での生活ではなく、役割で連帯するチームプレイが行われていた」ということ。非常にグリッド型に近い組織形態だと感じます。
また、リーダー的存在も、いなかったわけではないと私は考えます。
ただ、それは立場が上なのではなく、「何かあったときの決断をする」という役割を最も的確にできる存在として、仲間から託される人であったのでしょう。
これまでの組織論やマネジメント論は、役割に加えて、権限・権力が混在していたと感じます。そして、世の中に悪影響を与えてきたのも、こうした権限・権力の集中なのではないでしょうか。一方、役割だけに絞って連帯できれば、SDGsの目標達成すら容易ではないかと思うのです。
なぜそのように思うのかと言うと、私自身がクライアントと役割だけでつながるからです。
私は「先生」と呼ばれることも苦手で、できるだけフラットにコンサルティングをしようと日頃から考えており、クライアントも極力フラットな組織であってほしいと考えています。
そして、そのメリットも強く感じています。組織がフラットな状態にあると、パート勤務のお母さんのアイデアが組織を助けるようなことが、普通に起こり得るのです。
偶然なのか必然なのか、コロナ禍における、新しい生活様式やソーシャル・ディスタンスも、役割へのフォーカスを加速させています。
リーダーの役割は、「組織全体が安全に生き延びるために必要な判断を下す」ことです。しかし、残念ながら、その役割をまっとうできないのに偉ぶったり、無用な口出しをしたりする、権限・権力だけを持つ「リーダーの役割に不適任なリーダー」も少なからず存在します。
そして、リモートワークやオンライン会議は、そんなリーダーを期せずしてあぶり出しました。仕事に限らず、SNSなどでは気安くコミュニケーションをしやすいように、オンラインは階層のフラット化を強制的に進めます。その流れを受けて、世の中全体のグリッド型化、縄文式マネジメント化への移行がさらに加速すると考えています。
逆に言えば、役割を適切に果たしているピラミッド型組織のリーダーは、グリッド型組織になったところで、やることは変わりません。みなさんの役割は変わらずに求められ、質の高いアイデアが生まれやすくなる分、やりがいも意義も、より大きくなります。
「誰一人取り残さない」併存の道
冒頭で述べたように、ピラミッド型組織をなくす必要はありません。
では、どのようにして併存するのか(すでにグリッド型組織になっている企業や自治体は、先述のようにリーダーの役割に変わりはないのでそのままで問題ありません)。ピラミッド型組織は、グリッド型の知を集めやすいシステムを導入すればよいのです。
具体的には、社内SNSや、LINE・チャットワーク・Slackなどのチャットツールを活用します。社内では部署や役職に関係なく、自由闊達に意見が行き交う環境をサブで持ち、表向きはピラミッド型の構造を維持する。そのようにして、両方を持っておく。
また、ピラミッド型の企業や自治体は、無理に組織の形を変えようと意気込む必要はありません。本当に時代が必要とするものは、変えようとしなくても、勝手に変わっていくものです。大切なのは、「場所を用意しておくこと」です。
書籍の序章で取り上げているスーパーマーケットのココスナカムラでは、新型コロナウイルスが流行し始めた時期に、こんなことがありました。
レジなどに透明カーテンを張って、お客様に距離を取って並んでもらうときのテープを貼ろうとなったとき、私が「ソーシャル・ディスタンスをすでに実施している店舗があったら教えてください」と実施済みの青戸店の写真を添付し、店長さんらに向けて書き込みをしたら、阿佐ヶ谷店・関原店・梅島店・町屋店が「私たちはこうしています」と写真をアップしてくれました。このように、意見が上がってくるのを待つ前に、それを促進する書き込みをすると意見が活発に出ることもあるので、リーダーは必要に応じてそのようなファシリテートをする意識も大切です。
ココスナカムラでは、その写真を参考に、翌日には残りの店舗のうち半分がテープ貼りを実施し、翌々日には残る全店舗でも対応が終わりました。各店の売場写真を見ることで、実施店舗もさらにブラッシュアップするという動きもありました。ほかのスーパーと比べてもかなりスピーディーな対応だったと自負しています。
日頃から経営がきちんとしているからこそ、現場トップである店長やレジ責任者が適切に動けたのだと感じました。非常時に現場が自立して動ける組織こそが、これからの時代に生き残り、成長できるのだと思います。
とはいえ、ピラミッド型だった組織でこのような動きが起きた場合、経営者や役員は「自分たちの指示が遅かった……」と思われるかもしれません。
しかし、気にすることはありません。これこそが未来のオープンソースマネジメントです。また、その上で、リーダーが検証を行い、反省するのも素晴らしいことです。
その反省を活かし、次に同じような機会があった際に、現場の集合知よりも素早く適切な指示ができれば、それこそピラミッド型組織の面目躍如です。このような意味合いからも、ピラミッド型とグリッド型の併存は可能であり、また効果的な第三の道と言えるのです。