(本記事は、山本尚宏氏の著書『99%失敗しない、不動産投資のはじめ方』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)
なぜ、不動産投資には負のイメージがあるのか?
不動産には資産価値があり、それを運用する企業によって不動産市場が形成されています。
この不動産市場は、日本では長い歴史があります。1980年代のバブル期には、不動産価格は売るときに買ったときより必ず値上がりしているという「土地神話」が生まれました。不動産投資が最も活発に行われた時期です。
土地を購入する資金として銀行から多額の融資が行われ、多くの企業や富裕層が不動産を頻繁に売買していました。しかし、93年ごろのバブル崩壊で一気に地価が下落し、多くの物件で担保価値(金融機関から融資を受けた人が、経済的事情で返済できなくなったとき、代わりに金融機関に差し出す資産の価値)が融資額を下回る担保割れの状態に陥ることになりました。その影響により、倒産する企業や自己破産する富裕層が続出したのです。
バブル崩壊後、日本経済は「失われた20年」という低迷期に突入していきますが、不動産に関しては、2006年ごろから再び上昇の兆しが見えてきました。
ここにはアメリカで開発された金融工学システムを組み込んだ「不動産証券化」が大きく絡んでいます。仕組みが複雑なため、詳しい説明は避けますが、簡潔にいえば、開発業者(デベロッパー)によるマンション開発などの土地を信託受益権(土地や建物の不動産を信託して、その不動産から得られる収益(賃貸収入や売却益)を受け取ることができる権利)化し、特別目的会社(SPC)という受益者がスポンサー、投資家、銀行からお金を集めて運用するというものです。
デベロッパーにとって不動産証券化のメリットは、資金調達が容易であることと、貸借対照表から物件開発のための借金(負債)を切り離せる「オフバランス」にありました。負債をバランスシート上の記載からなくすことで、自己資本比率、収益性を高めることができるというメリットがあったのです。
不動産証券化自体は悪い仕組みではありませんし、今でも開発で用いられています。しかし、問題は当時この仕組みによりマンション、オフィス、商業施設などが需要を上回って供給されていたことです。
作ることだけが目的になってしまい、外資系の不動産投資ファンドにより作られた地方の中核都市のオフィスや商業施設が、空室のまま1年近く放置されるという事態も多発しました。
この時期は、不動産ミニバブルといわれています。不動産証券化は、お金が回っているうちはいいのですが、どこかで蛇口を閉められてお金の流れが止まると、とたんに資金繰りが悪化してしまいます。
2008年9月、世界規模の金融恐慌が起こり、お金の蛇口が閉まりました。「リーマンショック」です。これは、アメリカで与信力の低い世帯にも家を融資で売っていた「サブプライムローン」が不良債権化したことがきっかけでした。
リーマンショックによって資金調達が困難となり、不動産ミニバブルは崩壊しました。再び、不動産市場は冬の時代を迎えたのです。このとき、供給過多だったマンションが安値で一括売却される「バルクセール」も発生し、多くのデベロッパーが倒産しました。
そして2013年、再び不動産市場が活発化していきます。安倍政権によるアベノミクスがきっかけです。とくに大きな影響を与えたのが、金融緩和政策でした。
金融緩和によって、大手から地方まで銀行はお金余りの状態になりました。本来はそのお金で製造業の設備投資などに融資すればいいのですが、日本の製造業は国内工場の閉鎖などもあって設備投資するにも限界があります。
また法人相手の営業になりますから、どうしても大手銀行が有利になります。
そこでお金の貸し出し先に困った中小銀行が目を付けたのが、個人の不動産投資家でした。
個人レベルの不動産投資としては、木造アパート建築が一般的でした。アパート建築会社から提案を受けた地主が自分の土地に木造アパートを建てるという、家賃収入と相続税対策を目的とした不動産投資です。
地主は自分の土地を持っていますから、かかる費用は建物の建築費用だけです。そして、アパート建築会社が営業時に最大の武器にしていたのが、「サブリース」と呼ばれる家賃保証システムでした。これは、アパート建築会社がオーナーから物件を一棟まるごと借り上げて入居者に転貸し、不動産経営を代行する仕組みです。
不動産経営には入居者募集、修繕、原状回復、クレーム対応など多くの業務がありますから、個人ですべてをこなすのは大変です。それを代わりに業者がやってくれるうえに、一定期間、空室時でも固定で家賃収入を保証するということで安心感を与えたのです。
それゆえ、入居需要が少ないような田舎にアパートを建てても、それなりのメリットがありました。さらに2015年の税制改正により、相続税の基礎控除額が引き下げられ課税対象者が増えると騒がれたため、全国各地で相続税対策のセミナーが開かれ、関連する金融商品が増加しました。
この分野で業績を伸ばし大手企業に成長したのが、大東建託やレオパレス21といった上場企業です。
一方で、金融緩和と老後不安によって近年、新たな不動産購入層が生まれました。それが「サラリーマン投資家」と呼ばれる人たちです。
老後不安がある中、金融緩和で銀行から融資を受けやすいため、主に新築マンションの1部屋を所有する「区分所有」を中心に、資金力の低い若い人たちも投資をはじめたのです。
こうして不動産投資市場は活性化していきます。不動産投資を主業務とする企業は軒並み業績を数倍から数十倍に伸ばし、地方の中小企業から上場を果たした企業もあったほどです。アパート・マンション、新築・中古など、扱う物件の種類、種別問わず右肩上がりでした。
このように明るい兆しが見えた不動産投資市場ですが、光があれば闇もあります。この闇の部分が近年浮き彫りとなり、社会問題にまで発展しました。
その1つが「レオパレス21の施工不良問題」です。
アパートの住戸を仕切る「界壁」という壁が天井裏に設置されておらず、住宅の防耐火性能や遮音性能に関わるため重大な問題とされました。軽微なものも含めて約3万棟という規模で不備が発見され、その補修や入居者の引っ越しなど、補填費用がかさみ、業績は赤字に転落しています。
これはレオパレス21でアパート投資をした地主のオーナーが、独自にオーナー会を作り、経営をめぐるさまざまな問題を指摘する中で発覚しました。
もう1つ、多数のサラリーマン投資家が被害を受けた「かぼちゃの馬車・スルガ銀行事件」も起こりました。
これはスマートデイズという会社が、不動産投資家に「かぼちゃの馬車」というブランドのシェアハウスを建築する話を持ちかけるところからはじまります。このときにもサブリースが用いられました。
サラリーマン投資家は土地を持っていないケースが普通ですから、土地と建物をセットで販売する「ランドセット」が行われました。当然、物件価格は自分が保有する土地に木造アパートを建築するよりも高くなります。さらに、土地は減価償却できませんから、利回りや節税という面から見ても、あまりおすすめできません。
そんな物件にもかかわらず、年収1000万円以上ですでに区分マンションへの投資経験があるような、リテラシーが比較的高い人も購入してしまったのです。
不動産には「団体信用生命保険」というものがあり、住宅購入者が死亡したとき、住宅融資の返済の肩代わりをしてくれて、負債を残さず配偶者や子供に残せます。このうたい文句で、手を出してしまった投資家もいました。
ここで最も問題となったのが、融資関係書類の偽造です。普通なら融資がおりないような人の資本力を高く見せるために、通帳の預金残高のデータを差し替える。さらにそれをスルガ銀行という金融機関が承知したうえで積極的に融資していたという、通常ではとても考えられないことが起きました。
しかも、現地で物件を見ず、販売業者のいうがままに購入した人も多かったことから、不動産価値が相場より低い物件もあり、売却しても負債が残るようなケースも多発しました。実際に自殺や破産した人もいます。
こうした事件が立て続けに起こったことで、金融機関も融資の引き締めに入りました。最近では「申し訳ございませんが、これ以上はお貸しできません」と断られる投資家も増えていると聞きます。真っ当に不動産投資事業を行なっていた投資家であっても、投資物件を買い増しすることが容易ではなくなったのです。
バブルのときもそうでしたが、不動産投資市場というものは、熱狂して伸びているときこそとくに注意すべきです。多額のお金が動くため、そこに強欲な人たちも集まるからです。
国土交通省のデータ(平成28年度)によれば、不動産会社は全国に12万3千社余りあるといわれています。上場している大企業から地元に密着した中小企業まで多岐にわたり、真面目な業者もたくさんありますが、怪しげな業者も少なくありません。
そのため「レオパレス21の施工不良問題」「かぼちゃの馬車・スルガ銀行事件」といった事態に運悪く遭遇することもあります。
これは建築・販売業者のモラルだったり、銀行の不適切な融資が原因だったりするので、一概に投資家自身の自己責任とまではいい切れない部分もあります。しかし、私たちにきちんとした不動産投資の知識があれば、こうした無用なトラブルを避けられた可能性は大いにあります。
投資は失敗すれば、財産を大きく棄損してしまう可能性があります。失敗を回避するためには十分かつ適切な情報収集が必須なのです。
とはいえ、昨今は不動産投資ブームですから、書籍、雑誌、インターネットなどの媒体でさまざまな角度からのノウハウがあふれかえっています。年収500万円から3000万円に増えたという成功体験や、不動産業者が一方的に投資物件の良さを訴えるPRなど、実に多種多様な手口で投資家の欲をくすぐってきます。
しかし、これらの情報は発信者のバイアスがかかっていたり、内容に誤りがあったり、過大に表現していたりするので、情報を得る段階でこちらもフィルターをかけなければなりません。
実は、本書の目的はここにあります。読者のみなさんが不動産投資の情報を得る際に、この本を事前に読んでいただくことで、「さまざまな媒体や不動産業者が出す情報が正しいかどうか、しっかり選別できる」内容を目指しました。
また先ほど、怪しげな業者も少なくないといいましたが、私たちが運営しているウェブメディア「不動産投資の教科書」では、真面目な不動産業者を独自の視点で選び抜いています。こうした活動で、業界の健全化に貢献していきたいという気持ちもあります。
この「不動産会社の選び方」も、本書が他のノウハウ本とは一線を画す独自性を追求している部分です。どのような物件を選べばいいのか、という話は山ほどありますが、どのような業者を選べばいいか、という話は実はとても少ないのです。