(本記事は、山本尚宏氏の著書『99%失敗しない、不動産投資のはじめ方』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)
不動産投資の誤解①不動産投資はお金持ちでないとできない?
私の周囲に「不動産投資は年収が高くて、多くの貯金がないとできないもの」と考えている友人がいました。たしかに、平均以上に給与が高くて預金もたくさんあれば、それに越したことはありません。
また「自分で物件を探すとなるとそれなりに時間も手間もかかるし、そもそも優良物件が提案されることはない」と考えている人も多くいます。
物件を複数所有しプロ投資家を目指す場合、初めて購入するときよりも、金融機関が要求する年収や金融資産のハードルはだんだん高くなっていきます。ただし、初めて購入するときは、年収500万円でも融資してくれる金融機関はたくさんあります。
実際に、私の知人の投資家でも、初めて購入する決め手となった理由の1つとして「不動産投資は年収が何千万円もある会社経営者よりも、安定した給与収入がある会社員や公務員のほうが金融機関から融資を受けやすかったから」と話していました。
上場企業や公務員で、勤続年数が長く、毎月安定した収入がある人は、「属性が良い人」に分類されます。若手会社員でも物件を購入して不動産投資家になれるのです。
不動産サイト「ノムコム・プロ」を運営する、野村不動産アーバンネットがまとめた「2018年度不動産投資に関する意識調査」では、投資用不動産のプロフィールに「購入者のうち会社員が46%だった」との記載があります。富裕層だけが投資しているという世間一般のイメージとは異なり、約半数の投資家が会社員なのです。
ただ少し前まで「年収300万円でも不動産投資できる!」といったうたい文句で投資家を募っている不動産業者もいましたが、私は、サラリーマン投資家なら投資できる年収の目安は「500万円以上」だと考えています。これくらいあれば、多少のリスクを負ってもリカバリーできるからです。投資はあくまで最低限の生活費を確保したうえで、行うべきだと思います。
不動産投資の誤解②投資物件は現金で購入したほうがいい?
物件を購入するには2通りの方法があります。
1つは、お金を貯めて現金で一括購入する方法です。これは借り入れをしないので、翌月からまるまる家賃収入を得られますから、安定した収益を期待できます。
もう1つは、購入資金の一部を金融機関から借り入れをして運用していく方法です。
金融機関が物件を担保として購入資金を貸してくれます。
通常、私たちが銀行に「株式を購入したいのでお金を貸してください」と依頼しても、まず断られるでしょう。これは株式以外の金融商品でも同様です。銀行は万が一、不測の事態が起これば不良債権を抱えることになるからです。
そのため、あらかじめ銀行側は自分たちが損失を被ることだけは回避したいと考えます。それゆえ、不確実な金融商品の購入資金への融資は行いません。
一方、銀行は不動産に関しては融資してくれます。なぜなら株式などの金融商品とは違い、現物不動産は長期的な運用に適していますし、担保価値があるからです。
最近でこそ、不動産投資をめぐる問題が頻発して融資が引き締められていますが、担保評価の高い物件に関しては、金融機関は相変わらず積極的に融資してくれます。
融資を受けられれば「時間を味方にする」、つまり資産形成に要する時間を短縮することが可能です。物件購入時の借入金額は、毎月の家賃収入から返済していきます。
返済金額に占める支払利息部分は毎月減少し、その分、元本返済部分が毎月増加していきます。これを「元利均等返済」といいます。
なるべく借り入れをしたくないという人もいます。しかし通常、不動産はよほど築年数が古くない限り1000万円以上、物件によっては数千万円します。ですから、フルローンとまではいかないまでも、ある程度の頭金を入れて、残りは適切な融資を受けて物件を増やしていったほうが、入居者からの家賃収入で元本と利息を返済できますから、全額自己資金よりも比較的短期間で資産形成ができるのです。
不動産投資の誤解③投資物件は短期間で売却をしたほうがいい?
投資家の中には、購入した物件をいち早く売却してキャピタルゲインを狙いたいという人もいるでしょう。長く不動産投資をしていると、一時的に景気が良くなり、物件価格が上昇する局面もたしかにあります。
しかし、物件を短期間で売却するのを前提に不動産投資をするのであれば、最初から株式など他のキャピタルゲインを獲得できる投資をしたほうが効率的です。不動産投資は毎月の家賃収入から元金を返済していきます。そのため、エリアや物件自体の選定さえ間違えなければ、家賃が下落するスピードよりも、元金を返済して純資産が増えるスピードのほうが早いのです。
仮に3000万円で購入した物件が500万円値上がりしたとしても、やはり短期間での売却はおすすめできません。不動産は所有期間により、売却の際に生じる譲渡益に課税される税金の額が異なるからです。簡単にいえば、売却する年の1月1日時点で所有期間が5年以下なのか、5年を超えるのかによって、課税される税金が約2倍変わってきます。これは国税庁の「土地や建物の譲渡所得に対する税金」の項目で決まっています。
こうした譲渡所得にかかる税の問題もありますが、不動産投資は長期的な視点でインカムゲイン(家賃収入)を獲得していくのが本質です。物件価格の高騰や元金部分の返済により、含み益が出ていれば、売りたくなるのもわからなくはありません。しかし、私は「少なくとも10年程度では売らないほうがいい」と考えています。
もちろん将来、本格的に売却を検討する必要に迫られることもあるでしょう。しかし、不動産投資ほど安定した収入が得られる投資対象はなかなかありません。
出口戦略にこれだという正解はありませんが、目先の売却益につられてせっかく保有している物件を手放してしまったら、「金の卵を産むニワトリ」をみすみす手放してしまうようなものです。
不動産投資の誤解④表面利回りが高い物件を購入したほうがいい?
表面利回りとは、物件の年間家賃収入の総額を物件購入価格で割り出した利率です(表面利回り=年間家賃収入÷物件購入価格×100)。この表面利回りから、管理費や固定資産税など物件の運営にかかる経費を控除し、購入時の諸経費を加味して算出するのが「実質利回り」です(図表3を参照)。
ここで表面利回りについて見てみましょう。表面利回りは一見とてもわかりやすい指標なのですが、物件が新築か中古か、区分所有か一棟物件か、東京都内か地方郊外かなど、諸条件によって変わってきます。
一般的には、中古物件よりも新築物件のほうが、区分所有よりも一棟物件のほうが、地方郊外よりも東京都内の物件のほうが物件購入価格が高くなる傾向にあるので表面利回りは低くなります。
「楽待」や「健美家」といった不動産サイトに掲載されている物件は、表面利回りで評価され、投資家も高い表面利回りの物件を好む傾向があります。ベテラン投資家同士の会話の中でも、絶対的な指標として認識されています。
私も今まで多くの物件を見てきましたが、そこに落とし穴があると考えています。
収益性を評価するにあたり、表面利回りはたしかに一見公平でわかりやすい指標ですが、あくまでもその時点での評価に過ぎません。不動産を購入して何年か(場合によっては何カ月か)経過すると、家賃の下落や空室、さらには家賃の滞納などが発生することがあります。
経年劣化すれば家賃はほぼ下がりますし、部屋の退去が発生すれば次の入居者が決まるまで空室なので家賃収入が入らなくなります。表面利回りだけで評価するということは、こうした運営期間中の収益性に影響を与える諸要因を一切考慮していないということになります。
ここで厄介なのが、入居者がついていない空室物件を紹介されたときの「満室時想定利回り」です。とくに、人気の高い駅近くに所在する物件が販売時に空室だった場合、満室時の想定利回りで計算している家賃がその駅周辺の類似物件の家賃と乖離があると、購入した後に苦労することになります。
つまり、不動産購入時に表示されている利回りというのは、現在の不動産価値を瞬間的に切り取っただけの目安でしかないということです。物件情報にある利回りの数字は、状況によって刻一刻と変化しており、上にも下にも振れます。正しい認識や情報の把握をせずに、「甘い見通し」で不動産投資をすれば、失敗するリスクを高めてしまいます。
初心者のときは、不動産会社からさまざまな資料を提示されると「そんなものなのかな」と思ってしまいがちですが、必ず販売側に家賃設定などの根拠を確認するようにしましょう。
また、新築時に設定した家賃のまま、中古物件として紹介された場合、たとえ入居者が居住していたとしても注意が必要です。長く住んでいた入居者が退去してしまえば、1万円以上も家賃を下げないと次の入居者が決まらないケースもあるからです。
地方郊外のアパートでは、仮にこうした部屋が数室あると、表面利回りはとたんに「絵に描いた餅」となります。このように、購入時点での収益性を示す表面利回りだけで物件を選定せず、その物件の実質的な価値を見極めることがとても重要です。