東京ミネルヴァ法律事務所が破産した。過払い金の不正流用や広告会社との不適切な関係が指摘され、弁護士ビジネスの闇がいま暴かれようとしている。過去に虚偽宣伝で業務停止処分を受けたアディーレ法律事務所の騒動とともに、法曹界における問題点について解説していこう。

全国で増える弁護士法人、どんな組織?

東京ミネルヴァ,破産
(画像=Natee Meepian/stock.adobe.com)

東京ミネルヴァ法律事務所もアディーレ法律事務所も「弁護士法人」だ。最初にこの弁護士法人がどのような組織なのか、触れていきたい。

弁護士法人とは

弁護士法人は、2002年に施行された「改正弁護士法」で設立が可能になった法人のことを指す。弁護士によるサービスをより多くの人が利用しやすいようにすることや、事務所運営の効率化などを目指した法改正で、弁護士法人の社員は全員弁護士である必要がある。

弁護士法人の数は、法改正が実施された2002年の年度末は76法人だったが、2017年度末には1,134法人まで増加している。2017年度末における法人組織率(弁護士法人の社員数などの合計数を各年度末の弁護士数で割った数字)は15.0%で、年々高くなっている。

弁護士法人で働く弁護士数は5人以下という規模が比較的多い。その中でアディーレは約150人(2019年)と圧倒的で、破産した東京ミネルヴァは10人前後で弁護士法人としては中堅に位置付けられていた。

広告解禁などの司法制度改革とも無関係ではない

弁護士業界は司法制度改革による広告解禁と報酬自由化などにより、近年は規制が緩和されている傾向にある。アディーレや東京ミネルヴァによる不祥事や破産も、このようなことと無関係ではない。両社の騒動の詳しい内容を説明しよう。

東京ミネルヴァの破産と疑惑について

東京ミネルヴァの破産開始手続きの開始決定が報じられたのは、2020年6月のことだ。負債総額は52億円(2019年3月期決算時点)で、企業調査会社の帝国データバンクによれば、これまでにあった弁護士法人の倒産の中では過去最大の負債額となっている。

2012年4月に創業した東京ミネルヴァは、過払い金請求サービスのテレビCMなどを積極的に展開し、顧客数を増やしてきた。全国各地の自治体の公共施設などで無料相談会などを積極的に開催し、知名度はぐんぐん上がっていった。

しかし最近になり、東京ミネルヴァに過払い金請求を依頼した人から「東京ミネルヴァと連絡が取れない」といった相談が東京弁護士会などに寄せられるなど、法曹界において東京ミネルヴァの良くない噂が広がっていたようだ。

そんな東京ミネルヴァの破産が報道されたあと、同法人が30億円以上の過払い金を流用していた疑惑が持ち上がった。この過払い金は、消費者金融業者などから同法人が返還を受けたもので、本来であれば依頼者本人に適切に返還しなければならないお金だ。

報道などによると、東京ミネルヴァは取引関係にある広告会社への支払いのために、この30億円以上のお金を流用していた疑いがあるという。本来であれば、消費者金融業者から返還された過払い金は法人運営のための費用とは別に管理する必要があり、このような点からも問題が指摘されている。

東京ミネルヴァは、この広告会社の実質的な支配下にあったという話も出ている。さらなる深層究明が待たれる。

アディーレ法律事務所の業務停止処分について

アディーレ法律事務所に対する業務停止処分は、今から少し前の話だ。東京弁護士会が業務停止2ヵ月の処分を下したのは2017年10月のことで、いまはすでに業務を再開している。この業務停止処分は、司法制度改革によって解禁された広告解禁に絡む話だった。

アディーレ法律事務所は、過払い金請求の最初の手数料を無料などにするという「期間限定」キャンペーンを何度も実施していたが、実際には期間限定ではなく長年にわたってこのキャンペーンを続け、広告宣伝の内容が事実と異なることが問題視された。

消費者庁からも「景品表示法違反(有利誤認)」に相当するという判断を受け、問題視された広告の表示をやめるよう命令を受けている。当時、東京弁護士会の渕上玲子会長はこの一連の騒動を重く受け止めるとし、「非行の防止に努める」とコメントを出している。

弁護士ビジネスの闇を、法曹界自身が浄化していけるか

「弁護士法人」と聞くと信頼のおける組織だと信じて疑わない人も多いかと思うが、アディーレ法律事務所の業務停止処分や東京ミネルヴァの破産や疑惑などにより、現在その信ぴょう性が大きく揺らぎつつある。

公益性の追求のほか、法人である以上は利益の追求も1つの目的となることは致し方ないが、それが違法行為を行う免罪符となることにはもちろんならない。法曹界でさらなる不祥事が続けば、今後何らかの規制強化を国が打ち出す可能性もある。

弁護士ビジネスの闇を法曹界自身が浄化し、社会からの信頼を維持・向上していけるか、引き続き関心が集まる。(提供:THE OWNER

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)