金融大手のみずほフィナンシャルグループは、社員に対して週休3~4日制を導入した。コロナウイルス感染拡大の影響で、リモートワーク等の新たな働き方が加速する中、柔軟な働き方を実現する取り組みに動いた。

新たに増えた休日を活かし、育児や介護に時間を充てたり、スキルアップ等の自己研鑽に取り組んだりすることを想定しているという。さらに、2019年に解禁した「副業」の時間に充てることも可能ということだ。

セキュリティや情報管理上の側面から、保守的なカルチャーを有する銀行がこのような新たな働き方改革を断行したことは、意外とも言える。このような動きを歓迎する声がある一方で、今回の制度導入の裏には、みずほ銀行が抱える経営的な危機があるのではないかともささやかれている。

週休3日制は働き方改革のメリットがある

みずほ銀行
(画像=yu_photo/stock.adobe.com)

そもそも週休3日制度自体は、働き方改革の早い段階から導入していた企業は多かった。例えば、「ユニクロ」を展開する株式会社ファーストリテイリングや、インターネット大手のヤフー株式会社などといった大手企業も、積極的に導入を進めている。

ただし、企業によって制度を活用できる社員の職種を制限したり、出勤時の一日の勤務時間を伸ばすことで週単位の勤務時間を変えないようにしたりするなど、完全な形での制度導入にはまだまだ慎重であるのが現実だ。

このような制度の他、働き方改革の一環として、従業員に対して多様な働き方を認める「副業・兼業」の動きも広がっている。みずほフィナンシャルグループでも2019年、グループ社員約6万人を対象として、副業を認める人事制度を明らかにしている。

みずほグループは今回、副業制度に加えてこの週休3日制を導入したことで、銀行業界でも一足先に、働き方制度改革を積極的に推進する格好となったことは歓迎に値する。

みずほグループの今回の制度導入は、経費削減の側面が強い

ところが、みずほフィナンシャルグループの今回の制度導入の背景は、必ずしも明るいものばかりではない。週休3日制の導入と聞いてまず思い浮かぶ経営効果は、業務量の削減にともなう人件費の抑制だ。その裏には、業績難に苦しむ経営者の経費削減への強い要求がある。

実際、三菱UFJフィナンシャル・グループは店舗削減に伴う約9,500人分の業務削減を発表、三井住友フィナンシャルグループも経営効率化を図るため、約2,200人分の業務削減を推進している。みずほフィナンシャルグループも例外ではなく、約1万9,000人のリストラを発表したばかりだ。

大手銀行、とりわけみずほグループがこのような業務改革を迫られるのには、業界全体が直面する大きな課題があった。

貸出金利で収益を得る本業の稼ぐ力が急速に低迷している

大手および地銀を含めた銀行業界は、その稼ぐ力が大きく低下している。銀行の本業は、預金貸出に基づく金利収益にあるが、国内の景気低迷に伴い、クライアント企業の投資意欲が低下したこと、また日銀の長期にわたる低金利政策にともない、金利収益が悪化したことが銀行にとっては痛手となっている。

デジタル・トランスフォーメーションの波に乗り遅れている

また最近では、ネットバンキングの普及も含め、業界全体でデジタル・トランスフォーメーション (DX) の動きが加速しているものの、みずほフィナンシャルグループを含め、多くの銀行ではその水準が遅れていると言わざるを得ない。

例えば、DX戦略を積極的に推進している「北國銀行」では、中核戦略としてDXを掲げている。基幹システムのクラウド化によるデジタルバンキングから、クラウド上のデータを活用し顧客に対して新たな価値を提供するエコシステムの開発に取り組むなど、次世代の銀行としてのあり方を積極的に模索している。

みずほグループはこのようなIT化やDXの流れに乗り遅れ、従来型のビジネスモデルに固執せざるをえなかったのだ。

旧3バンクの合併から統合に至る過程での弱い経営管理体制が響いた

みずほグループが、変わりゆく時代の流れに乗り遅れてしまった背景の一つには、みずほグループの経営管理体制に責任があったと言わざるを得ない。

1999年に日本興業銀行、富士銀行、第一勧業銀行の3行が統合して発足したみずほフィナンシャルグループは、対等合併に終始し、人材削減や店舗統合などのコストシナジーを実行できなかった。システム統合に関しても遅れをとり、昨年3月には傘下銀行の勘定系システムを一本化するために投じた新システム投資費用や店舗統廃合にかかる固定資産関連で、多額の減損損失を計上している。

実に、10年以上も統合が進んでいないという経営管理体制では、銀行業界を取り巻く大きな環境変化に対して十分な経営戦略が打ち出せるとは到底言い難く、経営トップがリーダーシップを発揮できなかった結果と見られても致し方ないだろう。

「働き方改革」でみずほグループは経営効率を最大化できるか

以上から見ると、みずほグループの今回の制度導入は、経営不振からの脱却に向けたコスト削減 (給与カット) の側面が大きいだろう。DX化の流れによって銀行業界全体が大きな変革を迫られている中で、週休3日制のメリットである「働き方改革」を活かし、いかに従業員のパフォーマンスを最大化し、経営改革をリードしていけるかが重要だ。

制度導入がただのリストラで終わってしまわないよう、今後のみずほグループの経営手腕に期待したい。(提供:THE OWNER

文・森琢麻(M&Aコンサルタント)