本記事は、堀内都喜子氏の著書『フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか』(ポプラ社)の中から一部を抜粋・編集しています

2年連続で幸福度1位の理由

世界幸福度ランキングは、今年も欧州勢が上位独占?2020年版が公表
(画像=lzf/stock.adobe.com)

「幸福度ランキング世界一はフィンランド!」

2018年にフィンランドは、幸福度ランキングで世界一になった。これは、国際幸福デーの3月20日に、国連が毎年発表しているランキングだ。ここ数年、デンマークやノルウェーなど北欧勢がトップをかざり、フィンランドも常に上位にあった。

そういう意味では、フィンランドがいつトップになっても不思議はなかったのだが、海外メディアの中には「冬にマイナス30度にまでなるし、太陽がほとんど出ない時期もある寒くて暗い国がどうして?」「街を歩いている人たちはハッピーそうに見えないけれど?」「自殺が多いんじゃなかった?」「ポーカーフェイスのフィンランド人が?」と驚きの声もたくさんあった。

フィンランド人に聞いてみても「なんでかなあ?」という反応が多い。もともとフィンランド人はどちらかというと自虐的で、自慢することも苦手で、褒められると居心地が悪いと感じる人も多い。フィンランドの友人たちに「世界一幸福な国、おめでとう」と言っても、「どこが?そんなんじゃないよ」「ランキングがおかしいのでは?」と返ってくる。

それでも、翌2019年に発表された同じランキングでも2年連続1位になったのだから、それがまぐれでもなんでもなかったことが証明されている。ただ今もフィンランドの街でこのランキングの結果について聞けば、きっと「そんなことないよ」と答える人が多いだろう。

けれど、やはり1位という事実にその秘訣を知りたくなるのは世の常だ。私もフィンランド人の同僚たちとその理由はなんだろうかと話した。何人かは「安定」という言葉を挙げた。政治的、経済的に国が安定していて、大きな波に襲われる恐れがない。

それに、どんな環境で生まれ育っても、どんな地域に住んでいても、教育や福祉サービスの機会が平等にあって、最低限の生活は保障されている。人生の初めから終わりまで一貫して安定していて、そこから生まれる安心感が幸せにつながる。

また、ある同僚は、「バランス」と答えた。ワークライフバランスがとりやすく、仕事、家庭、趣味、それぞれを楽しむことができる。また、冬が長く厳しい国にもかかわらず、屋内はそれを感じさせないほど暖かく、広くはなくとも狭すぎない、それなりに快適に過ごせる住環境。

家で仕事のあとや休日にホッと一息つく時間を持てること。たとえお金持ちでなくとも庭付きの家に住み、その庭に花を植え、子どものために砂場を作ったり、トランポリンを置いたりして子どもたちを楽しませられる。そのすべてをバランスと表現した。

では、1位の理由を知りたがる日本のメディアに、インタビューでフィンランド人の同僚はどう答えたか。彼が挙げたのは「身近な自然」。日本のメディアの人たちは、この答えに少し戸惑ったようである。ポカンという表情をしていた。確かにちょっと理解しにくいかもしれない。でも住んだことのある人には、この理由も納得できるものである。

「ゆとり」に幸せを感じる

日本もフィンランドも面積に占める森林の割合はほぼ同じだ。日本も美しい自然が溢あふれる国である。ただ自然が遠く感じられる。特に東京などの大都市に住んでいると、電車を乗り継いだり、車を長時間運転したりして、やっと森や湖に行きつく。それに距離だけでなく、それを楽しむ時間はなかなか平日にはとりづらい。

一方、フィンランドでは、平日仕事が忙しくともほぼ定時で家に帰ることができ、そこから湖畔や森を散歩する時間もとれる。夏になれば、1か月ある夏休みを自然の中にあるサマーコテージでのんびり過ごすこともできる。「身近な自然」の答えには、地理的なこと以上に、なによりも「ゆとり」の意味が含まれている。

私も、フィンランドの自然とゆとりに幸せを感じている一人だ。フィンランドに行く度、湖畔に立つ。聞こえてくるのは水がチャプンチャプンと岸をうつ音と鳥の声、そして風に揺れる木々の葉。

鴨の親子が泳いでいるのが遠くに見える。思いっきり深呼吸をしてみる。鼻から入った空気が肺を満たし、ハーッと吐く息とともに体の中のモヤモヤが体外に出ていく。そして「ただいま」とつぶやく。

日本に拠点を移して何年もたった今でも、フィンランドで湖畔に立って湖を見渡すたび、「あー帰ってきた」という気分になる。湖は決していつも同じ所ではないし、季節も初夏だったり、真夏だったり、秋だったりする。

それでも、湖畔に立って深呼吸をすると、満員電車や雑踏、いつも手から離せない携帯やメールの山、睡眠不足の日々が消えていき、酸素が久しぶりに脳の隅々に行きわたったかのように感じられる。

「幸せ」とはなにか

そもそも幸福度ランキングとはなんだろうか。これは、各国のGDP、社会的支援、健康寿命、人生の選択の自由度、社会的寛容さ、社会の腐敗度といった要素に、国民に今の幸せの評価を聞いた調査、および全項目が最低である架空の国(ディストピア)との比較といったことを元に総合的な幸福度を測っている。

7回目となる2019年は世界の156ヵ国を対象に調査をした。日本はちなみに2018年に54位、2019年は58位。トップ10のうち半数は北欧諸国が占めている。

国民の幸福度の評価は主観に頼る部分があるので、それぞれの国の国民性や文化の違いは多少なりとも影響する。ただ先述したようにフィンランド人は自虐的、批判的に自分たちのことを見るので、それでも1位になったということは、他の項目も含めて総合的に指標が高かったということがわかる。

だが、幸せとはなんだろうか。このランキングでは「自分にとって最良の人生から最悪の人生の間を0から10で分けた時、今、自分はどの段階にいると感じるか」という質問を各国の人たちにしている。決して、ハッピーな気分かどうか聞いている訳ではない。それぞれが思う「最良の人生」や「最悪の人生」と比較して、今の人生はどこにあるかということだ。

自分が思い描く最良や最悪の人生というのは、個人や文化、環境によって全く違うだろう。お金を重視する人もいれば、家族、自由度に価値を感じる人もいる。私の同僚のように自然への距離が近く、それを楽しむゆとりを求める人もいる。価値観が何であれ、自分の理想や希望に近い、自分にとって有意義な人生がおくれているかどうかを幸福度として測っている。

だから、フィンランドに住んでいる人たちが「今、とてもハッピーな気分」と感じているかどうかはわからないが、ランキングによれば自分の価値観にあった有意義な人生をおくっている、人生にある程度満足している人が多いということになる。

幸福度ランキングについて分析している様々な記事には、北欧諸国がランキングで上位にあるのは、社会保障が手厚く、質の高い教育をしていること、さらにジェンダーギャップや経済格差の少ない平等な社会が築けていることが理由として挙げられている。

ただ、日本だって教育や生活、経済、健康寿命で言えば、それなりに高いはずだ。だが、結果をよく見てみると、日本は人生の選択の自由度(64位)、社会的寛容さ(92位)という部分で順位を下げてしまっている。

自分らしく生きていける国

選択の自由度、これは私がフィンランドに関わって、よく感じていることである。日本もお金があり、適正年齢であれば選択肢はいろいろとある。だが、お金がなかったり、年齢が高かったり、結婚していたり、女性だったりすると、選択肢が狭まったり、窮屈に感じたりすることはないだろうか。フィンランドは選択肢が多くあるというよりも、選択を限定する要素が少ない。

勉強、就職、結婚、出産、転職と様々な人生の場面で、何かを選ぶ必要がでてくるが、本人の事情や希望、ニーズに応える選択肢があり、年齢、性別、家庭の経済状況といったことは、たいした障壁ではない。

それに、選ぶものを1つに絞る必要はなく、好きでやる気があれば、AもBも選択していい。趣味もたくさん持っていいし、文系と理系の分野で学位をとってもいいし、仕事もプライベートも大事にしていい。その時に、年齢や、経済的状況、性別に捉われる必要はない。

皆が自分の考える最良の人生に向かって必要な選択をし、実現していく機会を平等に持っている。もちろん、全ての希望や願いが叶かなうわけではないが、うまくいかない時もやり直したり、新たな希望をみつけ、それに近づいていくことができる。

自分らしく生きていくことができる国だと私は強く感じている。それが、自分の人生にある程度満足し、有意義な人生をおくることになり、結果、このランキングでいう幸せという回答につながっているのではないだろうか。

フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか
堀内都喜子(ほりうち・ときこ)
長野県生まれ。フィンランド・ユヴァスキュラ大学大学院で修士号を取得。フィンランド系企業を経て、現在はフィンランド大使館で広報の仕事に携わる。著書に『フィンランド 豊かさのメソッド』がある。

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