本記事は、堀内都喜子氏の著書『フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか』(ポプラ社)の中から一部を抜粋・編集しています

エクササイズ休憩もある

コーヒーの飲み方
(画像=pathitta1986/Shutterstock.com)

現代の仕事においてパソコンに向かっている時間は長い。しかも時間内にできるだけ多くの仕事をこなそうとすると、その分、ずっと同じ姿勢で、根を詰めすぎてしまうこともある。

フィンランドでも休憩時間をいかに効果的にとるかが考えられてきた。その1つの例が、「タウコユンパ」。タウコは休憩、ユンパはエクササイズの意味である。

タウコユンパで思い出すのは、私が留学していた2000年代初頭の大学内での光景だ。午後2時ごろになると、研究室の廊下をスポーツインストラクターが「ピーッ」と笛を吹いて回る。

するとそれぞれの個室から人がでてきて廊下の踊り場に集まり、インストラクターの声に合わせてストレッチや軽い運動が始まるのだ。時間にして5分もかかってなかったと思う。終わるとまたそれぞれのオフィスに戻っていく。

一般の企業や省庁でもこの習慣はある。友人の企業ではピラテスのインストラクターの資格を持っている社員が音頭をとって、毎日10分、簡単なエクササイズをしている。大使館では、週に一度、スティックエクササイズと呼び、ポールを使ってストレッチをする。

プロや外部のインストラクターがいるわけではないので、自主的に声をかけたり、誰かがボランティアで号令をかけて動きを指示したりする。

こういったエクササイズは決して強制的なものではなく、タイミングが合わなければ参加しなくともいいし、気分が乗らなければやらなくともいい。だがたった5分でも、いい気分転換になるし、何よりも凝り固まった体がほぐれるのは気持ちがいい。

フィンランドの労働衛生研究所が2019年4月に発表した職場でのエクササイズアプリの実証実験によると、職場で2〜3分のエクササイズを、1日3回アプリを通して半年間体験してもらったところ、明らかに座りっぱなしの時間の減少につながった。

そして仕事の疲れからの回復促進、体の緊張や痛みの緩和、エネルギーの増進、疲労や物忘れの緩和といった効果を生んだ。さらに生産性もあがったことで組織にとっては経済効果もあり、参加者にとっては皆で一緒にエクササイズに取り組むことで、一体感も高まったそうだ。

コーヒー休憩は法律で決まっている

タウコユンパ以外にも、フィンランドにはカハヴィタウコ=コーヒー休憩という文化がある。実は、フィンランド人の一人当たりのコーヒー消費量は世界トップクラスで、一日に数杯飲むことも珍しくない。

エスプレッソやカフェラテといった凝ったコーヒーは伝統的にないが、一日に何度かシンプルな浅煎りコーヒーを楽しむ。その際にコーヒーと共にシナモンロールやケーキ、サンドイッチなど、おやつを一緒に味わうこともある。

ある日、フィンランドの友人と仕事の話をしていた時、効率アップのカギとして真っ先にあげたのがコーヒー休憩だった。「職場でのコーヒー休憩は本当に大切だと思うの。なんてったって法律でも決められているぐらいでしょ。脳にも時に休みが必要。いい息抜きになって、休憩の後は仕事に精力的に向き合える」と話していた。

確かに、コーヒー休憩の時間をとることは、雇用者が労働者に対して保障しなければならない法律上の決まりである。業界によって頻度や長さは違うが、10〜15分のコーヒー休憩が勤務時間に含まれる。例えばトラック運転手は8時間の勤務時間中、2回のコーヒー休憩が可能だ。製紙業界では、10分の休憩を1日2回取ることになっている。

さらに、バスの運転手でも、大学職員でも、公務員でもオフィスワーカーでも、こういったコーヒー休憩の決まりが仕事の契約に含まれる。もちろん、これも強制的なものではなく、各自が好きな時にとってもいいし、仕事をしながら常に何か飲んでいるから、必要ないと言う人もいる。

コーヒー休憩はコミュニケーションの場でもある

逆に、職場によってはある程度、コーヒー休憩のタイミングを決めているところもある。マグカップを持ちながら同僚とリラックスした雰囲気の中で仕事の相談や、プライベートの話などをすることで、お互いのことがわかるようになったり、新たなアイデアを生むきっかけにもなったりするからだ。

私の職場でも、みんなの発案で、週に一度はコーヒー休憩を一緒にとるようにしている。といっても、全員が来るわけではないので人数は多くないが、他部署の人の仕事について話を聞いたり、フィンランドと日本の文化の違いを語ったりすることで、会議ほど堅苦しくなく、良い情報共有の場となっている。

つまり、コーヒー休憩は、作業の手をとめて休みをとるという意味でも重要だが、それと共に、社内のコミュニケーションの場としても役立っている。そんなコーヒー休憩は、ますます重要度が増しているようだ。

ある友人は「私が働く会社は、コーヒー代を以前は持ってくれなかったけれど、最近はカバーしてくれるようになったのよ。しかも最近オフィスに自動のドリンクマシンが設置されて、いろいろなコーヒーや、ココアやお茶も選べるように。もちろん無料でね」と言っていた。

別の友人も、「最近、職場で嬉しかったのはコーヒールームの改装。もっとくつろげるようにと、ソファを置き、絵を飾り、植物を置いたりして、本当にいい雰囲気なんです」と言う。

いかに快適な空間を作るか

フィンランドにはコーヒールームと呼ばれる休憩室や、休憩コーナーを設けているところも多い。殺風景な椅子とドリンクマシンというよりも、最近はリビングルームのようなくつろげる空間が人気だ。学校の職員室も、コーヒールームに近い作りになっている。書類や作業机はなく、コーヒーの香りが漂い、ゆったりした気分で同僚と話ができるようになっている。

在宅勤務やフレックスが増えた今日ではあるが、やはり直接顔を合わせてコミュニケーションをとる重要性も見直されている。会うからこそわかることや、生まれる化学反応もある。

そこで、いかに快適で、来たくなるようなオフィスやコーヒールームにするかというのも、考えられるようになってきた。そのための改造には、社員の声も多く取り入れられていて、みんなが望む空間づくりに組織や企業も努力している。

ちなみに、コーヒー休憩は大切にされているフィンランドだが、お昼は伝統的にそれほどではない。業界にもよるが、もともと30分程度のところが多く、ササッと食べて仕事に戻ることが多い。

とはいっても、全く楽しみにしていないわけではなく、大きい会社であればビュッフェ式の食堂がついていて、そこで一息つくことを楽しみにしているし、近くにレストランなどがあれば、たまに外食することもあり、その場合は企業側がクーポンを出してくれるところもある。

日本のような弁当文化はないが、家からサンドイッチや残り物を持って来て食べている人もいる。

だが、最近は定時に帰るためにも、お昼は簡単に済ませるか、ほとんど取らずに仕事に集中する人がいるのも事実である。私の友人は「お昼にあまり食べると、眠くなったりだるくなったりして、午後の効率が下がるから」という理由で、コーヒー休憩時にちょっとしたパンを口にしたり、ヨーグルトを食べるぐらいで済ませている。

フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか
堀内都喜子(ほりうち・ときこ)
長野県生まれ。フィンランド・ユヴァスキュラ大学大学院で修士号を取得。フィンランド系企業を経て、現在はフィンランド大使館で広報の仕事に携わる。著書に『フィンランド 豊かさのメソッド』がある。

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