本記事は、堀内都喜子氏の著書『フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか』(ポプラ社)の中から一部を抜粋・編集しています

「良い会議」のための8つのルール

会議
(画像=fizkes/Shutterstock.com)

5年ほど前に、フィンランドの有名企業13社が参加する「良い会議のためキャンペーン」というのがあった。そこが提案するルールは、以下の8つだ。

会議の前に:
1 会議の前に本当に必要な会議なのか、開催の是非を検討する。
2 もし必要なら、会議のタイプと、相応しい場所を考える。
3 出席者を絞る。
4 適切な準備をする。細かな準備が必要な時もあれば、そうでない時もある。
 議長は、参加者に事前に通知し、必要に応じて責任を割り当てる。

会議のはじめに:
5 会議のはじめに目標を確認。会議が終わった時にどんな結果が生まれるべきか。
6 会議の終了時間と議題、プロセスの確認。それがアイデア、ディスカッション、意思決定、コミュニケーションのどれであるかを参加者に知らせる。

会議中に:
7 会議の議論と決定に全員を巻き込む。一部が支配するのではなく、各自の多様性(外向的/内向的)を考慮に入れる。少人数、隣同士との議論を通して意見を表明する機会なども作る。

会議の終わりに:
8 結果や、その役割分担をリストアップし明白にする。

さらに、出席者も進行役も時間を厳守すること、議論しやすい雰囲気をつくること、時にはオフィスの会議室以外で会議をしてみる、会議に集中するために携帯やタブレットの電源をオフにする、コーヒーだけでなくフルーツなどのおやつが話し合いを活性化させることもある、などのヒントも書かれている。

いずれも、シンプルなことばかりで、日本でも当たり前のようにされていることもある。だが、多くのフィンランド人が日本の会議で文化の違いを感じるのは、日本ではなかなか本題に進まず、決定が行われないこと。もう1つが、会議中でも目を閉じている人が時々いることだ。

フィンランド人からすると、会議は議論をして、最後に何かしら決定や結果を求める場所で、自己紹介や資料を読みあげる場所ではないのである。

このように正論を述べてみたが、フィンランド人がいつも効率よく充実した会議をしているわけではない。話が脱線しがちだったり、ただ長いだけで何の結果も生まれなかったりした会議も数多くある。

これまでの経験から、会議は1時間で終わらせる!といった終わりの時間をきっちりと皆に認識させてから始めた会議はスムーズだったし、あとは進行役がいかに仕切れるかにもかかっていると感じている。

必ずしも会うことを重要視しない

さらに、日本とフィンランドの違いを感じるのは、日本人は関係作りを重視して、まず一回目は顔合わせ、その後何度も顔を合わせての報告を希望することが多いが、フィンランド人からすると挨拶だけの面談はいらないし、報告も基本メールか電話にしてほしいと考える点だ。

もちろん会ったからこそ発展することもあるし、顔を合わせる重要性はフィンランド人も知っている。ただ、会うと30分〜1時間は時間がとられてしまう。効率を考えると、たいした用件や議題もないのに、はたして会う意味があるのだろうかと感じてしまうのだ。だからこそ必ずしも会うことに必要性は感じないし、一度会ったら、その後はメールや電話でいいです、ということになる。

一方で、私がフィンランド人の会議や面談に立ち会って、少し残念に思うこともある。それはフィンランド人が、あまりスモールトークが得意ではなく、あっさりと挨拶と用件だけで終わりにしてしまうことだ。フィンランド人のスモールトークのなさは、よく海外から指摘されることだ。

しかも、用件が済むと「今日はありがとう。じゃあ!」と部屋から出てってしまう。用件が済んでいればまだいいが、話の途中で時間だからと席を立ってしまうこともある。

日本的には世間話をしたり、お客様を玄関までお見送りして……と考えるところではあるが、そういったことは、フィンランド人はあまりしない。もちろんフィンランド人でも個人差があるが、あまりにあっさりとしていて「あれっ」と思ったり、相手が失礼に思っていないかなとビクビクしてしまうこともある。その差はたとえるならば、バターケーキとカロリーゼロのゼリーほどの違いだ。

だが、冷静になって考えてみると、打ち合わせや面談が長引くことなく、サラッと終わるのは確かに効率がいい。「もう終わり?帰っちゃうの?」とフィンランド人の行動に驚かされる度、話が長引きやすい自分の行動を反省すると共に、少し見習おうと思うのである。

フィンランドの仕事文化に欠かせないウェルビーイング

フィンランドの仕事の文化を語る上で、欠かせないキーワードは「ウェルビーイング」(well-being)だ。フィンランド人はウェルビーイングという言葉をよく使い、重視する。ウェルビーイングとは、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念だ。

幸福という言葉で説明されることもあるが、うれしい、楽しいといった心理状態というより、ウェルビーイングは、心身共に健やかな状態にいることを指す。

仕事に限らず、学校生活のウェルビーイング、日常のウェルビーイングなど様々なところで使われる言葉だが、職場のウェルビーイングと言えば「心身の健康的な状態」をベースに、従業員のモチベーション、人間関係、会社へのいい意味での忠誠心、コミットメントの向上にもつながる言葉として使われている。

あるフィンランドの友人と仕事の効率の話をしていた時も「ウェルビーイン グは効率の大きなカギだと思うんです。早めに心身の問題に気づくことはもちろん、実際体調を崩す前に、予防的に行われる支援も大切です。しかも、それは会社だけの責任じゃなくて、社員自身も考えるべきこと。それによって、従業員の病欠や退職が防げるし、能力の低下も予防できます」と自然と話はウェルビーイングのことになった。

これまで紹介した、休みをきちんととること、フレックスタイムなどの柔軟な働き方、オフィス環境の改善、休憩のとり方、それはすべて社員や職場のウェルビーイングにつながる。会社は利益を生み出す必要があるが、従業員一人ひとりが心身共に健康的な状態であることが、会社組織としてもプラスに働く。

人件費が高く、休みや残業なしを考慮しなければならないフィンランドでは、従来以上に、生産性の向上、業務の効率化を求められるようになっている。

しかも、移り変わりの激しい現代では、新しいモノゴトを生み出していくことが必要で、イノベーション、創造性や革新性が求められる。それには社員や職場のウェルビーイングが充実していることが必須で、それがあるからこそ仕事に集中し、新たなアイデアもわいてくる。

フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか
堀内都喜子(ほりうち・ときこ)
長野県生まれ。フィンランド・ユヴァスキュラ大学大学院で修士号を取得。フィンランド系企業を経て、現在はフィンランド大使館で広報の仕事に携わる。著書に『フィンランド 豊かさのメソッド』がある。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます
ZUU online library
(※画像をクリックするとZUU online libraryに飛びます)