本記事は、堀内都喜子氏の著書『フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか』(ポプラ社)の中から一部を抜粋・編集しています

土曜日はサウナの日

サウナ部
(画像=Med Photo Studio/Shutterstock)

フィンランド人の家には一軒家や広いマンションであれば、大概サウナがある。友人宅は、よくアウトドアやスポーツを楽しむので、いつでもすぐサウナに入れるよう、24時間サウナが設置されている。

通常、サウナはスイッチを入れてから温まるのに30分から1時間かかるが、それを待つのが嫌な人向けの、常に温められていていつでも入れるサウナが友人の家にはあった。そこに入ってスッキリしてくつろぐ度、私も「あー週末!」と実感していたのだった。

フィンランドでは、土曜は伝統的にサウナの日だ。夕方に家のサウナを温め、家族で入って、その後にリラックスしてのんびりテレビや映画を見て過ごす。だからその時間になると古い家やサマーコテージから煙が上がりサウナを温めている様子がうかがえる。

「サウナ」は海外で最も普及しているフィンランド語だろう。フィンランド人のライフスタイルや文化を語るうえで決して忘れてはならない要素で、550万人の人口に対してサウナの数は200万とも300万とも言われている。

お風呂の感覚でどこの家にもあり、その代わりお風呂のバスタブはあまりない。アパートの各部屋の浴室に小さなサウナがついていることもあるし、それがない場合はたいてい共用サウナが地下や屋上についている。

私が留学していた時は、学生アパートに共用サウナがあり、さらに研究棟や学部にもサウナがあった。また、職場にもサウナがあることは珍しくない。従業員が仕事帰りに楽しめるようになっていたり、お客様の接待用もある。

高齢者施設や刑務所にもサウナはあるし、無人島にも船やボートで来た人が使えるサウナが存在している。

アイスホッケー場に行けば、試合を見ながら入れるVIP観客用のサウナ、観覧車やリフトのワゴンがサウナになっているものもあるし、氷でできたサウナ、持ち運びが容易なテントサウナ、サウナがついているバスや船まである。逆に、サウナのないところを探すのが大変なぐらいだ。

9割以上の人がサウナを楽しむ

サウナやサウナに似たものは世界各国にあるが、こんなにも生活の中にサウナが浸透している国はないだろう。

初めて旅した時も行く先々でサウナに誘われた。大学に入れば留学生歓迎会がサウナで開催され、住み始めた学生アパートでも共用のサウナで他の住人と交流した。そのせいか今ではフィンランドのサウナが大好きで、フィンランドに行く度に欠かさず入る。

サウナは本来、体を温め、汗を流し、体をきれいにする場所だ。日本であればお風呂がその役目を担っているのだが、フィンランドは普段はシャワーのみ。そして週に1〜2回サウナを楽しむ。9割以上のフィンランド人が定期的にサウナに入っているそうだ。

日々のサウナの他に、クリスマスイブにはサウナに入って心身ともにきれいにする。クリスマスと同じぐらい大切なお祝いの夏至には、コテージや田舎に行き、一年で最も長い太陽の光を存分に味わいながら、サウナに入り、リラックスして過ごす。一晩中友人や親せきたちと語らいながらサウナとお酒と泳ぎを楽しむ人も多い。

さらに伝統的にフィンランドでは結婚式の前に花嫁も花婿もサウナに入って身を清める習慣があった。現在では、結婚式の数日前に開催される男女別の独身最後を楽しむパーティーで、サウナを楽しむことが多い。特に花嫁は女性の友人たちとサウナに入り、エステを楽しんだりする。

フィンランドサウナの魅力

フィンランドにはコテージ(別荘)文化がある。普段暮らす家とは別にセカンドハウスを森の湖畔や海辺に持つ。週末や夏期休暇に普段の生活をリセットしたり、自然をより身近に感じてリラックスするための場所だ。そしてそこにはサウナは欠かせない。もともとコテージを作る時はサウナ小屋から作ったと言われているぐらいだ。

最近の家のサウナは電気で温める方式だがコテージや田舎にある伝統的なサウナは、薪をくべる。「薪で温める方が、空気が柔らかい」と、よくフィンランド人は言う。

そしてサウナストーブの上の熱くなった石に水をかける。すると「ジュワー」という音と共に猛烈な熱さの蒸気がたち、部屋中が温まる。この蒸気は「ロウリュ」と呼ばれ、サウナの代名詞でもある。

だからフィンランドでは「よいサウナを!」の意味で、「ヒュヴァー(=良い)・ロウリュア」と言うし、サウナから出てきた人には「ロウリュはどうだった?」と聞く。「良いロウリュだった」と言えば、気持ちいいサウナだったという意味になる。

フィンランドサウナの魅力は、サウナ部屋の木の香りに、ヴィヒタ(白樺の若い枝を束ねたもの)のさわやかなアロマの香り、さらにロウリュ、そして外気浴だろう。コテージや田舎のサウナであれば、熱くなって汗をかいたらそのまま外にでて湖や海にドボンと入る。

夏でも水温は驚くほど冷たく15度にも達していないことがあるが、ギュッと体を冷やしてあがると、スッキリとした気分になる。裸で水辺を泳ぐ鴨と同じ目線でゆったりと泳ぐと自分が自然の一部になったようで、なんとも気持ちがいい。水に入らなくとも、木々や自然、空を見て涼むのもいい。

街中の家のサウナだとなかなかそういう訳にもいかず、バルコニーに出るか、冷たいシャワーを浴びるぐらいしかできないが、熱いサウナと外気浴やクールダウンを楽しむのが本来のサウナなのである。そして、十分体が冷えたら、またサウナに入る。

冬はどうするのか。新雪の上で横になって、バタバタと手足を動かせば、スノーエンジェル(雪の天使)ができる。雪の上でゴロゴロとするのも楽しい。もちろん心臓が止まりそうに感じるほど雪は冷たい。

さらにアヴァントもある。これは、凍った湖や海の氷をくりぬいて入ることだ。これを外国人がするとフィンランド人からは「勇敢だ」と一目置かれるようになる。私自身はこれまで4〜5回、アヴァントを経験している。

「フィンランドで冬にサウナに入ったら、一度はアヴァントを経験しないとね!」とフィンランド人がいつも言うから、するのが当たり前だと思ったが、実はフィンランド人でも体験していない人はたくさんいる。理由は「寒いから」「冷たいから」。人に勧めといて、それはないでしょう、と突っ込まずにいられない。

サウナは一人でも、誰かと一緒でも

サウナには一人で入ってもいいし、誰かと一緒に入ってもいい。一人の時は静かに楽しめるし、誰かと一緒の時は、語り合って交流することもできる。普段シャイであまり社交的ではないフィンランド人だが、あるフィンランド人は「サウナは唯一、素面でも知らない人と気軽に話ができるところ」と語る通り、サウナの中では自然に会話が生まれる。

石に水をかける時、「かけてもいいですか」や「熱くないですか」と話しかけたり、外気浴をしながら「天気がいいね」なんて話ができる。友人たちと入っている場合も、サウナの中にいられるのはたかが5分だったとしても、外気浴とサウナを何度か繰り返すうちに、1〜2時間はあっという間に過ぎていく。

では、フィンランド人にとってサウナとはどんな場所なのだろうか。ここ最近、日本で公開されるフィンランド映画を見ていると、必ずと言っていいほどさりげなくサウナの場面がでてくる。

戦場から帰ってきて家族とくつろぐシーンでサウナに入っていたり、戦争中であっても皆でサウナに入って湖で泳いだり、日常の描写にサウナは欠かせない。たとえ非日常な場所やストーリーであっても、サウナや外気浴のシーンが観客に安心感を与えているように感じる。

家のサウナはリラックスの場であり、家族との会話の場である。家族は男女関係なく裸で一緒に入っても不思議ではない。つい60年ほど前、まだ出産が自宅で行われていたころは、サウナが出産の場所であった。もちろん80度に部屋を温めていたわけではない。サウナは清潔で、水もお湯も手に入り温かい場だったため、都合が良かった。

同じ理由で、サウナでマッサージをしたり、人が亡くなった時はサウナで遺体を清めたりしていた。つまり、生の旅路の始まりと終わりにサウナがあったのだ。また麦芽を製造したり、穀物を乾燥させたりといったことでも使われていた。今でも、蒸気がひいた後に洋服を干したりしてサウナの利用範囲は広い。

サウナは接待やおもてなしの場にもなる

では、なぜ職場や学校にもサウナがあるのだろうか。まず1つは、仕事終わりにさっぱりしたり、リラックスできるようにということ。

私の職場にもサウナがあるが、希望する職員が何人かいれば、サウナを温めて仕事終わりに入る。だが、もう1つ仲間との交流やおもてなしの場としての役割もある。

例えば大使館の場合、大使専用の広いサウナがあり、接待やおもてなしの場として使われている。定期的にインフルエンサーやお世話になった方たち10人ほどを招いてサウナの夕べを開催するのだ。サウナに入り、外気浴を楽しみ、食事をしたり、お酒を飲んだりして数時間を共に過ごすことで、お互いの距離がグッと縮まり、仲良くもなれるし、フィンランドファンにもなってもらえる。まさに裸のつきあいだ。

このサウナ外交は、日本だけでなく、アメリカのワシントンや各国の大使館で行われているし、本国でも政治や外交の場面でフィンランドと海外のリーダーが共にサウナに入って、交流することは有名な話である。

私が以前勤めていたフィンランドの企業でも、サウナは常に接待の重要なツールとして使われていた。会社の屋上には立派なサウナがあり、日本をはじめ海外からお客様が来ると会議の後に共に入り、裸のつきあいと食事やお酒を楽しんだ。

大事なお客様を迎えて時間がある時は、会社が持つ豪華なコテージのサウナに連れて行くこともあった。このコテージへは船で30分ほどかかる。バスでも行けるのだが、船の上でも軽く飲みながら音楽と景色を楽しみ、コテージに着いたら、サウナに入る。そのサウナは20名近くが入れるようなかなり巨大なもので、あつくなって外にでれば目の前は広いテラスと湖。とにかく気持ちがいいのだ。

最近でも、フィンランドでの研修時、ゲットトゥギャザーと呼ぶ初日の懇親会は、今ヘルシンキで人気の公衆サウナ「ロウリュ」で行われた。そこは水着を着て男女共に入るものだが、一緒にサウナで語らいアヴァントを楽しむことで、変な緊張や距離もなくなっていった。

考えてみればあまりよく知らない人と裸のつきあいをすることは、少し不思議な感覚ではあるが、そんなのも最初だけのことだ。サウナの中は暗く、蒸気もあるため、それほど相手の裸が見える訳ではない。基本は裸で入るフィンランドでも異性がいたり、自分の裸をさらすのが嫌な場合は、水着をつけてもタオルを巻いてもいい。

サウナには不思議なマジックがある。そこでは誰もが洋服だけでなく、地位も肩書も全てを脱ぎ去り、大統領だろうが一般人だろうが高齢でも子どもでも、皆が一個人として存在する。つまりとても平等な場所で、その空間を一緒に楽しめるのだ。

フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか
堀内都喜子(ほりうち・ときこ)
長野県生まれ。フィンランド・ユヴァスキュラ大学大学院で修士号を取得。フィンランド系企業を経て、現在はフィンランド大使館で広報の仕事に携わる。著書に『フィンランド 豊かさのメソッド』がある。

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